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1-7 救出作戦(3)

 「お前等、そんなに殺し合うのが嫌なら、俺が二人とも切り刻んでやる」 狐男の兵士は、自分の腰の剣を抜いた。 その時北側に座って飲んでいた兵士の一人が南の空を指さし叫んだ。

「火、火事だ」

その声と同時にジュリアンは屋根に立ち上がり、弓に矢をつがえほほのところまでつるを引き絞ると矢を放った。 矢は兵士の一人の腕に刺さり、その兵士は悲鳴を上げた。 それを見て驚いた隣の兵士は叫んだ。「敵襲だ」 

ジュリアンは続けざまに更に2本の矢を射ると、姿を消した。 兵士たちは慌てふためきだした。 指揮官は立ち上がり、矢が放たれた方を向いたが、その時には誰も見当たらなかった。


 「総員、臨戦態勢をとれ。ウルの隊は火を消せ。 ホージーの隊は敵を探せ。それ以外のものは、次の襲撃に備えろ」そして狐男の兵士に顔を向けると、言った。

 「もう良い。連れていけ、殺すなよ。簡単に殺してはつまらない」 兵士は不満そうな顔をしながらも、2人を渋々納屋の方へ連れていった。 2人が納屋の前まで連れて行かれ、監視役の兵士に渡された。 狐の兵士は戻り、監視役が扉を開けて2人を納屋に入れ扉を閉めようとしていたとき、隣の納屋で馬が騒ぎ出し数頭が小屋から駆けだした。 兵士は馬小屋の方を見た時、突然黒い影が飛び出したかと思うと、剣の柄の部分でみぞおちを突かれ、何も反応できずにその場に倒れこんでしまった。


 俺と上代は納屋に戻ったとたん、外で物音がしたかと思うと扉が再び開いた。 そこには頭と顔を黒い布で覆った人が立っており、その隣には白い服を着た黒猫が立っていた。

「2人とも、早く出るんだ」黒猫が言った。

「他の人たちは?」

「2人だけだ、他の人は連れて行けない」黒覆面が言った。

「そんな、他の人も助けないと」

「無理だ、従おう」上代が言った。

「俺も助けてくれ」村人の一人が言った。

「逃げたければ勝手に逃げろ。これ以上の手助けはできない、急げ」


 上代は躊躇している俺の手を引っ張りながら、外へ出て行った。 その時、暗がりからもう一人の人間が出てきた。「いくぞ」覆面がまわりに兵士がいないのを確認して、走りだした。 “4人と1匹?”は先頭の人物から離れないようについていった。 黒猫がどうしても遅れぎみになった。 俺は見かねて服の襟をつかむと、ひょいと持ち上げ、子どもを肩車するように肩の上にのせて走った。 村の建物の間を時折兵士の集団が通り過ぎるなか、建物の影に隠れながらやり過ごし、村の北口の柵が見えたところで、人の悲鳴が後ろで聞こえた。 振り返ってみると、30メートルほど離れたところで、一緒に逃げた村人が兵士に槍で刺されていた。


 「振り向くな、急げ」後ろからもう一人顔を覆った人間が近づいて来るのが分かった。 俺たちは走り続け、入り口の柵から脱出することができ、どうやらうまく逃げられたと思った時、前方の草むらからうごめく塊が見えた。 良く見ると10名近くの兵士が、こちらに気づいて道に立ちはだかるように出てきた。 彼らはすでに獣化し、戦闘モードに入っていた。 最後尾にいた黒覆面が先頭に行くと、立ち止まってその人数を確認しているようだった。 他の2人はその両脇に立った。

「強行突破する。生かして逃すな」両脇の二人は黙ってうなずいた。 そしてお互いに動きを阻害しないように左右に広がり、各々に敵を引きつけた。


 「離れていろ」そう言うと、真ん中の人物が弓をかまえたかと思うと、素早く矢を放った。 矢は正面から走りながら剣を振りかざしている、イノシシの獣人の胸のど真ん中に深々と刺さり、一瞬動きが止まったかと思うとそのまま前のめりに倒れた。 続けざまに放たれた次の矢も、その後から続いたイタチの獣人の眉間に突き刺さり、前のイノシシの上に重なるように倒れ込んだ。 それを見た犬と猿の獣人が怒りの咆哮を上げながら、倒れた仲間の脇を通って同時に襲ってきた。 正面の黒覆面は、弓を脇の草むらに放ると腰から剣を抜いた。 左から犬の獣人が右手を振り上げ、指先の鋭い爪で引き裂こうと襲ってくると、少しも慌てた様子もなく、体を右に反転させて攻撃をかわしたかと思うと、犬の右腕が肘の手前から落ちた。 犬が驚きの顔をして悲鳴を上げる間もなく、黒覆面は体の向きかえ剣を下から上へ振り上げたかと思うと、犬の首から鮮血が吹き出した。 黒覆面はそのまま動きを止めず、太い鉄棒を振り上げていた猿の獣人の方へ向くと、一瞬姿が消えたかのように見えた。 次の瞬間には猿の懐に入っていて、両手で握っていた剣は猿の腹から根元まで突き刺さり、背中から突き出ていた。


