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6-11 賭け

 街は多くの人々が街の西側に移動していた。 だが避難を完了するまでには、まだ時間がかかりそうだった。 それに仮に避難できたとしても、魔獣が満足して眠りにつくまでは、逃げ続けなければならない。

「カケル様、もう無理です。 我々も避難しましょう」 レオンとリースが駆け寄って来て言った。 二人は逃げる人々を襲ってくるバウ-ラを斬り伏せていたのだった。

「もう一つだけ、考えられる手がある」 俺は考えながら言った。

「だが、成功するか、私も自信があるわけではない。 成功確率は恐らく10から20パーセントくらいだと思う」

「それって、カケル様がヤツの体内から攻撃するとか言わないですよね」とレオン。 俺は無言で笑った。

「絶対にダメです! そんなことをしたらカケル様が死んでしまいます。 そんなこと絶対に認められません。 我々全員、アンドレアス様に殺されます」

「しかし、あれを見てください。 ここはレギオンのテリトリー内で、私はそこの王なのでしょう。 あの逃げ惑う人達は、私の庇護下にあるのではないですか。 私は自分が不甲斐ないのです」

「あんな、『自分達は12王には何の恩義もない』などと言う奴ら、放っておけば良いのです」とアドル。

 目の前を若い母親が、小さな女の子の手を引いて走って言った。 女の子は手が痛いと泣きながら走っていた。 同じような光景が他にもあった。

(どうする。 もう時間がないぞ。 逃げるか、戦うか)

 俺は空を見上げた。 気持ち良いくらいに青かった。


「決めた。 俺は最後の手を試してみます。 レオンさん、もしも私が生還出来なかったら、レギオンの皆にすまないと伝えてください。 そしてアンドレアスさんに、次の王にはアンドレアスさんがなってくださいと」

「カケル様、お考え直しください」

「それ以上言うな! もう決めたことだ。 レオンさんたちは、引き続き人々の避難をサポートしてください」 そう言うと、俺は魔獣に向って歩き始めた。 グレンとアドルがついてきた。

「俺はカケル様が何と言われようと、最後まで見届けますよ」とアドル。


 俺は魔獣の前で空中に浮かぶと、口に飛び込む機会を狙っていた。 口の中でモタモタしているとかみ砕かれる恐れがある。 飛び込みが浅いと吐き出される恐れもある。 大きく口を開けた一瞬に、のどの奥まで飛び込む必要があった。

 グルグラが牛をくわえ、飲み込もうと頭を持ち上げた一瞬を狙って、俺は魔獣の口に飛び込んだ。 牛と一緒に、暗いスロープを滑り落ちていく感覚だった。

 広い場所に落ちた。 中は真っ暗で、 ぶよぶよした床にドロドロした液体が膝の辺りまであった。 俺はレムの灯りを点け、空中に浮かせた。 明るくなったが中は悲惨な状況だった。 奥まで光が届かない大きな洞窟のような中に、半分溶けかかった牛、山羊などの動物、そして人々の体が山のようになっていた。 辺りに骨や肉の塊が散乱し、脇の壁からはツンとする液体が噴出していた。 ここは魔獣の胃袋に違いない。 俺の体はレムによって保護されている。 しかしそう永くは持たないだろう、恐らく数分だと思われる。


(時間がない。 心臓を見つけて破壊出来れば良いのだが、そもそも心臓がどこにあるのか分からない)

 俺はとりあえず剣を抜くと、周りの壁を斬りつけてみた。 傷口が大きく開き、赤い血が大量に噴き出して、俺の体にもかかった。 すると全体が大きく揺れた。 さすがに魔獣も痛みにもがいたのだろう。 続けざまに俺は切り続けた。 胃壁は破れ、隣にある何か分からない臓器にも剣を突き立てた。 揺れはものすごく、いつまでも続いた。 これをいつまでも続ければやがてこの魔獣も死ぬのかも知れない、しかしその前にこちらが持たないだろう。


 俺は戦術を変えた。 体を宙に浮かせると天井めがけて、何度も斬りつけた。

(奴の背骨を断つことが出来れば、この体の体重を支えきれずに自滅するかもしれない) 剣はたやすく天井部分を切り裂いた。 しかし空中では踏ん張りが効かないため、深くはダメージを与えられなかった。 それでも俺は何度も何度も斬りつけた。 何度か背骨と思われる堅い物を斬った感触はあるのだったが、断ち切る所まではいかなかった。


 どのくらい経ったのだろう。 息苦しくなってきた。

(クソ、やはりダメなのか。 もう手詰まりだ) そう思った時に、不意にリーアとの会話を思い出した。 以前にレムについて尋ねた時のことだ。

「レムで物を作り出すことは可能なのかい?」

「ええ、可能だわ。 しかし、単一組成の単純な構造の物にした方が良いわね。 トマトを作ったり、複雑な構造の物は無理ね。 何故なら正確なイメージを持つことが出来ないからよ。 レムにおいては、イメージはとても重要なの。 たとえば、カケルが鉄の剣を作るとすると、鉄で出来た剣の形をした物をつくることはできるでしょう。 それを鍛冶職人が鍛えた剣と戦ったらどうなると思う?」

「すぐ刃こぼれを起こして、折れてしまうかも知れないってことかい」

「そう、カケルが何年も修行した鍛冶職人だったら、結果は別物になるかも知れないけどね」


(イメージ、まだ手はある) 俺は胃の床に降りると、剣を鞘に収めた。 そして両手を左右に広げると、目を閉じた。

(アドルとの戦いの時のことを思い出すんだ。 あの時、アドル攻撃をかわせないと思った時、無意識に周りの空気を爆発させ、吹き飛ばした。 あれをやるんだ。 息が更に苦しくなってきた、恐らくこれが最後の攻撃だ。 集中しろ、イメージするんだ) 俺は自分の体の周りが爆発して、魔獣が死ぬ姿を強くイメージした。 俺は自分の体中にレムが満ちてきて体が熱くなるのを感じた。


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