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6-16 決闘

 俺たちが広場で待っていると、次第に人が集まりだした。 真ん中を空けて大きく取り囲むように千人近くが集まった。 そしてしばらくすると、岩山の正面の方の人垣が別れ、大きな男が椅子がしつらえられた輿に乗って現れた。 輿が置かれると、我々は輿の前へ引き出された。


「我はこのアッセイのアデル族を統べる、バウファル・ソーレンである。 お前達は何者であるか」

「こちらは緑のレギオンのカケル王です」とレオン。

「フン、レギオンの王がこのような場所までおいでになられたことは無い。 王はレギオンに敵対しない限りそれ以上望まないのが、これまでの約定だ。 ましてや新王が立たれたという、ここにいる誰も王の顔を存じておらぬのだから、そのような言葉到底信じられるものではない」 族長はあごの髭をなでながら言った。

「ならばどうすれば、信じて頂けるのですか?」とレオン。

「この世界は、力によって築かれた秩序によって成り立っている。 そして12王はある意味力の象徴であり、力を誇示することにより地位を保全しているとも言える。 従って、そちらが12王だと言うのならばその力を示さねばならない。 そして何の目的できたのかは分からぬが、我らは力のある者にしか従わぬ」

「どのようにして力を証明すればよろしいのでしょうか?」 俺は尋ねた。

「我らの代表者と戦ってもらう」 族長が左手を指し示すとそこに一人の人物が立っていた。


 その人物は先ほどの女の指揮官だった。 だが先ほどとはずいぶん雰囲気が違っていた。 黒い皮の上下に右肩から左の脇腹にかけて赤い布がかかっていた。 右手には3本に別れた鞭、左手には上腕に小さな盾を装着し、その先には剣が伸びていた。 顔の唇は赤く、両ほほにも赤い線が下から耳にかけて描かれていた。 黒い髪からは2本の短い角がのぞいて見えた。

「我はアデル族の族長バウファル・ソーレンの娘にして、軍の部隊長アビエル・ソーレンである。 緑のレギオンの王を騙るそこの者に命をかけた決闘を申し込む」

「ウオーーッ」 周りの観客から声援がわき起った。

「私が相手になろう」 アドルが立ち上がった。

「控えろ、マブル族のような下郎の出る幕ではないわ」とバウファル。

「私がやろう」俺はそう言って立ち上がった。


「武器はどうした?」 アビエルが言った。

「気にしないでください。 剣が得意では無いので・・・・」

「私を侮辱する気か、きっと後悔することになるぞ」

 突然周りの空気が変わった。 アビエルの殺気が急激に上がった。

(これは王選抜の時の黒騎士と同じ、彼女はそれほどだと言うことか)

 アビエルは3条の鞭を振るった。 鞭は3匹の蛇のように襲ってくると、俺の左腕と左腿に絡みついた。 鞭に先端に近い部分には無数の茨がついており、それが俺の皮膚に食い込んできた。 俺は鞭をつかむと思いっきり引き寄せると、彼女はそれに合わせて距離を詰め剣で攻撃してきた。 俺は、首を狙った剣をかわすとそのまま踏み込み、右の肘を打ち込んだ。 しかしそれは直前でかわされ、同時に剣が振り下ろされた。 俺は後ろに下がり、一旦距離を取った。

 違和感があった。 左腕と脚にしびれがあったのだ。

(しまった、毒か? 長引かせるとまずいことになりそうだ)

 アビエルは再び鞭で攻撃してきた。 俺の脚が思うように動かなくなってきているので、あえてそれを受けた。 彼女は、今度は鞭を伝って電撃攻撃を加えてきた。 受けた衝撃に、俺は思わず片膝をついてしまった。

