1-6 救出作戦(2)
同時刻、村外れの丘の上
クロームが、丘の上の最も大きな欅の木の枝にまたがり、太い幹を背に村の様子を眺めていた。
「森の賢者様ですね」後ろから突然、声がかけられた。 突然のことに、ビックリしながら後ろを振り向くと、別の枝にしゃがんでいる人物がいた。 目立たない黄土色の上着と草木色のズボン、紺の布で顔を隠していたが、どうやら女らしい。
「そうだが、アンドレアス殿の手の者か」 その人物は、こくりと頷くとストンと木の下に飛び降りた。 クロームも空中に一旦浮いてから、静かに地面に降り立った。 そこには、同じような出で立ちの女性が3人立っていた。
「私はジュリアンと申します。 そしてホーリーとエレインです」3人はフードを頭の後ろにそらし、顔を見せた。 両手を胸の前で指を組むようにしてお辞儀をした。 3人とも若い女性だった。 一番の年長と思われるのは、声をかけてきた女性だ。 ホーリーと呼ばれた真ん中の女性は、先ほど木の上にいた人物で、3人の中では一番小柄で、細身であった。 最後の女性は、3人の中では一番体が大きかった。 3人とも同じような目立たない服装に、そして茶色のマントをはおっていた。 ジュリアンとホーリーは腰のベルトに短めの剣を下げていた。 エレインはほかの2人より大きめの剣を下げていた。 ホーリーは腰に鞭のような皮ひもを編んだ輪を下げてもいた。 ジュリアンは小型の弓と矢筒を肩にかけていた。 その他に各々旅に必要な物を詰めた革袋を担いでいる様は、旅の冒険者のようにしか見えなかった。 3人は今朝早く、レーギアを出発した。 それぞれが3頭の飛竜(一人乗りようの翼竜)にまたがり、日中飛行し午後遅く、ようやく村を見つけた。 敵に発見されるのを避けるため、3キロほど南の地点で飛竜を降り、飛竜はレーギアに帰した。
「状況を教えていただけますか」ジュリアンがたずねた。
「わかった」クロームはその場に座り込むと、右手からオレンジ色の光りの玉を出した。 辺りが暗くなっていくなか、光のおかげでお互いの顔が良く見えるようになったところで、地面の落ち葉をのけたところに、木の棒で村の見取り図を書き始めた。
「敵の兵数は約200人、最初は700人ぐらいいたが、いくつかに分かれて近隣の村にいっている。 兵たちは真ん中の広場と周辺の建物を利用してたむろして、夜はだいたいが広場で酒盛りをしている」
「客人はどこですか」
「ここ、納屋になっている。 広場に向いている方に入り口があり、その前には常時見張りが2人いる。中には目的の2人の他に捕らわれた村人が20人以上いる」
「巡視はどうですか」
「4つの入り口には各数人の見張りがいる」
「西側に川がありますが、舟は見ましたか」
「川沿いに少し北側にいったところに小舟を2そう見つけた」
「よし。 作戦はこうだ」ジュリアンはしばらく考えていたが、ようやく決心したように話しはじめた。
「まず村を迂回して、舟を確認する。 一そうに荷物を積んで草むらに隠す。 もう一そうは沈める。 奴らは鼻がきくからまともに逃げても追いつかれる恐れが高い。 だから一旦川を越える。 作戦開始は、奴らがだいぶ酔いが回った頃に事を起こす。配置は、ホーリーは南のわら束の山に待機して、私の合図で火を付ける。 エレインはこの納屋の裏、火の手が上がったら、馬小屋の馬を逃がせ、その後納屋の見張りを倒して客人たちを助け出す。 私はここの屋根の上から矢を何本か射かける。 敵襲と勘違いしてくれれば良いが、それでなくとも多少は混乱させられるだろう。 その後納屋に向うが、エレインはもし首尾良く救出できたら、私たちを待たずに舟に向え」
「私は何すれば良い。 私は敵に姿を見られずに潜入できるぞ」
「それでは、納屋に近づき、2人にこれから救出作戦が始まることを伝えてください。 そして一緒にすぐ離脱できるように側にいてください」
「承知した」
3時間後
