第10話 魔猪の鍋と焼肉
魔猪の牡丹鍋を食べ始めて、最初は「美味しい!」という声があちこちから聞こえてきたが、みんな段々と無言になって食べ始めた。冒険者のおじさん達やニコラスさん、黒づくめの護衛さんは、あっという間にお代わりをよそっている。
みんな無言だが、美味しそうに食べてくれるので一安心だ。
「いやあ、うっめえな。これ、俺たちが倒した魔猪だよな? たまに倒すけど、塩かけて焼くだけだからこんなに美味いの初めてだぜ」
「あっ、そういえば焼肉も用意してるんだった。今からお手本を見せるので、そのあとは自分で焼いてくださいね〜」
そう言って、バーベキューセットで焼き始める。このバーベキューセットは魔道具で、我が家でもよく使っていた。こう考えると、記憶が戻る前から魔法とか魔道具とか気にせずに色々使っていたみたいだ。
熱した網に、お肉をじゃんじゃん載せていく。良い香りが漂ってきた。
「あっ、そういえば、こんなところでお肉を焼いたりして、魔物とかに攻撃されないかな?」
「嬢ちゃん知らねえのか? 大きな街道や野営場所には、魔物や動物避けの魔道具が設置してあるんだ。ただ、盗賊なんかの人間には効かねえんだがな」
「そっかあ、それなら安心して料理ができるね」
そんなことを話しながら、焼けたお肉をみんなのお皿に盛っていく。冒険者さんたちのお皿には倒した人特典ということで美味しい部位もね。
みんなに配り終えたら、わたしも熱々のお肉にかぶりつく。
「美味し〜!!!」
うんうん。調味料が塩しかないけれど、ローズマリーが良い仕事をしている。
「薬草を料理に? って思ったけど、これ美味いな」
「俺たちが塩だけで焼いた時より良いな」
「わたくし、こんなに美味しいお肉初めて食べましたわ!」
「クリスはお嬢様なんだから、もっと良いお肉食べてるでしょ〜?」
みんなでワイワイ言いながら、食べていく。
「そうだ、クロちゃんも料理したお肉は食べれるの?」
『我は料理する必要はないが、料理したのも食べられるぞ』
「玉ねぎとかニンニクが毒だったりする? 熱いものも平気?」
猫に毒になるものはクロちゃんにも毒になるのだろうか。
『いや、我は猫ともフクロウとも全く違うからな。問題ない』
「じゃあ、これどうぞ」
器用にお肉を食べ始めるクロちゃん。
『むむ! これは美味い! 我は生肉の方が好きだと思っていたが、主の料理は美味いな』
「わぁ、嬉しいな」
クロちゃんが食べている姿を見ていると癒される。
そんな私たちを見て、クリスも従魔のブランカに食べるか聞いてみたが、ブランカは草食なんだそうだ。
いっぱい用意したけれど、冒険者のおじさん二人と護衛二人の食欲が半端なく、あっという間に平らげてしまった。
「いやあ、まさか旅の護衛で、こんなに美味しいものにありつけるなんて思ってなかったですよ」
「いっぱい食べてクリスを守ってもらわなくちゃいけないですからね」
「うちのお嬢がもちろん一番ですが、余力があればミアちゃんも守りますからね!」
『我が主を守るからな、問題ないぞ』
さりげなく張り合っているクロちゃんが可愛い。
「そうだ!デザートも、ありますよ。さっき森で採ってきたの」
りんごと金色のさくらんぼを取り出す。クロちゃんもお腹ポケットから取り出した。可愛い。
「そうだ、忘れてたな、これもあったのか。さっき言った銀貨一枚は安すぎたな」
「ミア、この金色のさくらんぼ、街で買うとものすご〜く高級品なのよ?」
