5-10 軍議
翌日の午前中に、アンドレアスとグレアムとで留守中の確認をして、昼に出発となった。 飛竜の車に、俺とアンドレアス、ユウキ、ジュリアンそしてグレンが乗った。 4頭の飛竜の周りにレオン、ホーリー、リース、エレインが飛竜に乗って、警護にあたっていた。 眼下に広がる緑の海を一行は南に進路をとると、スピードを上げた。 陣をしく場所までは、夕方までには着くとのことだった。
陽が傾くころ、ずっと続いた森を抜け、あちこちに岩がむきだしになった、なだらかな起伏が続く草原になった。 右手に蛇行する大きな川が見え、その左手に小高い丘が見えた。 その丘の上や周辺で大勢の人が動いているのが見えた。
「あれが陣をはる場所です」 アンドレアスが、丘を指さして教えてくれた。 丘の上には、大きなテントが幾つか張ってあった。 手前の斜面を下った所にも幾つものテントが張られ、様々な物資も集められていた。 レオンがまず先に丘の上に降りると、周りにいた兵に指示をして、車が降りられる場所を空けさせた。 ホーリー達が警戒する中、4頭の飛竜が静かに車を着地させた。
レオンがドアを開け、車から降りたところに、セシウスがこちらに歩いてきた。
「カケル様、お待ちしておりました」
「ご苦労さまです」 俺が声をかけると、セシウスは微笑ながら手でテントを指し示した。 俺たちはセシウスに促され、テントに入った。
「状況を聞こうか」 アンドレアスが、椅子に座るやいなや、せかすように言った。
「我々もこの午後に到着したばかりで、ようやく設営が一段落するところです。 敵は今のところ、見える範囲にはおりません。 現在斥候を出しているところです。 予測では敵が現れるのは、早くても明後日かと考えています。 明日から仕掛けにかかります。 現場を確認した限りでは、作戦を変更しなければならない要因はみあたりません」
「分かった、では予定どおりということだな」
「今のところそうです」
「では、引き続きよろしくお願いします」 俺が言った。
翌早朝から、森から木を切る斧の音が幾つも聞こえてきた。 5千人が分担で、木を切る者、枝を落とす者、騎竜や飛竜で丸太を運ぶ者、丘の前方に柵を造る者が効率よく作業を進めていた。 敵の進撃を食い止めるため、左右に2キロ、3列の柵を設置したのだ。 その日は一日、俺は各作業場を回り、兵達に声をかけて労をねぎらった。 斥候からの報告では、敵が到着するのは明日の午後になるだろうとのことだった。
その日の夜、各部隊長が集まり、軍議が開かれた。 テントはかなり大きかったが、テーブルを囲んで7人の部隊長など10人以上が入って、窮屈だった。 各部隊長から準備の進捗の報告があった後、セシウスからもう一度作戦の内容の確認が行なわれた。 変更された点は、作戦の終盤で敵の本陣に奇襲をかける部隊を、セシウスが直接指揮をとると言うことだった。
「カケル様、これは今回の作戦の締めくくりの重要な場面です。 ここで敵将の首を取れるかどうかで、結果に大きく関わってきます。 私が、敵将を討ち取ります。 どうかお認めください」 俺は、アンドレアスの顔を見た。
「ふん、お前自身が暴れたくてウズウズしているだけじゃ無いのか? だが、言っていることはもっともなことだ」 そう言うと、アンドレアスは俺の方を向いて言った。
「カケル様、それでよろしいかとぞんじますが・・」
「そうか、ではセシウスにまかせる。 だが、敵の本陣にどれだけの兵が残っているか分からないが、危険な役割だ。 必ず生きて帰ってくるのだ」
「ありがとうございます」 セシウスは、恭しく頭をさげた。 これで軍議が終了というところで、アンドレアスが言った。
「良いか、何度も言うが、今回は負けられない戦だ。 更に言うならば、鮮やかに勝たねばならない。 各部隊のタイミングと連携が戦果を分ける。 心してかかれ。 明日敵が現れても、恐らく戦いは翌朝になるだろう。 だが裏をかいてそのまま戦闘に突入ということもあり得る。 備えておけ」 軍議は終了した。




