5-9 バトルロイヤル
翌日も午前中は、ユウキとともにグレアムや大臣達から、歴史や現況について説明を受けていた。 午後はユウキと話しをして過ごした。
「どうです。 少しは慣れましたか、カケル様」 ユウキが言った。
「よしてくれ、2人の時にはタメ口で良いよ。 慣れる訳ないだろう。 なんだかすごく疲れる。 できるものなら代わって欲しいよ」 ユウキは笑っていた。
「それより、今回の戦争をどう思う」 俺はユウキに真顔になって言った。
「正直なところ、かなり厳しいと思う。 セシウスさんの作戦どおり行けば勝つことはできるだろう。 だが、あの作戦は各部署の連携が非常に重要になってくる。 一歩間違えば、作戦全体が台無しになってしまうだろう」
「やはり、そう思うか」 自分が危惧していることを、ユウキも感じていることで、ほっとする反面、不安も大きくなってきた。
「さらに、今回の戦いは“何とか勝つことができた”ではダメなんだ。 完璧な勝利でないと」
「どういうことだ?」
「やっと勝った場合、こちらの被害もかなりの数になってしまうだろう。 そうなると、減った兵をすぐに補充できない。 訓練された精兵ともなるとなおさらだ。 そうすると、2戦目はまず勝てない。 今回、完膚なきまでに叩いて、相手につけいる隙を見せないようにしないと、橙のレギオンだけではなく他からも攻め込まれる」
「それだ、12王会議の話からすると、どことどこが手を組んでいるかも分からないし、そもそもクリスタルの王の意図も少し腑に落ちない」
「うん、俺もそれは考えていた。 もしかしたらクリスタルの王は不戦の盟約を破棄する事が目的だったのかもしれない」
「何のために?」
「自由に戦いができるようにするためだ」
「戦って何をしようと言うんだ、世界征服か?」
「それはまだ分からない。 ただ、現状は皆が敵で、いつどこから攻めてきてもおかしくない状況だということだ」
「それって、なんかプロレスのバトルロイヤルに似ていないか。 俺は7人の屈強なプロレスラーのいるリングに無理矢理あげられた気分なんだけど」
「そのたとえは、面白いな。 そして一番弱いルーキーは、最初に狙われる」 ユウキは皮肉っぽく笑った。
「笑い事じゃないぞ」
「とにかく、明日は俺も一緒に行くから」
「そうか、一緒にいてくれるだけでも、心強い」
「こっちも気になるのだが、俺一人こっちにいても何もできないからな」
「えっ、何が気になるんだ?」
「いや、俺が向こうの将軍だったら、ここに対して何らかの策を仕掛けるなあと思ってな」
「策って、たとえばテロってことか?」
「まあ、それもあり得るかもしれない。 ここに僅かの守備兵しかいなくなるので、陽動としては有りだなと。 一応、グレアムさんには、十分警戒してくださいとは言ってあるけど」
「まあ、色々可能性を考え出したらきりが無いけど、うちの軍勢を考えたら兵をこれ以上割けないからな。
ところで、話は変わるが、12王って俺たちの世界から来たんじゃないかな」
「俺もそれは考えていた。 だってレギオンなんてローマ帝国の軍団のことだし、レーギアだってラテン語だ、サムライなんていうことばが使われているなんて、どう考えてもおかしい」
「やはりそうか」
「俺が思うに、初代の12王たちは全員向こう側から来たのじゃないかと考えている。 伝説によると、12王たちはほぼ同時期に突然現れたと言われている。 そのことをグレアムさんに聞いてみたのだが、『その可能性は否定できない。 しかしゴードン様に聞いても、はっきりとはおっしゃらなかった。 ただ、向こうの世界の言葉などに詳しかった』というだけだった」 俺は、それを聞いて、小指のリングの言葉に納得がいった。 おそらく少なくとも初代の王は、俺たちと同じ世界から来ていたに違いない。
「そうだ、リーアって言う天聖球のナビゲーターに聞いてみたらどうだ?」
「それが、『何でも安易に聞こうとするんじゃない』とか言って、肝心なところは結構教えてくれないんだよな」
「Need to know ってやつだな」
「何それ?」
「軍隊とかで、必要な奴にしか情報を教えないという、秘密保持の考え方のことだ」
「そういえば、俺のレベルが上がれば、知ることができることが増えるとか言っていたな」
「それなら、その内教えてくれるんじゃないか」
「ところで、今晩飯を一緒に食わないか? 料理はすごく上等なのが出てくるのだけど、やっぱり俺とグレンだけじゃ味気なくて」
「良いけど。 そういえば、美人のメイド達が付いてくれるんじゃなかったっけ?」
「それだけど、アンドレアスさんにだまされた。 『今は非常に大事な時期です。 余計なことに気がそれてしまわないように、全員解雇しました』って言われた。 それだけが楽しみだったのに」 それを聞いて、ユウキが腹を抱えて笑った。 その時に丁度、メイドがお茶を持って入ってきた。
「ごめんなさいね、こんなおばさんがお世話係で」 お茶を入れながらメリナが、笑いながら言った。
「とんでもない、メリナさんにはとても感謝しています」 俺は慌てて言った。
「メリナさん、夕食はユウキと一緒に取りますから、準備をお願いします」
「かしこまりました」と言って出て行った。




