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6-21 帰還

 翌日、族長の方から話をきりだした。

 「王様は、これから起きるであろう戦に備え、森の各種族に協力を求めているとお聞きしております」

「どこからそれをお聞きになられたのですか?」

「我々もいたるところに、目や耳を持っておりますので。 それでもし王様が何かにお困りで、我らがお役に立てることがございましたら、微力ではございますが我々の力もお使いください」 思いもかけない申し出に、俺は驚いた。 今まではどこも二つ返事でOKしたところはないからである。

(ザウフェルが言っていた贈り物とはこれのことか?)

「昨日も申した通り、ブルカ族は12王とレギオンに対して恩義がございます。 我らは受けた恩義は決して忘れません。 今回がその恩を返す時だと考えております」

「ありがとうございます」

「そこでですが、一つだけお願いがあるのですが・・・・」 少し言いづらそうに言った。

「えっ」 俺はファウラと顔を見合わせた。 ファウラが慌てて言った。

「王様は既に私をめとっておりますゆえ・・・」

「えっ、ああ、残念ながら我が家には年頃の娘がおりませなんでな」 そう聞くと、ファウラは胸をなで下ろした。

「この者を王様の従者にしていただきたいのです」 そう言うと、隣の部屋から少年が入ってきた。 赤毛を短髪にした、小柄な中学生のような少年だった。

「これは、我が3男のハルと申して、15才です。 親の私が言うのもなんですが、この者は一族の中でも賢い奴で、きっと王様のお役に立つでしょう」

「承知いたしました。 お預かりいたします」 嫁をと言われるよりは、全然良かった。


 俺とファウラが出発の準備をしていると、アビエルがやってきた。

「おや、何か雰囲気が違うな。 はぁーん、そういうことか。 やっと抱いてもらったのか」

「アビエルさん、私を挑発しようとしても無駄ですよ」 ファウラが勝ち誇ったように言った。

「フン、強い男は何人もの女を所有するものだ、別に驚きはしない。 カケル様、あのような貧相な乳に飽きられましたら、おっしゃってください。 この乳も、この尻もすべてあなた様のものです」 アビエルは自分の胸を持ち上げ、腰を振ってみせた。

「何ですって、どこが貧相なんですか」 ファウラは胸を突きだした。

 それを見ていたリースが、レオンに言った。

「おい、何かややこしいことになってないか」

「気にいらん、大いに気にいらんぞ」


 俺たちは、ハルの道案内で王都への帰還することになった。 その行程は特に問題もなく、道も王都に近づくにつれ道幅も広くなり順調に進んだ。 ハルは、口数は少なかったが、族長の言うとおり、賢く良く気のつく少年だった。 4日目の昼頃、セントフォレストの東門に到着した。 レーギアの前では、アンドレアス達が迎えてくれていた。 しかし俺たちが近づいていくにつれて、にこやかだったアンドレアスの顔が次第に変わっていった。

「カケル様、お帰りなさいませ」とアンドレアス。 俺は、ファウラやアビエル、ハルを紹介した。

「そうですか、とりあえずどうぞこちらでお休みください」

「お願いします、アンドレアスさんには、うまく報告しておいてください」俺はレオンに耳打ちして、ファウラたちと入っていった。

「えーっ、カケル様それはあんまりでしょう」

「レオン、リース、ちょっとこっちへ来い。 じっくり話を聞いてやる」 そう言ったアンドレアスのこめかみには、浮いた血管がぴくぴくしていた。

「はい!」 二人は肩を落としてアンドレアスについて行った。 アンドレアスが急に振り向くと言った。

「アドル、お前もだ」


 「なるほど、エルム族の姫を嫁にもらったのは分った。 だが何故もっと早く報告しなかったのだ」とアンドレアス。 その部屋では、セシウス、グレアム、ユウキも報告を聞いていた。

「私はカケル様に、すぐお知らせした方が良いと申し上げました。 でもカケル様はアンドレアス様達が反対されると考えられて、言いづらかったのだと思います」

「あたりまえだ、カケル様にとって今はとても重要な時期だ。 女にうつつをぬかしている暇はない。 だからあの若いメイド達も解雇したのに。 それで、魔人族の女は何だ、あれも嫁か? 愛人か?」

「うーん、少し違うと思います。 彼女は自分をカケル様の所有物だと申しています。 自分の命はカケル様のためにあると」とレオン。 それを聞いてセシウスは笑い出した。

「本当にうちの大将は面白いな。 まあ良いではないですか嫁や愛人くらい。 そんなに怒るとまるで、大切な息子を嫁に取られた母親みたいですよ」とセシウス。 レオンとリースは下を向きながら必死に笑いをこらえた。

