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5-12 開戦前夜

 深夜、緑のレギオンの陣から半日ほど南の地。 1万5千人の兵がいくつかの集団に別れて休んでいた。 あるテントの中に3人の獣人がいた。

「グーガはどうした」 奥の真ん中にあぐらをかいて座るゴリラの獣人の隣に座っていたハイエナの獣人が言った。

「死にました、矢に当たって」 黒ずくめの服を着たヒョウの獣人が、2人の前で数時間前、緑のレギオンで起こったことを報告した。 それを、酒を飲みながら、黙って聞いていたゴリラの大男が、突然激怒して握っていた杯をヒョウの獣人めがけて投げつけた。 その杯はヒョウの額にあたり、その傷口から血が滴った。

「愚か者が、誰が暗殺など命じた。 お前達は我がレギオンの顔に泥を塗ったのだぞ」

「まあ、落ち着かれませ、ゴラム様。 済んでしまったことは、しようがございますまい」 ハイエナが言った。

「分かった、下がれ」 ゴリラの獣人が言った。 ヒョウの方は傷口を押さえながら、テントを出ていった。


 「ベッジ、どう見る」 ゴリラの獣人がハイエナの方に言った。

「そうですな、向こうは本気で戦う気のようですな」

「正気か、我らの一人は人族の3人から5人の兵に匹敵するのだぞ。 つまり1万5千の我が軍は、人族の5万以上に相当する。 奴らは5千と聞いている。 10倍以上の兵力に勝てると思っていると言うのか」

「何か策があるのでしょう。 備えの様子から推測すると、3重の柵で我らを引きつけ、そこで足止めしている間に、別動隊が我が本陣に奇襲をかけ、大将であるゴラム様の首を取る、と言ったところでしょうか」

「甘いわ、実物を見ていないが、その程度の柵で走り出した我が軍の勢い、止まりはしない。 それに、俺の首を取ろうなど、俺も甘く見られたものだ。 返り討ちにしてくれるわ」

「いいえ、もしそのような状況になりましても、絶対に一騎打ちなどはなされぬよう。 向こうの狙いはそれ一点だと思われます。 ゴラム様を討ち取って、兵を引かせる、それが向こうの狙っている勝利でしょう」

「第1に、向こうに俺を討ち取れるほどの者がおるのか?」

「用心すべきは、司令官のアンドレアスと副将のセシウスでしょう。 2人とも前王からのサムライで、その強さははかりかねます」

「ベッジ、お前は少し用心しすぎだ。 本当は、緑のレギオンの王都で進めている策も、やり過ぎだと思っている」

「何事も、念には念を入れよ、ですよ。 我々も負けるわけにはいかないのですから」 そう言いながら、ベッジと呼ばれた男は、新しい杯と酒瓶を持ってきた。


 両軍が対峙したのは、翌日の午後になってからだった。 ゴラム将軍率いる1万5千の兵は、緑のレギオンが布陣する丘の手前約2キロのなだらかな丘陵に布陣した。 ゴラム将軍は敵陣の丘の前に並ぶ3重の柵を見て、大きな鼻をピクリとさせながら「ふん」と笑った。 隣に、参謀のベッジが来て言った。

「まあ、想定内ですな」

「あんな物、たいした役にたちはしない。 明日は考えが甘かったことを、しっかり思い知らしめてやるわ」

「5千にしては、少ないようですね。 やはり別動隊が潜んでいるということでしょう。 おそらくはあの辺りかと思われます」 左手の森の方を指し示した。

「フン、そんなものは放っておけ、来ると分かっていれば奇襲とは言えぬ」

「それと、あの柵の前には落とし穴がある。 そんなところですかね」

「明日、夜明けと共に攻撃を開始する。 昼までには決着をつけるぞ。 それと、可能性は低いと思うが、夜襲には備えておけ」 そう言うと、テントの方へ歩いていった。


 「敵の様子はどうだ」 アンドレアスはセシウスが入ってくると聞いた。

「予想どおり、2キロ南の丘陵に布陣しました。 今は兵に休息を取らせています。 明朝、攻撃を仕掛けてくるものと思われます」

「夜襲の可能性はどうだ?」 アンドレアスは聞いた。

「それは敵も想定しているでしょう」 ユウキが言った。

「成功する見込みは低いと思います」 セシウスも言った。

「そうか、こっちの仕掛けの方はどうなっている」

「準備は整っています」

「分かった。 カケル様、それでは予定どおりということで、進めますがよろしいですね」

「それで進めてください。 明日、私は何をすれば良い?」

「カケル様の出番はございませんよ。 ここで兵にお姿をお示しになり、戦いぶりをごらんになっていただくだけで、結構です。 それだけでも兵の士気があがります」

「分かった」


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