第19話 獣人差別には猫パンチ
買取カウンターにはメガネのおじさんが座っていた。
「買取、お願いしま〜す!」
「おやおや、お嬢ちゃん、何を持ってきたんだい?」
「旅の途中で採ったものを持ってきました。どれがいくらぐらいで売れるのか分からないから、色々と出してもいいですか?」
「じゃあ、まずはこのトレーに一種類ずつ出しておくれ」
そう言われて出された買取トレーに、食べれるキノコに毒キノコ、ローズマリー、オレガノ、レモングラス、木の実や果物を載せていく。
最後に、金色さくらんぼも一つ。
あっ、魔猪のお肉のサクと、魔石もね。
ちなみに、お肉はスライムラップに包まれている。魔法鞄なので、他のものにくっつくわけじゃないので衛生的に問題はないんだけれど、気分的に生肉を放り込むのって嫌じゃない?
そこで困っていたら、ライくんが一度お肉を身体に取り込んだと思ったら、出てきたお肉には膜がついてたの!
そのまま煮ても焼いても食べれるし、剥がしてその辺にポイ捨てしてもすぐに地面に消えちゃう可食エコラップなのだ。スライム最強説よ。
買取カウンターのおじさんは一通り目を通してビックリし、「この肉は、何に包まれているんだね?」と聞かれたので、スライムエコラップの説明をしておいた。
そして、どれもとても状態がいいと褒められた。嬉しい!
特に高く売れたのは、意外にも毒キノコだったので全て出しておいた。私には使い道はないけれど、毒と薬は表裏一体って言うもんね。薬に……使うんだよね?
金色さくらんぼは、前情報通り、とっても高級でした。でも、幸いお金に困っているわけではないから、他は納品せずに自分たちで食べよう。
買取額は全て、ICカード、……ではなくて、ギルドカードに入れてもらった。これでお買い物はぴっ!です! ヤッター!
買取の後は、ヒマリと依頼掲示板を見にいってみる。
「ボク、せっかくだから依頼を受けてみたいな」
「ん〜。簡単なのがあったら受けてみよっか」
銅級の中でもさらに初心者向けの掲示板があり、ここは冒険というよりはお手伝い募集掲示板のようだ。
「家の掃除手伝い、草むしり、収穫手伝い、お店の売り子、動物のお世話……。動物のお世話!」
「ミア、動物のお世話がいいの?」
「うん! これがいい! どうかな?」
「なんの動物かは書いてないね。受付で詳細を聞いてみよう」
そう言って、依頼をボードから剥がして受注カウンターに並ぶ。朝だから、そこそこ混んでいる。
並んでいると、またうるさい声が聞こえた。「ちびっこが冒険者なんて世も末だな」とか言っている。やっぱり無視をしていると、段々と近づいてきた。面倒くさいよ〜。
色々と聞き流していたけれど、「大体、なんで獣人がいるんだよ。ここは人の場所だぜ」と言ったところで、我慢できなくなり、キッと睨み付ける。初めて目に入れたそいつは、少し年上に見える少年だった。周囲には申し訳なさそうなお付きの人たちがいる。
「どういう意味ですか」
「ああ? ようやく反応したか。言葉の通りだろ。獣人は亜人だぜ。俺みたいな人間様に仕えるべきだ」
彼がそう言った途端、部屋のあちこちからチクチクする殺気が飛んできた。ひえぇぇ〜。周りを見ると、獣人さんはもちろん、人間の冒険者さん達も怒っていた。周りの反応を見る限り、差別をする人の方が低能という感じだ。
ちなみに彼は殺気に全然気付いていない。偉そうにしている。お付きの人は縮こまっている。
「差別するような低能な人間と話すのは疲れるから、放っておいてくれない?」
ムカムカするけれど、こういう相手は怒ったって無駄なのだ。反応してしまった私も悪いけれど、無視が一番だ。ヒマリを見ると耳をペタンとさせて悲しそうだ。このモフモフ美少女を悲しませるなんて!
ヒマリを撫で撫でしていると、なぜか更に近寄ってきたおバカが「こんな耳つけてんじゃねぇよ」と、ヒマリの虎耳をつかもうとした。さすがにそこまでおバカなのを周りも予想していなかったようで、誰も止められる距離にいない。
その瞬間、私の右手は勝手に動いていた。
猫パーンチ!!!
肉球手袋の「ニャーン」という効果音付きで、パンチが出た。手袋効果なのか、少年がちょびっと吹き飛んだ。
肉球手袋すごい。手が痛くないし、威力も素敵。ニギニギ手袋を確かめていると、周りから拍手が起きた。
「嬢ちゃんやったぜ!」「スカッとしたな!」「あの手袋なんだ?」「ニャーンって聞こえたよな」「それにしても貴族の坊ちゃんにビビって手出しできなかった俺が不甲斐ないぜ」「ほんとにな」「獣人の大切な耳を触ろうとしたって皆で証言しような」とか色々聞こえてきた。
貴族ぅ……? あれ、ヤバイの殴っちゃったんじゃない。全部の貴族がクリスみたいに善良なわけじゃないもんね。というか善良な貴族の方が少ないよね……?
いや、でも後悔はない! ヒマリを守れたのだ! 撫で撫で。
貴族の坊ちゃんは気絶している。お付きの人が、こちらにペコリとお辞儀してから、担ぎ出して行った。
とりあえず、ここではお咎めなしのようだ。ふぅ、と一息つく。
『顔に被さって窒息させてやろうかと思ったぜ』
『我は翼で往復ビンタしようかと思ったぞ』
二匹とも憤慨しているようで、ライくんは触手でシュッシュッとパンチの真似をしている。
「ミア、ありがとね」
「当たり前じゃない! わたし達、友達だもの!」
「それにしても差別なんてする人いるんだねぇ」
「うん、この街の住人に獣人は少ないからね。見かけるのは大抵、旅をしている冒険者。街の子どもたちも差別するってわけじゃないけど、やっぱり皆と違うから何となく区別されちゃう」
ああ〜。子どもって、確かにそうかもしれないなあ。わたしが前世の小学生の時にも外国人の男の子が一人転校してきて、皆少し距離を置いていた。いじめたいわけでもなく、むしろ仲良くなりたかったけれど、ただ皆、どうして良いか分からなかったのだ。あんな感じかなあと、思い返す。
ギュッとヒマリの手を握る。わたしに出来る事は、彼女の友達でいることだ。ヒマリがこちらを見たのでニコッとする。ヒマリも向日葵の大輪の花のようにニコッと笑顔を返してくれた。
えへへ〜。ヒマリの笑顔は可愛いなあ!デレデレとしていたら、受注カウンターが空いて、私たちの番になった。
「次の方、どうぞ〜」
受付カウンターに進んでいく。さあ、依頼を受けるぞ!