「何だと、面白いでは済まされぬわ。 まったくどいつもこいつも、どこまで本心か分らぬではないか。 どうせ族長からレギオンの状況を知らせるように言われているはずだ」

「まあ確かにそれはあるでしょう。 でも決して悪いこととは思いません。 かえって情報が隠されている方が疑いを持ちやすくなります。 政略結婚であろうと何であろうと、レギオンとの結びつきは強くなった訳で、見方を変えれば人質を差し出したようなものです。 裏切り難くなったとも言えるでしょう」とユウキ。

「私もそれ程悪いこととは思いません。 初代のゴードン様と5代のエディ様も次から次とお連れになられました。 まあ確かに事前にご相談いただけた方が良かったのですが」とグレアム。

「そうは言っても、それではアビエルという娘の扱いはどうするというのだ」とアンドレアス。

「それですが、カケル様は、アビエルさんをサムライになされました。 レーギアに身分の定まらない者を置けないことと、アビエルさんの言動から奴隷と勘違いされるおそれからです。 奴隷制は廃止されておりますから」とレオン。

「何だと、アデル族のサムライだと。 また火に油を注ぐことになるではないか」 アンドレアスは頭を抱えた。


 「私の部屋は、カケル様とご一緒で結構です」とファウラ。

「そうおっしゃいますが、レギオンの決まりでお妃様方は西の塔と決まっております」 案内のメイドが言った。

「それは他にも妃がいる場合でしょう。 今は私しかいないはずでしょう。 それなら何の問題も無いはずです」

「アビエル様もご案内するように申しつかっております」

「何ですって! カケル様がそうおっしゃったのですか」

「アンドレアス様です」


 「お疲れ様、大活躍じゃないか。 誰もが無理だと思っていたことを、まとめてきたのだからな」 ユウキは俺の部屋に入ると、座る間もなく言った。 俺がユウキに、話があるのできて欲しいと伝えておいたのだった。

「ありがとう。 そっちはどうだい」

「うーん、なかなか厳しいな。 色々調べて問題点は分ってきた。 それに対する改善策も担当者に伝えているのだが、うまくいかない」 ユウキは、財務改革のため、各部門の問題の洗い出しと改善に取り組んでいたのだった。

「個々の問題点を改善する以前に、担当者の意識改革をする必要がある。 彼らの価値観からすると、仕事のやり方を変えて効率を上げると言うことよりも、今までのやり方を頑なに守ると言うことの方が重要なのだ」

「なぜ?」

「やり方を変えると言うことは、それまで先人が、あるいは自分のやってきたことを否定するということらしい」

「ばかな、それでは進歩というものが止まってしまうではないか」

「それと、俺のような外から来た若輩者の言うことに従うのは、抵抗があるらしい」

「うーん、どうするか」

「まあ、手を考えてみるよ。 ところでなんだい、本題はべつにあるのだろう?」

「ああ、実は・・・・」 俺はグラッツ山の魔物の話をした。


 「なるほど、確かにそれはアンドレアスさんには言えないな。 聞いたらきっと卒倒するぞ」

「だろうな」

「アドルをサムライにしたことだけで、アンドレアスさんは両刃の剣だと言っていた。 今回アビエルさんをサムライにしたことで、レギオン内に不満に思う者が更に増えるだろう。 ザウフェルをサムライにしたなどと知れれば、それこそ噂に尾ひれがついて、『緑の12王は悪魔と契約した』などと言われかねない。 そうなれば、王都の人々の王に対する信頼は下がり、今かけている兵の募集にも影響するであろうし、兵士達の士気にも影響を及ぼすと思うな」

「だが、俺としては間違っていないと思うのだが・・・」

「うん、それで良いと思う。 分った全て俺が飲み込む」 少し考えながらユウキが言った。

「えっ、どういうことだい」

「今度ザウフェルが現れたら、情報は俺を通すように伝えてくれ。 もし万一この件が表に出ることになったら、俺が勝手にやったことで、お前は何も知らなかったことにするんだ。 そして俺を切るんだ」

「そんなどこかの政治家みたいなこと出来ないよ」

「良いんだ、俺もお前が創る全ての種族が安寧に暮らせる世界を見てみたい。 やはりお前は見ているところが違うよ。 アンドレアスさんやセシウスさんは、このレギオンのことだけ、レギオンの存続しか見ていない。 俺だってこの世界で活躍して英雄になりたいという程度の考えで、こういう視点は持っていなかった。 おまえはもっと大きな視点で見ている。 やがてこの大陸全体を俯瞰でみるようになるだろう」

「俺も別にそんなに真剣に考えていたわけではなくて、漠然とそんな風になればいいなと思っただけだぞ」

「今はまだそれでもいい、どうせ一気に実現なんて無理なのだから」


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