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6-2 戦略会議

 この日は前の戦争が終わって、初の会議となった。 アンドレアスとセシウスは戦後処理で忙しく、グレアムも前王の葬儀の準備で忙しかった。 ユウキは、レギオンの現状を把握すべく連日走り回って、様々な部署に顔を出し担当者に嫌な顔をされながらも、様々なことを聞き込んでいたのだ。


 「本日の会議は、私が司会進行をさせていただきたいと思います。 皆様、よろしいでしょうか?」 ユウキが立ち上がると、最初に発言した。 アンドレアスやグレアムは少し驚いた表情をしたが、すぐに“何か考えがあるのだろう”と察したようだった。

「カケル様がそれでよろしければ、異存はない」 アンドレアスが言った。

「かまわない、始めてくれ」 俺はユウキに促した。


 ユウキは、俺の脇に三脚を開いたかと思うと、黒い板を載せた。 そして“本日の議題”と書き、その下に更に箇条書きで項目を書き出した。 俺は驚いた。 俺たちは、何故かこちらに来ても会話に困ることは無く、不思議とこちらの文字を読むことはできた。 しかし文字を自在に書くと言うことはできなかったのだった。 現にまだ俺は、自分の名前と簡単な言葉ぐらいしか書くことができなかったのだ。 ユウキは書き終わると、事もなげに話し始めた。


 「本日の議題は、1つめがレギオンが今抱えている問題点について。 2つめがその解決策について。 3つめが、アドルという獣人とグルサンの処分についてです」 ユウキは続けた。

「レギオンが抱えている問題の内、切迫している問題が3つあります。 1つは兵力増強。 2つ、財政の逼迫。 3つ、情報収集力の強化です。 1つめの兵力の増強については、ご説明するまでもないと思います。 今の兵力では今後予想される戦争に備えるには不十分です。 2つめは、僕も驚いたのですが、国庫には十分な備えはありません。 私の試算では、次に先の戦争と同じ規模の戦いがあれば、それで国庫は空になります」 それを聞いて、グレアムは渋い顔をした。

「そして3つめは、諜報と防諜が脆弱なことです」 ユウキはここまで話すと、一同の顔を見渡した。

「ユウキの指摘した点については、異論はない」 アンドレアスも口を歪めながらも同意した。 グレアムとセシウスも頷いた。


 ユウキは話しを進めた。

「それでは、次にこれらの問題点の解決策についてですが、何かお考えはございますか?」

「もったいぶるな、何か考えがあるのだろう? お前の策を言って見ろ」とアンドレアス。


「それでは、兵力増強についてですが、まずセントフォレストから兵を募ります。 セシウスさん、どのくらいの兵を増やすことが出来ますか?」

「それについては、俺とアンドレアスも考えていた。 ただいたずらに数だけ増やせば良いと言うものではないので、ある程度使えるレベルにしなければならない。 となると、半年後までに3千、1年後までに5千というところだろう」

「と言うと、1年後にはレギオンの兵数が1万になっているということですね。 しかし、それでは遅すぎないですか? それに1万でもまだ少ない気がしますが・・」 俺が言った。


「それで、2つめです。 このオーリンの森には、各種族の街や村が幾つもあると聞いています」 ユウキがそこまで言った時に、アンドレアスが手を挙げて、ユウキを制した。

「ユウキの考えていることは、このオーリンの森に住む“逃れの民”を戦列に組み込もうと言うことかな? もしそうなら、それは諦めろ」

「何故ですか?」

「それについては、私の方で説明しよう」 グレアムが言った。

「初代ゴードン様がこの地に拠点を置かれると、戦乱を逃れて様々な種族の多くの民達が移住しました。 その時、ゴードン様はレギオンに敵対しない者には居住を認めると約束しました。 しかし約束はそれだけなのです。 彼らは王の庇護下にはありましたが、レギオンの民達ではないのです。 そのため、彼らに納税の義務も無ければ、王の命令に従う義務も無いのです。 それが千年近く続いたのですから、今更王の命に従えと言っても、彼らは従わないでしょう」 グレアムの言葉に、アンドレアスとセシウスも頷いた。


「果たしてそうでしょうか? 私はそうは思いません」 ユウキはそう言うと、アンドレアスに向って質問した。

「アンドレアスさん、あなたが敵の12王だとして、このレギオンをどのように攻めますか?」 アンドレアスは一瞬、片方の眉をつり上げたが、少し考えてから話し始めた。

「そうだな、森の南北から軍を進め、それに対応するためにレギオンの軍が出払ったところを、レーギアに空から奇襲をかけるかな。 だが実際はこの策はうまくいかないだろう。 レギオンの防御陣は堅い」


「私なら違う手を使いますね。 後先を考えないなら、風の強い時期を選んで、森の風上から数十カ所に火を点けます」 ユウキは無表情で静かに言った。

 アンドレアスとセシウスは驚いて、ユウキを睨みつけた。

「そんなことをしたら、火が森全体に広がり、何十日間も燃え続け、一帯は焼け野原になってしまうぞ。 焼け死ぬ人や生き物も数知れないだろう」とアンドレアス。

「そんなのは策でも何でもない、兵家のすることじゃない」とセシウス。

「そうです、外道の策です。 しかし敵が絶対にやらないと言えますか。 私ならそうして、怒りに燃えたレギオンの兵を外に引き出してから叩きます」 アンドレアスもセシウスも言葉が出なかった。

「その場合、もうレギオンだけの問題では無いですよね。 森に住む人々全体の問題です。 協力する余地が出て来ませんか?」

「その強引な論法で、協力させようというのか。 どこまで求めるつもりだ」とアンドレアス。

「有事の際に、兵を出すこと。 全兵力が一体として動くために、その間の兵権を王に預けること。 税は求めないが、各自の出兵にかかる費用、兵糧は各自負担とする」

「しかし、それを飲ませるのは、容易ではないぞ」とセシウス。

「でも、やってみる価値はあるのではないですか」と俺は言った。

「その通りです。 そして今が好機だと考えています」 ユウキが笑った。

「お前、先日の獣人族の騒乱を利用するつもりか?」とアンドレアス。

「そして3つめは・・・・」とユウキは自分の案を披露した。


 会議が終わって、俺とユウキが部屋を出て行った後、アンドレアスは残った2人に言った。

「どうやら我らがレギオンは、王とドラゴンの他にアーセル(伝説の鳥)も手に入れたようだ」


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