第6話 お金の両替
商業ギルドの別室は、お得意さんの特権のようだ。普通は窓口対応なんだって。おじさん、すごい。
「今日は、いつもの魔石の納品で宜しかったでしょうか? 普段より、ちょっといらっしゃるのが早いですよね?」
「ああ、今回は、このミアちゃんが魔法学園に入学することになったから、街まで連れてくるついでに納品もしちゃおうと思って」
「魔法学園! わぁ〜おめでとうございます。」
「へへ、ありがとうございます」
綺麗なお姉さんに褒められると、照れちゃう。
「それで、今回は魔石の納品と、あとはミアちゃんのお金の両替をお願いしたい」
「両替ですか……。それはもちろんできますが……」
普通の人は両替なんて必要ないので珍しいケースなんだそうだ。
「とりあえず、まずは魔石の納品だな」
おじさんがバッグからザラザラと石を出す。どうやらこれは村のお金になるらしいのだ。
「あ〜! この石、うちの台所にいっぱい転がってたやつじゃない? 全部魔石だったの?」
「いっぱい……転がってた……?」
「あ〜。ミアちゃんの家は特殊だからな。うん、そういうこともあるかもしれないな」
ちなみに魔石の買取額は結構お高くてビックリしました。うちの村、結構、お金持ちなのでは? お金使うところないけど。
「さて、次は両替ですね。いくら両替しますか?」
お姉さんに言われて、鞄をゴソゴソする。
大金貨一枚が、金貨十枚だっけ? うーん。学校に着くまでにいくら必要かなあ。着いた後も身の回りのものを揃えるのにお金、必要だよね? 今のうちに両替しちゃった方が後々楽だよねぇ。
一枚ずつ、テーブルに例の大金貨を出して行く。
「「ストーップ!」」
四枚目を出そうとしたところで、おじさんとお姉さんからストップがかかった。
「な、なんなんですか! これは第七王女の記念硬貨じゃないですかぁー! なんで普通にテーブルに出してるんですかっ? しかもいくら両替するつもりですか!」
「え、えっと……。魔法学園に行くまでの旅費と、向こうでの生活費をここで両替しちゃおうと思って」
「魔法学園での学費と生活費は、無料です。全て国が負担しています。なので、そこまで生活費は必要ないのですよ。自分の娯楽費だけですね。旅費も、一枚両替しておけば十分ですし、向こうの商業ギルドでも両替できますよ?」
学費と生活費が無料! それは素晴らしいことを聞いた。無料、素敵。万歳。
「じゃあ……。二枚、いや、やっぱり三枚、両替します!」
だって、やっぱり両替のためにギルドに行くの面倒だもんね。
「……今の話、聞いてたかしら? まあ、いいわ。三枚ね。」
「屋台で買い物したり、宿代を払ったり、日常生活でいい具合に使えるように両替してください」
「ちなみに、これはプレミアのついている硬貨よ。オークションとかに出せば、もっと高い値段がつくけれど、ここでは高く買い取れないわよ? せいぜい両替手数料を無料にできるくらいだわ」
「それで問題ありません。 お願いします」
「じゃあ、ちょっと両替してくるわね」
お姉さんが席を立ち、向かった先、個室の外でギルド職員のざわめきが聞こえた。
「無事に両替できそうで良かったです!これで、しばらくお金に困ることもなさそうです!」
「ミアちゃん、もうあの硬貨は外で出しちゃダメだぞ」
「は〜い。 でも、なんでそんなに珍しいものが、私の鞄にいっぱい入ってたんでしょうね? 母さんたち、どこで手に入れたんだろ」
さっきの魔石買取額を見ても、我が家って、実はお金持ちだったのでは? まあ何度も言うけれど、お金を使う場所なんて無いから貯まっていく一方だったのかもね。
お姉さんと、同僚の方々がお金をトレイに載せて戻ってきた。同僚さん達は、何も言わずにお金をテーブルに置いてサッと出て行った。おお。根掘り葉掘り聞かないところがプロフェッショナル。
テーブルの上が硬貨でいっぱいだ。
「では、これが先程の大金貨三枚分を両替したものよ。このトレイが魔道具で、値段がここに表示されている通り大金貨三枚分だから、安心してね。でも、これどうやって持ち歩くの? すごく重いわよ?」
「あ、魔法鞄があるので大丈夫です」
そう言って、私は鞄を開き机の端に設置。ザラザラとお金をかき集めてはバッグに流し入れた。なんていうか、とってもシュールな光景だが、これが一番速い。
お姉さんは呆然とした顔、おじさんはヤレヤレ、と呆れた顔をしていたけれど、私はようやくお金を両替できて満足だ。この魔法鞄は本当に便利だ。確かに、なんでも入れたくなっちゃう父さん母さんの気持ちが分かってきた。
「さて。これで用事は全部かしら? ミアちゃんは、いつ街を発つの?」
気を取り直したお姉さんが明るい声で言う。
「できるだけ早いうちに発とうと思っています。なるべく早めに学園周辺に着いておきたいので」
「あら、それならまだ旅程は決めてないのね? 確か、今日魔法学園方面に向かう乗合馬車が出る予定だったような……。ちょっと確認してきてあげるわ」
「ありがとうございます!」
ここからは馬車なのか。馬に乗っているよりはお尻が痛くなくて、良いのかな?
待合室でお姉さんを待っていると、お姉さんが走って戻ってきた。
「ミアちゃん大変! 馬車、あと十五分で発つみたいよ。次の馬車は一週間後だけれどどうする?」
「えっ! それなら乗ります!」
「そうだな、荷物は全部、そこに入ってるんだろう? 宿も、朝に一度チェックアウトしたもんな」
「じゃあ、ミアちゃん早く早く! 停留所は一階だから、案内するわ」
パタパタと慌てて皆で一階へ向かう。ここが馬車の停留所になっているのかあ。
「待って待って〜! この子も追加でお願いするわ。まだ空きはあるわよね?」
「おお、大丈夫だぜ」
「料金は、ギルドに請求してくれて構わないわ。」
御者さんとの手続きはお姉さんが全部してくれた。ありがたい。これもプレミアコインのおかげだ。
でも、両替したお金を使えなくて残念だった気もする。あっ! おじさんに宿のお金、返してない!
「おじさん! 宿代返すの忘れてました。危なかったです。銀貨三枚でしたよね」
鞄をゴソゴソ。わあい。ついにお金を使えるぞ!
「お、ミアちゃんありがとう。別に返してもらわなくても良かったんだけど……。なんか嬉しそうだから、このまま貰っておくね。」
「はい! 初めての支払いですから」
馬車の搭乗の手続きが整ったみたい。出発の時間だ。
「おじさん、ここまで送ってくれてありがとうございました。お姉さん、色々お世話になりました」
「気をつけて行ってくるんだぞ。まあ、万全の装備っぽいから大丈夫だと思うけどな」
「新生活、楽しんでね」
名残惜しいが、他のお客さんを待たせるわけにも行かないので馬車に乗り込む。
中にはすでに、お客さんが乗り込んでいた。
「こんにちは。ミアです。旅の道中、よろしくお願いします。」
「さ、出発するぞー!」
御者さんの元気な声が響いた。