6-8 交渉
「王様自ら送って頂くなんて、もったいないです」 ファウラが申し訳なさそうに言った。
「いえいえ、私もほとんどセントフォレストを出たことがないので、色々と見て回りたいのです。
「森と山に囲まれた辺境ですよ。 確かに珍しい動物や魔獣はいますけどね」
「それでは、出発しますか」 俺はそう言うと、体が青みがかった騎竜に乗った。
今回の旅のお供は、レオンとリース、そして新たにサムライとなったアドルの3人だ。 アドルはサムライになると決まった後、族長のゾーリンと共に一旦グルサンに帰っていた。 その後レーギアに戻ると、担当もまだ決まらなかったので、とりあえず警護班預かりとなり、俺の警護が仕事になっていた。 グレンは、今回は置いて行きたかったのだが、例のごとく聞き分けが無くどうしてもついて行くと言い張った。 仕方なく供を許したが、今度は騎竜たちが嫌がった。 仕方なくグレンは自分で空を飛んでついて来ることになったのだった。
5人は騎竜にまたがると、一路北を目指した。 俺はファウラの横に騎竜を並べると、話しかけた。
「何故、私に会いたいと思われたのですか?」
「生まれてからずっと、同じ一族の村以外出たことが無かったのです。 それで今回の件が、外に出る良い口実になると思ったのです。 それと王様がどんな方か会ってみたいと思ったのです」
「会ってガッカリしたでしょう」
「いえいえ、12王は恐ろしい方と聞いておりましたので、どんな怖い方が出てくるのかと思っていたら、とてもお優しい方で、その意味では少し拍子抜けいたしましたが・・・」 笑顔がとてもまぶしかった。
エルム族の街までは、3日間かかった。 奥地へ行くにしたがい、どんどん道は狭くなり、沢や山を越え、道とは思えないような崖を渡っていった。 ようやく3日目の夕方、木製の大きくない家が密集した街が谷に広がっていた。 山を下っている時に3人のエルム族の若い男が、道に現れ弓でこちらを狙っていた。
「カル、ウエイ、フォイ、弓を下ろしなさい。 こちらは12王のカケル様よ」 ファウラが3人に強く言った。 3人はお互いに顔を見合わすと、やがて弓を下ろした。
「カル、お父様に伝えて、私は賊に襲われて王様に助けられ、送って頂いたの。 至急客人をもてなす準備をするようにとね。 ウエイ、フォイ、客人を街までご案内して」
谷の中央辺りの少し小高い所に、明らかに周りの家とは違う屋敷と言うべき建物があった。 豪華では無かったが、広く清楚な部屋にブーツを脱いで通された。 板張りの床は良く磨かれて光りを放っていた。 板壁には様々な色の糸で織られ不思議な模様が描かれた布が、何枚も飾られていた。 しばらくすると、ファウラと同じような紫がかった髪の男性と、緑がかった髪をした長身の若者が、ファウラと一緒に入ってきた。 ファウラは黄色の艶やかな衣装に着替えていた。 年長の男はにこやかに入ってきたが、掘りの深いその目は探るようであり、決して笑っていなかった。
「ようこそ、プラウへいらっしゃいました。 この地をまとめております、ベラスラ・スフィン・サウルと申します。 そしてこれは我が息子、グラウスです。 この度、レギオンの王にご即位されたこと、お祝い申し上げます。 それと我が娘の危ないところをお助けいただいたとのこと、心よりお礼申し上げます。 更にこのような辺境まで、王自ら娘をお送り頂くとは、恐れおおいことです」
「いえいえ、私も王になったばかりの者で、この森のことも良く知りません。 それで今回良い機会なので、こちらを訪問させていただいたのです」
「そうですか、田舎ゆえたいしたおもてなしも出来ませんが、今宵はごゆるりとなさってください」
その夜、我々はもてなしを受けた。 濁り酒に、焼き魚、肉料理、他に見たことが無いような山の珍味が次々に運び込まれた。 アドルやリースは大いに飲み、大いに食べていた。 レオンは周りの様子に気を配りながら、濁り酒をチビチビ飲んでいた。 俺はこれからの交渉のことを考え、酒を飲まないようにしていたが、次から次とファウラに注がれ、いつの間にか少し酔ってしまったようだ。
「ところで王様、今回こちらへわざわざ足をお運びなされたのは、他にもご用事がおありなのではございませんか」とベラスラは切り出した。
(そら、きた。 酔わせてこっちの本音を探ろうということか) 俺は覚悟を決めた。
「そうですね、やはりそう考えますよね。 私は、駆け引きは得意ではないので、率直に申し上げます。 じつは、エルム族に力を貸していただきたいのです」
族長は、少し驚いたような顔をしたが、すぐに少しいぶかるように言った。
「これは異な事をおっしゃいます。 大陸中に名を轟かす12王が、こんな辺境の小さな種族に何を求められる」
「ご存知かも知れませんが、少し前我がレギオンは橙のレギオンと戦いました。 それはこちらから仕掛けた訳でも無く、やむを得ない戦いでした。 今や不戦の盟約も失われ、いつ他のレギオンとの戦いが始まるやも知れません。 その際、敵はどのような卑劣な策を取るかも知れません。 森を焼き払うかも知れず、他の種族の街を攻撃するかも知れません。 そうした時、現在の我がレギオンの兵力では対処しきれないだろうと考えています」
「それで、戦いが始まった時に、我らにもレギオンに加勢しろとおっしゃるのですね」
「その通りです」
「そうですか、しかしそれでしたら、残念ながらご期待には添えません」
「第一レギオンが何故、我らの協力を得られると考えるのだ? 我らはレギオンには恨みこそあれ、何の恩義もないのだぞ」 酔ったグラウスが怒って言った。
「これ、グラウス」 族長はやめるように、目で合図した。 しかしグラウスは無視して続けた。
「我らの先祖が昔より住んでいた森に、勝手に入ってきて我が物顔で振る舞い、他の種族の者たちをどんどん受け入れたために、我らはどんどん森を追われたのだぞ。 そんな王やレギオンのために、なぜ我々が手を貸さねばならぬのだ。 虫が良すぎるだろう」 グラウスは悔しげに言い、杯を一気に空けた。
「カケル様のせいではございませんのに、失礼いたしました。 しかし、エルム族の多くの者たちは、大なり小なり同じような思いを持っていると思われます。 我らは他のレギオンに手を貸しません。 それはお約束いたします。 しかしそれ以上のことはお引き受け出来かねます」
「そうですか、分かりました」
(やはり、グレアムさんの言うとおり、無理だったか。 俺に交渉事は向かないよな)
その夜はそれ以上、その話題は誰も触れなかった。




