第12話 魔法を学んだり、スライムと出会ったり
野営地にいる人たちの視線が痛い。人の前でマジカルミアミアを唱えてしまった。心のダメージが……。
「か、可愛いですわ!」
なぜかクリスが拍手している。
「これ、すごく恥ずかしくて精神的ダメージを受けるんだけれど、呪文を言わないと杖が出てこないの……。」
「大丈夫ですわ、そういう設定の杖もあるにはあるって聞いたことがありますもの」
え、それって普通はないってことじゃない……。
「クリスの杖は、呪文はいらないの?」
「わたくしのは特にいらないのですわ」
「いいな〜!! わたしの杖は母さんが昔使っていたのを改良したみたいなの」
「その猫印がミアっぽくてとても可愛いですわ」
杖もテントも、パジャマまで猫尽くしだ。
「さあ、魔法の練習の続きをしましょう。まずはさっき身体に広げた魔力を杖まで行き渡らせるのよ」
ふむふむ。あっ! 猫ヘッドが光った!
「ミアは本当に魔力の扱いが上手ですわね。ここまで来るのに普通は何週間もかかるのですよ」
そう言いながら、クリスもサッと杖の薔薇を光らせる。
「ライト」
クリスが唱えると光の球が現れた。杖を振るとボールが自由に動く。
「おおおおお〜魔法だ! クリスすごい!」
「ミアだってライトくらいすぐ出来ると思うわ。『ライト』と唱えながら、光の球をイメージしてみて」
「はい! クリス先生!」
光の球、光の球、光のたま……? 光のたまちゃん。
「ライト」
……。光のたまちゃんが現れた。杖を振ってみる。空を駆ける、光のたまちゃん。……あれ?
「ミア、あれは一体……?」
「光る猫を想像してしまったみたいデス……」
「こんな魔法初めて見たわ」
自分の「ライト」を見てみる。うむ。猫型だ。あっ、毛繕いし始めた。可愛いなあ。そして「ニャーオ」と言いながら去っていった。
その後も、クリスには基本の魔法をいくつか教えてもらったが、どれもこれも猫型になってしまった。まあ可愛いから良いんだけれど……!
「普通は時間がかかる魔法の基礎が、あっという間に終わってしまいましたわ。なぜか猫型ですけど……」
「クリスの教え方が上手だからだよ。なぜか猫型だけど……」
「ま、まあ、猫型で困ることはないはずですわ! ちょっと注目を浴びるくらいですわ」
「えっ! ひっそりと学園生活を送りたいのに〜」
「たぶん、ミア には無理ですわ。今から覚悟しておいた方がいいわ」
苦笑するクリス。
「さ、そろそろ寝ましょう。明日も早いわ」
「うん! 遅くまでありがとね」
猫テントに戻って、ベッドに寝転がる。魔法かあ……。本当に、魔法の世界なんだなあ、転生したんだなあと改めて思う。まさか自分が魔女っ子になるなんて!
「クロちゃ〜ん」
『なんだ、主』
「おいで、一緒に寝よう」
『なんだ、ホームシックか?』
「ん、似たようなもの」
クロちゃんを後ろから抱きしめて、耳と耳の間、頭の上に顔を埋める。はあ……幸せ。あっという間に眠りに落ちたのだった。
そして次の日も、早起きして、馬車で移動して、また野営地についた。いつも通り、森に入ろうかなあと冒険者さんたちのところへ行く。
「悪い嬢ちゃん、今日の馬車で酔ったみたいで森には行けそうにねえわ」
そうなのだ。今日の街道は、凸凹していて、猫型クッションがなければお尻が大変なことになっていたと思う。結構みんな疲れている。
「ああ……道、ガタガタしてましたもんね。それなら、わたし一人で行ってきます!」
「いや、待て、それはあぶねえから今日はやめとけ」
「えええ〜」
「せめて俺らから見える、浅いところだけにしてくれないか?」
「むむっ。わかりました。じゃあ、その辺りうろうろしてきます。あ、これどうぞ。うちの実家の庭に生えてたレモンです。絞ってレモン水にすると、すっきりするんじゃないかな?」
「おお、ありがとな。気をつけて行ってこいよ〜何かあったら呼べよ」
「は〜い! 行ってきます!」
クロちゃんを肩に乗せて、森へ入る。昨日魔法の練習をしたからか、空気中の魔力をわずかに感じ取れるようになった。
一人なので、魔法の杖を取り出して(ちゃんと唱えましたよ……)、ブンブン振りながら進む。森の中で火は危ないから使わないけど、水や風、光や影の猫ちゃんをあちこちに飛ばす。
「ニャー」
「ニャー」
「ニャー」
「ニャー」
「キャッ!?」
あれ? なんか今、声が聞こえたような。気のせいかな。猫ちゃんたちの消える時の声かな?
クロちゃんと協力して、キノコや果物を収穫していく。あ、毒キノコもある。これ、間違えやすいんだよね〜。でも毒は薬にもなると言うし、半分だけ採っておこうっと。
残りの毒キノコを置いて、森を歌いながら進む。
ミアの後ろについてきている二つの人影が、毒キノコを採り袋に詰めたのを知らず……。
ちょうど良い切り株があったので、そこに座り、クロちゃんと森林浴をする。は〜森の香り、落ち着く〜。それに魔力の流れも綺麗で、前世だったら「パワースポット」って呼ばれそうな場所だわ。ここ。
杖から猫型魔法を繰り出して練習をする。
「ニャー」
「ニャー」
『スラ〜!』
「ニャー」
ん? なんか聞こえた? 周りを見渡す。
『スラ〜!』
声の先には、透明の水色をした、ぷるぷる震えるスライムがいたのだ。
ぷるぷるだ……! 水まんじゅうみたいな形で、ぷるぷるしている。さ、触りたい……!
でもスライムって酸とか飛ばすんだっけ? あんまり近づかないほうがいいかなあ? 鞄から、金色のさくらんぼを出して、近くに投げてみる。
『スラ〜』
スライムは、早速さくらんぼを手に取り(手が出てきた)口をミョーンと開けて、放り込んだ。透明なので消化の具合がよく分かる。枝も葉っぱも、種もあっという間に溶けてなくなった。
『ありがとスラ〜』
「どういたしまして。……って、えっ!? 喋ってる?」
『俺の声、伝わってる? わぁ〜い!』
スライムくんは、ピョーンピョーンと飛び跳ねてぷるんぷるんしている。やはり触り心地が気になる。
「あの、スライムくん。ちょっとだけ触ってみてもいいかな?」
『どうぞどうぞ〜。もちろん溶かしたりはしないので安心してな』
「ありがとう!」
プルルンしているスライムくんに触ってみると、ちょっぴり冷んやり、ウルルンボディだった。硬いゼリーみたいに弾力があって、気持ちいい。アイマスクにしたいわ。
スライムくんを撫で撫で、ムニムニしながら聞いてみる。
「君、名前はなんていうの? わたしはミアよ。」
『僕はスライム。名前はまだない! ミアおねーさんがつけてくれてもいいよ?』
「え? いいの? じゃあね〜。スライムだから、真ん中をとって、ライくん!」
『あっ、主……!』
焦ったクロちゃんの声が聞こえる中、手の中のスライムくんがピカーっと光り始めた。あ、これって……。
『じゃじゃーんスラ! スライムのライくん、誕生!』
手元のライくんは、やっぱりおでこに猫マークをつけていた。そして、なぜか猫耳がついていた。
じゃじゃ〜んスラ!