 彼女は勝利を確信したように“ニヤリ”と笑うと、距離を詰めて剣で攻撃してきた。 俺は立ち上がりながら右手で彼女の左腕をつかみ、体を捌きながら前方に転がすように投げた。 そのまま彼女の腕を放さず体にまたがると、左手を彼女のみぞおちに当て、レムを放った。 彼女は一瞬“ビクッ”と痙攣するように動いた後、意識を失った。 周りからはものすごいブーイングが起こった。

 俺は彼女のほほを軽くたたき、意識を戻させた。 彼女は一瞬何が起こったのか分からない様子だったが、すぐに状況を理解して攻撃しようと手を振り上げた。 俺はその手をつかむと言った。

「終わりです。 あなたの負けです」

「クッ、なぜ殺さない。 命を賭けた決闘だと言ったはずだ」

「勝負は着きました。 これ以上は無意味なことです」

「私の命に意味がないと言うのか、屈辱だ」

「そうではありません」

「ならば好きにしろ」

「はあ? 」 言っていることが良く分からなかったが、俺は立ち上がり族長の方へ歩いて行った。


「これで満足ですか?」 俺はバウファルに言った。

「いや、まだだ。 これだけではまだ信用出来ない」

「ならばどうされるのですか? 今度はあなた自身が戦われますか?」 俺は何かだんだんむかついてきた。

「いや、今度は別の者と戦ってもらう。 その者に勝てば今度こそ、12王と認めそちらの要求も聞こう」

「分かりました」


 族長は広場の中央に歩いてくると、何やら地面に見たこともない文字を書いたり、儀式らしきものをやり出した。

(勝利を何かに祈るということか?) 俺はその間、ファウラに解毒の治療を受けながら、それを見ていた。

 約10分後、族長が地面に火の点いた松明を放った。 地面が大きく燃え上がり、更にその地面から光があふれ出し、中から黒い巨大な物体が現れた。 それは10メートル近くある、黒い体に全身に体毛がビッシリ生え、獣のような頭に大きな角、巨大な翼を持っていた。

(何だ、魔獣? いや、これは悪魔? 召喚したのか?) いかにも悪魔という姿だった。

 族長は“どうだ”と言わんばかりの目でこちらを見た。

「それでは、始めようか」とバウファル。 周りの観客も盛り上がっていた。


 俺は、今回は“雷光”を使うことにした。

「我は魔界において、魔将軍補佐の地位にある者だ。 忙しいのにこのような若造を倒すために呼ばれたと言うのか? バカバカしい、とっとと片付けて帰ろう」

 悪魔は俺を殴ろうとして右の拳を叩きつけてきた。 俺はそれを素早く捌いてかわすと、剣でその腕を斬り断った。

「えっ、剣なんぞで俺の腕を斬ることは不可能なはずだぞ」 悪魔は痛みにこらえながらも驚いた表情を隠せなかった。

「ただの剣では無いのでね」

「ゆるさんぞ」 そう言うと、悪魔は口から火炎を吐き出した。 俺はその下をかいくぐり、今度は悪魔の左脚を斬り断った。 悪魔は自分の体を支えきれなくなって、右膝を地面につき、更に左手で体を支えた。

「あり得ん! こんなことはあってはならぬことだ。 お前は何者だ!」 悪魔の顔には、驚愕と恐怖の表情が表われていた。

「私は、緑のレギオン8代目王、カケル・ツクモだ」 そう言うと、俺は飛び上がり悪魔の頭から、真っ二つに切り裂いた。 すると悪魔は断末魔の悲鳴を上げると、全身が燃え上がり、やがて燃え尽きて姿が消滅した。

 一同が静まりかえった。 それもそのはずだ、戦いが始まって1分も経っていなかったのだから。

「これでいかがですか?」 俺は族長に向って言った。

「は、はい、結構です、カケル様。 オイ、至急王様の歓迎の宴の準備をせよ」

「私はどうすれば良いのですか?」 アビエルが俺に聞いてきた。

「はい? どうって、あなたは自由ですよ」

「自由、ですか・・・」 彼女は当惑した様子だった。


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