第13話 猫型鞄の防犯機能
『主、大丈夫か? 身体に異変は?』
「そう言われてみれば、一気に魔力を使った気がする。結構だるいかも」
『我の時とは違って気絶はしなかったみたいだな。こんな森の中で気絶したら危ないから気をつけてくれ』
名付けが従魔の契約になるなんて、すっかり忘れていた。
「ライくん、ごめん。わたし名付けが契約だって忘れてて。君、わたしの従魔になっちゃったみたい」
『俺は知ってて受け入れたんだぜ〜! ミアおねーさんの魔力に惹かれたスラ』
むっ、もしや確信犯……!
それにしても、やっぱり魔力をたくさん使ったせいで足元がフラフラする。そろそろ野営地に戻らないとみんな心配するかも。どうしようかな。
「お〜い! 嬢ちゃん、大丈夫か〜?」
「あっ、おじさん達!」
「さっき、あの怪しいカップルが嬢ちゃんの後を付けてたからな。心配になって迎えにきたんだが……。スライム?」
「そのカップルには気付きませんでしたが、うっかりスライムを従魔にしてしまって。魔力を使いすぎて足がフラフラになってしまいました……」
「しょうがねえ、運んでやる」
そう言うと、おじさんはスライムを抱えた私をヒョイっと肩に乗せて歩き出した。
「ありがとうございます。助かりました」
「それにしてもスライムか。また珍しいな」
「珍しいんですか?」
「そもそもスライムと意思疎通できることは少ないからな。変異種で知能が高いのか?」
「うっ、知能は高そうです……」
手の中でプルル〜んと伸び縮みしているライくんに目をやる。すると、ライくんはぴょんっと飛び跳ねて、私の頭に乗って広がった。おお、冷んやりしていて気持ちいい。
「そう見ると、スライムに食われてるみたいだな」
「これ、冷んやりしていて、なかなか気持ちがいいです」
そうこう話しているうちに、野営地についた。
「ミア! どうしたの? 何かあったの?」
冒険者のおじさんが地面に下ろしてくれているうちに、駆け寄ってきてくれたクリス。
「えっ!? スライム? ミア、スライムに食べられてるわ!」
「あっ、違うの。森の中でテイムしちゃったスライムのライくんなの」
そう言うと、ライくんは頭の上から手の上に飛び降りて、猫耳おまんじゅう型に形を整え、シュッと右手(?)を伸ばした。
「えっスライムに猫耳? 手? あ、でも、これ、握手よね? 溶けないわよね?」
恐る恐る手を出すクリス。護衛のニコラスさんはニコニコしながら見守っているので安全判定をしたのだろう。
『よろしくだぜ〜』
「えっ! 声が聴こえたわよ?」
『触ってる状態だと、ミアおねーさん以外でも声が届くみたいスラ』
「何それ、初めて聞いたわよ」
『むっふっふ、俺、すごい?』
すごい。わたしのスライム、すごい。そしてドヤ顔なライくん、かわいい。猫耳付きですし!
「そういえば、あのカップルはどこに行ったのかしら? ミアを追いかけていたから、ちょっぴり心配してたんだけど」
「冒険者のおじさん達も言ってたけど、わたしは見なかったなあ」
『我は気づいてたぞ。主の猫型魔法に当たったり、毒キノコを採取していた』
「ええっ!? クロちゃん、気づいてたなら言ってよ〜。なんか、猫型魔法に巻き込まれたり毒キノコを採取してたみたい」
「毒キノコ?」
「うん、キノコ採取中に見つけた毒キノコ、全部取らないで残してきたから、それかなあ?」
「ちなみに、どんな毒なの?」
「あれは下剤効果があるやつだったよ。ちょびっと齧るだけなら、薬になるんだけど、一個食べたら、げっそりすると思う」
そんな話をしていたら、森からカップルが出てきた。げっそりした顔で。とりあえず、ここの森にはしばらく入らないでおこうと、思う。
さて。そんな今日の夜ご飯は、茸汁です! こっちを見て、カップルは嫌そうな顔をしていた。茸にトラウマが出来たのだろう。あとはみんな、各々、干し肉や干しパンをかじったり、スープに浸したりしている。汁物があるだけで、だいぶ違うよね。
頑張ってくれた馬達には、実家の林檎をあげた。
「明日には、次の街につくと思いますよ。今回の旅は、なぜか馬達が疲れないし、お客も元気だから、早く着けそうです。 まあ、二人体調を崩したみたいですが……あと一日ですし、どうにかなるでしょう」
「嬢ちゃんの飯を毎日食ってたからなあ。毎晩いろんな薬草を食べてたから体調も良いぜ」
「それなら良かったです! それにしても街か〜! この前はほとんど街を見れなかったから楽しみだな〜。 屋台に市場!」
「食いもんばっかりだな」
「当たり前です。食は生きる楽しみですよ!」
「でもまあ、その魔法鞄も目立たないように使うんだぞ」
自分の猫型鞄を見下ろす。うーむ。魔法が使えなくたって可愛くて目立つのに、どうしたものか……。フェイクで大きな鞄を持って、腕輪型にした鞄を使うのもありだけれど、でもこの鞄が可愛いから見せびらかしたい気持ちもあるのだ。
なんたって、猫型ですから! 母さん、よく分かってる。
ポヨンポヨンと弾むライくんを見ながら、茸汁を食べる。ふう。ほっとする味だね。それにしても、明日の街は楽しみだ!
そして次の日。街の一つ手前の休憩所で、事件は起きた。
あのカップルが、私の猫鞄を盗もうとしたのだ! が、しかし。猫鞄の防犯機能さんが良い仕事をした。「ちょっとバチッとする」の威力を、まさかこんなところで確かめられるとは。母さんの「ちょっと」を甘くて見ていた。
女性の方が私に親しげに寄ってきたので、訝しげに見ていたところ、鞄を盗もうとして、その瞬間「ニャー!」という音と共に防犯機能が発動したのだ。慌てて男性も寄ってきて、彼も鞄に手をかけて同じ目にあった。なぜ学ばないの……。
そして二人して、ちょっと黒こげになって倒れている。これ、大丈夫だよね? 命に別状ないよね?
「おうおう。いつかやると思って一応警戒はしていたが、嬢ちゃんの鞄すげえな」
「うちのお嬢のことも狙ってたみたいですけど、こっちは俺がいますからね、一見隙だらけに見えるミアちゃんの方にターゲットを絞ったんでしょう」
「ミア、大丈夫?」
クリスが心配そうに声をかけてくれる。
「わたしは大丈夫! ここで鞄の機能を確かめられて良かったよ」
『ミアねーちゃん、これ、俺のごはん〜?』
「ちょっ、ライ君、これはごはんじゃありません!」
『な〜んだ、残念っ』
そう言いながら、倒れている二人の上をポヨポヨ飛んでいるライ君。あっ、ちょっと女の人の髪の毛短くなってない? つまみ食いした?
ふと周りを見ると、みんな、「え? 食べるの?」という顔をしている。そんな中、御者さんが立ち直った。
「さて、街はすぐそこです! こいつらを縛って転がして連れていきましょう。面倒ですが、憲兵に突き出さなくては行けません」
馬車の護衛としてきていた黒づくめのお兄さんがどこからか縄を出して、縛っていく。そういえば、このお兄さんはいつも無言でわたしの作る夜ごはんを食べていたけど、結局、ほとんどしゃべることはなかった。
無言だけれど、素早い手つきで縛って、馬車に放り投げた。文字通り。投げている。
さて、床に転がっている黒こげカップルはあまり目に入れないようにして、街に出発です!




