6-17 誇りと価値観
その夜の宴は、エルム族の時とはまた違う趣のあるものだった。 テーブルに並ぶ料理は肉類が多かった。 何の肉か分からないものもあったが、スパイシーな味付けは食欲を誘った。 酒はとても強いもので、俺にはとても飲めそうになかった。 独特な楽器を使った音楽と踊りが続き、宴は深夜まで続いた。
翌日の午後、あらためて族長との面会が持たれた。
「カケル様、承知いたしました。 我らアデル族は、カケル王の要請に対して加勢いたしますことをお誓い申し上げます」
「ありがとうございます」
族長の態度は180度変わった。 その日の午後、我々は街を案内され、その日の夜はまた延々と続く宴会となった。 さすがにきつくなってきたので、翌日には帰ろうと言うことになった。 理由はそれだけではなく、アンドレアスから、『いつまでも玉座をお空けなさらず、そろそろ一旦お帰りください』と催促されていたのだった。
翌日、アッセイの街を俺たちは出発した。 急いで帰るのならば、“ゲート”を使えばすぐに帰ることはできたが、「折角ここまで足を伸ばしたのだから、周りを見ながら帰りたい」とゴネてレーギアに着くのは数日後になると伝えた。 ファウラが「たぶん大丈夫」と言うので、帰り道は別の道を通ることにした。 南に向い、森の中心近くにある大きな山、グラッツ山から流れ出る川がセントフォレストに続く川に繋がるので、その川沿いに下れば良いとのことだった。
街のはずれに、誰かが待っていた。 それは灰色の巨大な狼のような魔獣にまたがったアビエルだった。 決闘の時と同じ服装、装備だった。
「私ともう一度戦え!」 アビエルは真剣な面持ちで言った。
「何故、もう勝負は着きました」
「私の誇りのためだ。 私は戦士だ、命を賭けた戦いで負けた。 それなのにお前は私を殺さなかった。 敵に情けをかけられるなど恥だ。 しかも支配しようともしない。 私はもうアッセイには居られない、なぜなら皆の笑いものだからだ」
「それは申し訳ないことをした。 しかし勝負が着いたのに命を取るなど、私にはできない、無駄に命を捨てることはない」
「無駄だと、私たちはいつも命を賭けて戦っている、それが侮辱だというのだ」
「ならばどうすれば良いのだ?」
「だからもう一度戦えと言っている。 私がアッセイに戻るには、お前を殺し自分の汚名を濯ぐしかないのだ」
「断る、あなたに殺される訳にはいかないし、あなたを殺すつもりもない」
「クッ、ならば私はお前を殺すまで付け狙う」
「何だと」とアドル。
「いい、放っておけ」 そう言うと彼女を無視して出発した。
俺たちはグラッツ山へ向けて密林を抜けていった。 俺たちが乗った騎竜の後を、少し離れて魔獣に乗ったアビエルがついてきた。 グレンは空を飛びながらついてきたが、最近は空を飛ぶのが楽しくて勝手に足を伸ばして飛び回っていた。
その夜、俺たちがたき火を囲んで食事していると、20メートルほど離れて食事をしていたアビエルが近づいて来て、俺たちに言った。
「これ以上グラッツ山には近づかぬ方が良いぞ」
「何故です?」 俺は聞いた。
「あそこは、魔獣の巣窟だ。 それに魔物がいる」
「どうして、それを教える、私を殺したいのだろう?」
「私自身の手で殺さねば、意味が無い」
「こちらで一緒に、火にあたられてはいかがですか」とファウラ。
「いや、遠慮する」そう言うと戻っていった。
「カケル様、どうされるおつもりですか?」 レオンが聞いた。
「どうしようもないでしょう、価値観の違いと言えばそれまでですが、彼女の考えが変わらなければ・・・・」
「ところで、明日はどうしますか? 魔獣は分かりますが、魔物って何でしょう?」 とリース。
「グラッツ山には、昔からバンパイアがその眷属と共に暮らしていると言われています。 山に入った者は戻ってこられないと言い伝えられており、エルム族も山には入りません。 恐らくそのことを言っているのだと思います。 バンパイアはアデル族の一つでしたが、一族の中でも忌み嫌われているとのことです」 ファウラが説明した。
「もう少し行けば、川に当たると思いますので、そこで川沿いに下りましょう」