「そうなの? キラキラ綺麗だもんね。でも、さっき森で採ったものだし、美味しいものはみんなで食べた方が良いから、食べちゃおうよ! あ、でもおじさん達と一緒に取りに行ったから、おじさん達の取り分は好きにしてくださいね?」
「いや、でも俺ら魔法鞄とかないからよ、結局次の街まで保たないんだわ。だから食べるしかないの。そういう意味でも街では幻の品なんだろうなあ」
金色のさくらんぼは、クリスの従魔のブランカちゃんも喜んで食べてました。しっかり働いてくれている馬さんにもお裾分け。
後ろで「金色のさくらんぼを、馬に……」って聞こえた気がするけど、気にしないのだ。だっていっぱい採れたからね! もちろん、りんごも食べさせてあげました。
ちなみに人間はお腹いっぱいすぎてりんごまでは食べられなかったので、みんなに朝ごはん用に配っておきました。
「いや〜大満足だぜ」
「ミア、ありがとうね」
「どういたしまして!」
満足している私たちを少し離れたところから睨み付けるようにみているカップルが目に入ったが、無視だ。お金がないなら何か手伝いをするとか申し出ればいいのだ。
『主、あいつらから悪意を感じるぞ』
「害意がなければ放っておきましょ」
『我が主を守るからな!』
えっへんと、張り切った顔をしているクロちゃん。可愛すぎる〜!
そろそろ暗くなってきたので、わたしはテントの中に入ることにした。まだこのテントの機能を試してないしね!
まずは、やっぱり浴室機能からかな? 森に入ったし、お風呂に入っちゃおうっと。排水はどうなってるかなんて気にしたら負けだ。魔法ってすごい。
浴室は、よく旅館にある家族風呂くらいの大きさだ。お湯を張ろうと、それっぽいボタンを押したら一瞬でお湯が現れた。魔法って……。
「クロちゃんも一緒にお風呂、入る?」
『風呂か……。水浴びならしたことがあるが、お湯は初めてだな』
「じゃあ試してみよう!」
浴室にはシャンプーやリンスに石鹸まで備え付けで至れり尽くせり。ちなみにこの石鹸達も母さんの手作りだと思うな。うちで使ってたのと同じ香りだもん。庭に生えてるハーブをふんだんに使ってるのだ。
「クロちゃんも石鹸使う? フクロウの身体に使っていいのかなあ?」
『我は魔物だからな、問題ないぞ』
「じゃあ洗ってみよう!」
石鹸を泡だてて、クロちゃんをモコモコにする。気持ちよさそうで何よりだ。
わたしも体を洗って、いざ、湯船へ。 あ〜気持ちいい! 旅の疲れが吹き飛ぶ。湯船の中をスイスイ泳いでいるクロちゃんもご機嫌だ。
『主、風呂とはいいものだな』
「本当だよね。このテントを作ってくれた母さんに感謝だなあ」
たっぷり満喫してお風呂を上がる。排水ボタンっぽいものを押してみると、なんとわたしとクロちゃんまで一気に乾いた。
母さん……すごい。
ところで、パジャマって鞄に入ってるのだろうかと思って鞄を探るも入ってなさそう。あれ? 下着の替えとか、他の洋服も入ってないんじゃない?
なんと! まさかの着た切り雀に……。せっかくお風呂に入ってサッパリしたのになあ。
『主、どうしたのだ』
「あのね、服の着替えが一つも入ってないの」
『主の母上が、ブレスレットに装備が入ってるとか言ってなかったか?』
「そうだ! でもこれどうやって使うんだろう?」
ブレスレットをいじりながら少し魔力を通すと、頭の中に装備一覧がズラッと浮かんだ。何これ、ドレス、貴族令嬢、町娘、少年、メイド、農家……と延々とつづくリストだ。
とりあえずパジャマを探していたので、パジャマを選択。すると、ピカッと光ったかと思うと、白猫着ぐるみを着ているわたしがいた。
パジャマは着ぐるみ!にゃ!