「お前とお前、出ろ」 突然扉が開いて、俺と上代は連れ出された。 先ほどまた黒猫が現れて、今夜救出されることを聞いたばかりだ。 これがそれにどう影響するのだろうと思いながら、広場のかがり火がたかれている方へ歩いて行った。 連れていかれたのは、この部隊の指揮官と見られる男で、熊の半獣人と思われた。 あごや太い腕に黒い剛毛がびっしり生え、頭には黒い丸い耳がぴくぴく動くのが見えた。 胸に皮の鎧を着け、すねには金属製のすね当てを付けていた。 丸い木の椀に白い濁り酒をなみなみに注ぐと、一気に飲み干しては、おもむろに大きなゲップをした。
「おまえたちは、何者だ。 王国軍の兵士には見えないし、村人にも見えない。さらにこんな物を持っている」 手には、捕らえられた時に取り上げられた俺たちのスマホと時計、財布を持っていた。
「私たちは、遠い国からの旅行者です。 怪しいものではありません」 上代は丁寧に答えた。
「怪しいかどうかはワシが決める。 これとこれは何だ」時計とスマホを指さした。
「こちらは時を知るための道具で、こちらは離れた相手と話をする道具です。 私たちの国では、一般人が普通に持っているものです」
「レムの魔道具か。 異国の文字に異国の硬貨。 間者ではないのか」財布から五百円硬貨を取り出し、ひっくり返しながら眺めていた。
「決して間者ではありません。 間者ならばなおさら目立つような服装や物を持っていることは避けるはずです」
「ならば、ここで何をしていた。 商人とも冒険者にも見えんが・・・・」
「・・・・・・」上代もさすがに、とっさに相手を納得させられるような言葉が見つからず、お互いに顔を見合わせていた。
「隊長の質問に答えんか。馬鹿者が」司令官の傍らに立っていた、狐の半獣人の兵士が突然俺の顔面を殴ってきた。 俺は反射的にかわしたため、相手は前のめりによろけてしまった。「きさま」体制を立て直した、狐男は牙をむき出し再度殴ろうと拳を振り上げた。
「まあ、いい」指揮官が手を上げてその兵士を制した。
「間者であろうと、なかろうと面倒事はご免だ。 反抗的な態度の方が面白い。 ここにいる者たちは退屈している。 お前たちに余興をやってもらう」と周りに座って酒を飲んでいる兵士たちを指さした。 広場には、真ん中に大きな丸太を組んだたき火が燃え、そこには豚が二頭丸焼きにされていた。 他に数カ所のかがり火がたかれ広場全体を明るくしていた。 約100人以上の兵士が広場の真ん中をなるべく開けるように座り、酒を飲んでいた。
「そうだ、早くやれ」まわりの兵士たちがはやしたてた。 俺を殴ろうとした兵士が、剣を二本持ってきて足下に放り投げた。
「その剣で、お互いに戦え。生き残った方は解き放ってやる」
「そんなこと、出来るわけがない」
「いや、できるさ。だれもが自分がかわいいからな」 指揮官が俺たちの顔を交互に眺めながら、にやりと笑った。
「とっとと始めろ」
ジュリアンは南側の建物の屋根に横たわり、広場の様子を観察していた。 広場に二人の若者が引き出されてきた時に、クロームからの念話が届いた。
「ジュリアン殿、目的の二人が広場に連れていかれた」
「賢者様、こちらからも見えます。 どうしようとしているのか分かりませんが、作戦を早める必要もでてくるかもしれません。 とりあえずそのまま待機していてください」
「承知した」
「断る、そんなことは絶対にしない」男の一人はそう言うと座りこんだ。 もう一人はずっと黙っていたが、一瞬こちらを見たかと思うと、指揮官に向き直り話し始めた。
「あなたの思うようにはならない。あなたは、我々が恐れおののき、涙ながらに命乞いをする姿が見たいのでしょうが・・・」
「チッ、あの馬鹿、何を挑発しているんだ」ジュリアンは小さく毒づくと、急いで念を飛ばした。
「ホーリー、作戦決行だ。火を点けろ。エレイン備えろ」そして自分は背中から弓を下ろし、矢筒から矢を抜き出した。 ほどなく村の南東の方角から火の手が上がった。