 右側では、黒覆面を牛とヒヒと狼の獣人が、取り囲むようにして迫っていた。 黒覆面は腰から鞭を外すと、巨体の牛の足に鞭を打ち込んで右足に絡ませてバランスを崩して倒した。 鞭を手放したかと思うと、次の瞬間には牛の胸の上にのっており、いつの間に抜いたのかのどには剣が突き刺さっていた。 右から狐が剣で切りつけてきたが、その動きに合わせるように右に転がり、狐の足下まで来ると起き上がりながら右足で狐の足を払った。 すかさず足をすくわれて倒れた狐の胸にナイフを突き立てた。 狐の獣人は一瞬体をけいれんさせたがすぐに動かなくなった。 黒覆面はそのまま動きを止めず、後ろに目があるかのように、背後から剣で切りつけようとするヒヒの攻撃をかわし、立ち上がると体を左に反転させたかと思うと、すでにヒヒの左脇にいた。 驚いたヒヒが左に向きを変えようとしたときには時すでに遅く、ナイフが左の脇の下から深く刺さっていた。 「ゴフッ」という音とともに血を吐いて前に崩れ落ちた。


 左側では、もう一人の黒覆面が猿の獣人と向かいあっていた。 2メートルを超える巨体に剣を持ち、風切り音をさせながら左右に振りながら近づいてきた。 その脇を熊と虎の獣人がすり抜け、俺たちの方へ向おうとしていた。 黒覆面は慌てた様子もなく猿の剣先をかわしながら、素早く右前に移動したかと思うと体を反転させながら猿の左脇腹を思いっきり剣で切り裂いた。 猿は「ギャー」と悲鳴を上げながら地面に片膝をついた。 手で傷口を押さえたが、ぱっくり開いた傷口からは腸が飛び出していた。 黒覆面の動きは止まらず、そのまま一回転しながら空中に飛び出したかと思うと、勢いをつけながら一気に猿の首を切り落とした。 首のない体はそのまま前のめりに突っ伏した。


 黒覆面は着地すると、猿の姿を確認することもなく、すでに俺たちを狙っていた熊と虎の方へ駆けだしていた。 虎は背後から迫る気配に振り向いていたが、時すでに遅くそこに見えたのは、空中に剣を上段に振りかぶっている黒覆面の姿だった。 虎の獣人は剣を上げて防ごうとしたが、間に合わず腕ごと肩から袈裟切りにされてしまった。 虎が握っていた剣は、その時の勢いで回転しながら俺たちのすぐそばまで飛んできて地面に突き刺さった。 虎は手がなくなった腕で何かをつかもうとするかのごとく、腕を前に突き出しながらそのまま前に崩れ落ちていった。 黒覆面は、その体に押しつぶされないように、体を右に反転させながら左前に素早く移動しながらも、すでに熊の獣人の位置を確認していた。 熊は俺たちのすぐそばまで迫っていたが、後ろの異変に気づいて後ろに向き直った。 黒覆面は、すでに熊の攻撃の間合いに入っていた。 熊は左上段から左腕を振り下ろし、その鋭いかぎ爪で引き裂こうとしていた。 黒覆面は下段から剣を両手で振り上げ、熊の腕を断ち切ろうとしたが、熊の腕に受け止められ、断ち切るどころかその剛力に押し負けて吹き飛ばされてしまった。


 レムで強化されていたのか」黒猫はつぶやいた。 熊は、草むらに倒れて体制をまだ立て直すことができずにいる機会を見逃さなかった。 素早く突進すると、上体を起こした黒覆面に右手の爪でとどめを刺そうと振りかぶった。

「ヤバイ」と俺はつぶやくと、思わず肩の上の黒猫を放り出し、駆けだしていた。 近くにあった虎の剣をつかむと、熊に向っていった。 黒覆面は剣でなんとか爪の攻撃を受けていたが、身動きとれずこのままでは力負けするのは目に見えていた。 俺は剣を両手で振りかぶると、思いっきり熊の肩に振り下ろした。 かなりの手応えはあったのだが、熊の強靱な筋肉と硬い毛に守られているせいか、かすり傷程度しか与えられなかった。 熊は「ゴア」と威嚇するような声をあげながら、うるさいハエを追い払うようにこちらを振り向きながら腕を振り払った。 俺は爪の直撃は避けられたが、丸太のような腕を腹に受け吹き飛ばされてしまった。 だが黒覆面はその一瞬を見逃さなかった。 すかさず左に転がりながら上体を起こし、剣をかまえると間をおかず飛び出した。 熊が黒覆面の方に向き直った時には、剣が胸の真ん中に深々と突き刺さっていた。 熊は苦痛に顔を歪めながら、爪で攻撃しようとしたが、黒覆面はその攻撃を見越したように、剣を離して後ろにサッと引いた。 肩すかしを食った熊はそのまま顔面から地面に突っ込んでいった。


 「何という手練れだ」クロームはつぶやいた。 上代もその隣でただ驚きのあまり呆然としていた。 無理もない。 この3人の流れるような動きは同時進行で行われ、10人もの敵を倒すのに要した時間は、おそらく1、2分であったろうと思われた。

 昨日の戦闘で、獣人たちの圧倒的な戦闘力を見せつけられているだけに、この実力差は驚異的であった。

「助かった、ありがとう」黒覆面が右手を差し出し、俺を草むらか起こしてくれた。

「終わったか、撤収するぞ。証拠は残すな」真ん中の黒覆面が言うと、矢の回収を始めた。 こちらの黒覆面も熊から剣を抜き取り、熊の服で血糊をふくと鞘に納めた。


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