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5-7 秘密の部屋(1)

 応接室に入ると、グレアムがソファーに座って居眠りをしていた。 俺はそのまま向かいの椅子に座ると、グレアムの様子を眺めていた。 ほどなく、ジュリアンがお茶のカップを2つ持ってきた。 グレアムの居眠りに気づくと、声をかけようとするのを、俺は指を口元に当て制止した。 俺はそのままお茶を飲みながら、グレアムが目覚めるまで10分ぐらい待っていた。 お茶を飲み終えたころ、突然グレアムが目覚めた。

「あっ、カケル様、これは人が悪い、お声をかけてくださればよろしいのに」

「いやあ、気持ち良さそうでしたので、起こすのはやめておこうと思いまして」

「はっは、ありがとうございます。 ところで、用件はですな、先王からのお預かり物をお渡しにまいりました」 そう言うと、服の内ポケットから、赤いビロード生地でできた小袋を取りだした。 それをテーブルの上に置いた。

「預かり物とは何ですか? 開けても良いですか?」

「どうぞ、これはカケル様の物です」 俺が袋を開けると、中から黒い輪が出てきた。 「これは、指輪ですか?」 黒かと思ったがよく見ると、紫色に輝いた金属製の指輪だった。 表面の部分に何かの模様が刻んであった。

「それは、プロミオンと呼ばれる希少金属で造られています。 表面の模様のようなものは、古代文字です。 じつは指輪には秘密があるのです。 この指輪は、王しか入れない秘密の部屋への扉を開ける鍵なのです」

「秘密の部屋ですか」

「そうです。 その部屋は旧レーギアの地下のどこかにあるそうですが、入り口はどこにもなく、その指輪で開いた扉からしか入れないそうです。 入れるのも指輪を持つものだけで、一緒に他の者を入れることもできないそうです。 もちろん私も入ったことはありません」

「その部屋には何があるのですか?」

「オークリー様のお話では、宝があるということです。 宝と言っても金や宝石と言った一般的な宝では無く、王にとっての宝と言うことです」

「王にとっての宝?」

「たとえば、そこにはゴードン様が愛用した“雷光”という剣があるはずです。 その剣は持つ資格のある者にしか使えず、普通の人が持とうとしても重くてとても振れないそうです。 しかし、王が持つと金属製とは思えないほど軽く感じるそうです。 その切れ味も鋭く、鋼鉄の鎧も紙を切り裂くようだと言われています。 そのような常人には使いこなせなくても、価値の分かる人にとっては正に宝といえる物が、多数所蔵されているとのことです。 また、王にとっての思い出の品々も保管されているとのことです」

「どうすれば、入れるのですか?」

「その指輪をはめて、呪文を唱えると、空間に入り口が開くそうです」

「その呪文は何ですか?」 俺が聞くと、グレアムは少し考えてから言った。

「はて、何でしたかな」

(おいおい、じいちゃん、肝心なところでボケかまさないでくれ)

「おお、そうじゃった。 そういえば、聞いておりません」 俺はズッコケそうになった。

「聞いていないって、それじゃあ入れないじゃあないですか」

「いやいや、オークリー様は少し考えられてから、『まあ大丈夫だろう』とおっしゃっていました。 おそらく新王になられる方ならば、必ず見つけられるということだと思います」

(それって買いかぶりすぎじゃないか。 とにかく後でユウキに相談しよう)

「分かりました。 後で考えてみます」 そう答えるしか無かった。


「ところで、グレアムさんは初代王からお仕えになっていると、お聞きしましたが、とてもそんなに生きられる事が信じ難いのですが」

「私も信じ難い思いですよ。 ゴードン様から始まり、オークリー様まで一千年近くになります」

「歴代の12王をごらんになって、私はどうなのでしょう。 正直言いますと、まだ私が王になって良かったのだろうかと思っています」

「確かにカケル様は、歴代の王からすれば一番若く、自信を持たれるまで時間がかかるやも知れません。 しかしどの王も最初は同じです。 カケル様が今までの王よりも劣っているような事はございません。 むしろ私は、カケル様は良き王におなりになるだろうと確信しております。 焦ってはいけません」と言って、グレアムは皺くちゃの顔で、ニッコリ笑った。

「ありがとうございます。 少し気持ちが軽くなったような気がします」 その後少し雑談した後、グレアムは帰っていった。


 グレアムと別れた後、自分の居室のソファーに座り、あらためて指輪を取りだしてみた。 指輪の外側に刻まれた古代文字は、全然読めなかった。

(どうして、前王はこれで分かると思ったのだろう) リングを回しながら、古代文字を見ていた時に、俺は気づいた。

(ん、内側にも何か刻まれているぞ。 小さいので見づらいけど、文字のようだ。 何、これはアルファベットだぞ) 夕方で薄暗くなってきた部屋のなかで、なるべく明かりが入る場所でかざしてみた。

(最初はO、次がP、E、N、読めるぞ、“オープン、ザ、ドア”だ。 そのまんまかい。 なるほど、前王がもし次の王が向こうの世界からきた者ならば、きっと読めると思ったのだろう) 俺は指輪を、左の小指にはめてみた。 小指には大分大きかったが、指の根元まで差し込むと、思ったとおり指輪が大きさを変えて、適当なサイズになった。 小指にしたのは、何をしても一番邪魔にならないと考えたからだ。


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