5-8 秘密の部屋(2)
俺は立ち上がると、部屋の中央で左腕を突き出し、「オープン、ザ、ドア」と唱えた。 すると、目の前の空間に楕円の赤い扉が現れた。 扉には見たことのある模様、いや紋章が描かれていた。 俺の胸にあるやつと一緒だ。 次の瞬間赤い扉は渦を巻きながら消え去り、向こう側に別の部屋が見えた。
部屋の中は、最初薄暗く、倉庫をイメージしたが、中に入ると急に明るくなった。 部屋の照明は、ドーム型の天井自体が柔らかな光を発していた。 部屋は丸い大きな部屋で、壁全面が棚になっており、出入り口はどこにもなかった。 部屋の真ん中には大きな立派な机、ソファー、作業台として使っていたかのような大きなテーブルがあった。 周りの壁の棚には、武器や武具のエリア、本のエリア、カップやランプなど日用品のエリア、指輪や宝石などのエリアに分かれていた。 武器のエリアが一番大きく、その次が本のエリアになっていた。
(すごい量だな。 さしずめ、ここは宝物庫兼秘密の隠れ家ってとこか) 俺は本棚の中から分厚い一冊を取りだしてみた。
(読めるぞ、“世界の希少生物”。 これはユウキが興味を持ちそうな本だな) そこには、見たこともないような生き物や魔獣が、絵と生態を説明した文と共に書いてあった。 本を戻すと、棚の前を移動した。
圧巻はやはり、武器や武具のエリアだ。 博物館かと思うくらい、様々な剣、槍、弓、石弩その他見たことがないような武器まであった。 武具の方も、盾や鎧など、豪華な装飾のものもあれば、傷だらけで大きく破損している物もあった。
「リーア、これらに付いて詳しいのだろう?」
「ハーイ、呼んだあ?」 今回リーアは赤い生地に白い花柄の着物を着ていた。
「どう、これ」 剣の並んだ棚の上で一回転して見せた。 俺はため息を一つついてから言った。
「いいけど、その着物にブーツはいただけないなあ」
「ええーっ、間違えたあ?」 そう言うとブーツが一瞬で下駄に変わった。 しかも男物の下駄だった。
「これで、どう?」
「うん、いいんじゃない」 下駄に違和感はあったが、あえてツッコまなかった。「お父さんの履いて来ちゃった」みたいな感じで、それはそれでかわいいと思ったからだ。
「何が聞きたいの?」
「グレアムさんが言っていた、初代王の愛刀“雷光”ってどれだい」
「ゴードンの剣は、その右から3番目の大きめな剣よ」 俺はそのひときわ立派な剣を持った。 確かに見た目の感覚よりも軽く感じた。 鞘は上質な皮でできており、ドラゴンのレリーフ装飾が施されていた。 剣を抜いてみた。 両刃の直剣で刀身は鏡のように磨かれ、見ていると、“ゾクッ”とするほどの怖さと言うか、何者も寄せ付けないような意志のようなものを感じるのだった。 振って見ると驚くほど軽く、まるでプラスチック製かと思うほど軽く感じた。 これだったら、片手でも扱えると思った。
「うーん、でもやはり俺には大きすぎるな。 バランスが悪い気がする」 剣を棚に戻し、他に目を移すと、一振りの黒い剣が目についた。 大きさは先ほどの剣よりも小振りで、鞘も柄も黒かった。 惹かれるようにその剣を手にした。
「それは、3代王のベルの剣ね。 “黒い閃光”という剣で、ベルはただ“閃光”と言っていたわね」 俺は剣を抜いてみた。 俺は思わず息を飲んだ。 剣自体が黒かったのだ。 よく見ると、材質のせいなのか、加工の仕方なのか、剣が黒いのでは無く、黒い光を放っているかのようだった。
「美しい、何故か引き込まれるような感じがする。 “雷光”とは対照的だね。 どうして“閃光”なのだろう?」 俺は剣を光の方へかざしてみた。
「ベルは剣の達人だったの。 相手が、いつ剣を抜いたのかも分からず、黒い光が走る間に斬られることから、“黒い閃光”。 他にも、“まやかしを斬る剣”とも言われるわね」
「どういうこと? 特殊効果があると言うことですか?」
「分身などの幻影を見せて戦う敵に対して、その幻影を斬ると、本体の方にダメージを与えることができるのよ。 それと、恐怖、疑心、誘惑などの精神に作用する術に対して、かかりにくくなる効果があるの」
「なるほど」 俺は剣を振ってみた。 重さは普通だったが、俺にはバランスが丁度良く思われた。
「これは、すごく良いな」 俺はこの剣が気にいった。
「そうね、ベルの体格もカケルと似ていたから、丁度良いかもね。 だけど、カケルにはまだ少し早いわね」
「えっ、どういうことですか」
「理由は二つ。 一つは、ここにある物は特殊な効果を得られる物が多いけど、それらは、基本的な技量を備えた上で使ってこそ、本来の力を発揮することができるの。 最初からそれに頼った戦い方をしていると、もっと強い敵に当たったときに、きっと行き詰まるわ。 二つ目は、武器に頼りすぎた戦い方をしていると、レベルが上がるのが遅れるわね」
「なるほど、まともに剣も扱えない奴には早すぎるということだね」 剣を鞘に戻すと、名残惜しかったが、棚にもどした。
「そうね、とりあえずカケルには、あれが良いかもしれない。 指輪や宝石のあった棚にいきましょう」 俺は棚を移動した。
「そこの箱を開けてみて」 リーアが古ぼけた木製の小箱を指さした。 俺は言われるがままに、箱を開けてみた。 そこには銀製の腕輪が入っていた。 蔦の絡まるような彫刻の真ん中に、乳白色の石がはめ込んであった。
「それをつけておくといいわ。 それは、危険が迫っているときに、その石が赤く光って知らせてくれるの」 俺はそれを右手にはめてみた。 するとこれもサイズが調整されて、つけているのが邪魔にならなかった。 とりあえず、今日のところはこれくらいにして、戻ることにした。




