6-9 伝説の魔獣
次の日の朝、目が覚めると頭が痛かった。 飲まないようにしていたつもりだったが、口当たりの良さにいつの間にか結構飲んでいたらしい。 アドルとリースも具合が悪そうだった。
「カケル様、どうされますか?」 レオンが聞いてきた。
「そうだな、帰ろうか。 これ以上いても彼らの気持ちを変えることは出来なさそうだ」
「あら、折角いらっしゃったのですから、もう1日ぐらいゆっくりなさってはいかがですか。 今日は皆様に街をご案内しようと思っていたのですよ」 ファウラが入って来て言った。
「そこまで言って頂けるなら、お言葉に甘えましょう」 俺は帰るのを明日にすることにした。
日中、街中をファウラに案内してもらって、屋敷に戻ると中では人々が、険しい顔をして慌ただしく動いていた。
「何かあったのですか?」 俺はファウラに聞いた。 ファウラの顔が暗くなった。
「最近、近隣の村にバウ-ラが群れで現れていると聞いていますので、その件かも知れません。 確認して参ります」
しばらくして、ファウラと族長が現れた。
「隣の隣村にグルグラが現れたと言う報告が入ったのです」 族長が言った。
「グルグラ? それはどのようなものですか、魔獣ですか?」 俺は聞いた。
「伝説の魔獣です。 数百年に一度出現すると言われている魔獣で、実物は私も見たことがありません」 ファウラが言った。
「グルグラは、山のように巨大な亀のような魔獣で、目覚めると辺り構わず生き物を食べ尽くし、満足するとまた眠りにつくと言われています。 前回出現したのは、約350年前と言われています」
「どうされるつもりですか? 戦うのですか?」とレオンが聞いた。
「無理です。 グルグラは巨大な体に、岩のような外皮を持っています。 矢も刀も全然通じません。 前回の時には、5代のエディ王が駆けつけて頂いたと聞いておりますが、12王でも為す術が無かったと聞いております。 更にグルグラの周りにはバウ-ラが群れをなしているとのことです」
グラウスが慌てて入って来た。
「親父、もうグルグラが隣村まで来ている。 どうすれば良い」
「慌てるなバカ者、ここに来るのも時間の問題だ。 人々を西の山に非難させるんだ」
「何かお手伝いできることは?」俺は聞いてみた。
「ありません、12王と言えど、どうしようもありません」
「皆を非難させるための、時間稼ぎくらいならできるかも知れませんよ。 避難にどれ位の時間がかかります?」
族長はためらったが、決断したように言った。
「4時間、いや3時間あれば何とか・・・」
「分かりました、できる限りやってみましょう」
「どうか、無茶はしないでくださいね」とファウラ。
俺は外に出ると、意識を集中させゆっくり体を空中に浮かせた。 少し前から浮空術に挑戦していたが、これが以外と難しいのだ。 空中に浮いてからの姿勢制御がうまくできなかったのだ。 だが今はそんなことは言っていられない。 ゆっくり高度を上げていくと、側にグレンの羽ばたきが聞こえた。
「ムコウ、イル」 グレンが念話で言った。
東の尾根の向こう側を、山が動いていた。 よく見ると、それは巨大な首の長い亀のようであった。 背中には土が山になっていて木々が生えていた。 口から粘液のようなものを吐き出し、人や動物の動きを止め、そのまま丸呑みするのだった。 そしてそのおこぼれを狙って、俺が襲われたあのバウ-ラが十数羽、グルグラの上空を旋回していた。
俺は空いた口が塞がらなかった。
(何だこれは。 魔獣なんてレベルじゃないぞ、これは怪獣じゃないか。 自衛隊が来てミサイルで攻撃するとか、他の星からきた巨大ヒーローが相手をするような代物だぞ)
俺は一旦下に降りると、皆に言った。
「アドルさん、俺と一緒に来てください。 レオンさんとリースさんはここで人々の避難を手伝ってください」
「俺たちも行きます」レオンが言った。
「気持ちはありがたいですが、手の出しようがありません。 ただ一つ試してみたいことがあるので、アドルさんの力が必要なのです。 レオンさんたちは、避難中の人々が、バウ-ラに襲われる可能性が高いので、そちらに対処して欲しいのです」
「分かりました」 渋々承諾した。
俺は“王の秘密の部屋”へ行き、初代王の“雷光”を持ってくると、アドルと一緒に東の尾根まで飛んで行った。 グレンも後についてきた。 アドルは下を見て青くなっていたが、グルグラを見て更に青くなっていた。




