4-22 王の誕生(2)
翌日は、早朝から慌ただしいものになった。 朝食を取っていた時に、アンドレアス自身が部屋に現れた。
「カケル様、お食事中申し訳ございませんが、至急ご報告しておかなければならない件がございます。 一件は、橙のレギオンが動き出しました。 我がオーリンの森へ向けて軍勢が進軍しております。 10日以内には戦闘状態になると見込まれます。 この件については、午後会議を行ないますので、詳細はそこでお話いたします。 もう一件につきましては、ヒョウマの件です。 奴は、本日未明に出奔いたしました。 ロレス様の弟のクレオン様やロレス様の部下だった者たちと一緒にです。 しかもレーギアの宝物庫から、宝剣一振と金貨二千枚盗んでいきました。 今追っ手を手配中です」 俺はその報告に驚いた。
(何、王になるかならないうちに、もう戦争だと。 つくづくこちらのペースではさせてもらえないらしい。 もう笑うしかないな) 俺は何故か笑えてきた。
「分かりました。 ヒョウマの件は、放っておいて良いでしょう。 そちらに余計な兵を割く必要はありません」 俺は、昨日のヒョウマの言葉を思い出し、何故か彼にチャンスを与えたいと思ったのだった。
「えっ、よろしいのですか。 かしこまりました。 あっ、それと本日付で、王直属の警護班を設けました。 後ほど来させます。 報告は以上です」 アンドレアスは、部屋を出て行った。 ドアを閉めながら、思った。
(今、笑っていたぞ。 狼狽するかと思ったが、カケル様は思った以上に肝が据わっているのか、それともとんでもないバカなのか)
俺は玉座に座っていた。 目の前の広間には、正面の扉から檀下に続く赤い絨毯を境に、右側に軍の将校たちが並んでいた。 そして左側には、各行政の大臣他、内務の職長たちが並んでいた。 そしてその前、軍側にはアンドレアスとセシウスが立ち、行政側にはグレアムが立っていた。 俺が玉座に座ったのを機に、アンドレアスが一同の方を向いて、話し始めた。
「一同の者、私は昨日、王代行として、ここにおわすカケル・ツクモ様を、我らのレギオンの王としてお迎えすることを決定した。 本日、ただ今よりカケル様は8代王となられた。 これまで以上に、新王のために忠勤につとめるように」 一同に歓声が上がった。 俺は緊張のあまり、のどがカラカラだった。 これから挨拶をしなければならない。 とても気の利いた事は言えそうもなかった。 今朝の裕樹の言葉を思い出していた。
「挨拶? 俺が考えてやってもかまわないけど、どうせ覚えられないだろう。 いくら美辞麗句を並べても、人の言葉じゃ心には響きやしないよ。 それより、お前の心から出てきた言葉で話すんだ。 一言でもいい、『共に戦い、共に勝利しよう』とかね」 俺は、アンドレアスに促され、立ち上がった。
「わ、私が翔です。 縁があってこのレギオンの王になることになりました。 何も知らない新参者ですが、よろしくお願いします」 それだけ言うのが精一杯だった。
続いて行なわれたのが、サムライの契約だった。 グレアム、アンドレアス、セシウスの3人が檀上に登り、俺の前に跪いた。 グレアムが口上を述べた。
「我、グレアム・ローランドは、天聖球の所有者であるカケル・ツクモの剣として、盾として、命の限り忠節を尽くすことをここに誓う」 口上が終わると、俺はグレアムの頭に右手を載せると、口上を述べた。
「我、ツクモ・カケルは、グレアム・ローランドを、サムライとして仕えることを許す、励め」 すると、一瞬右の掌が光ったように見えた。 俺は次にアンドレアスの前に移動した。 アンドレアスも同様に口上を述べ、俺も同様の口上を述べた。 セシウスまで行ない、これで3人は俺のサムライになったらしい。
「もう一つ、皆に報告しなければならない」 アンドレアスが、一同に向って話し始めた。
「ついに橙のレギオンがこちらに進軍を開始した。 全軍、出撃の準備をしてもらう。 鮮やかに撃退して、新王に我らの力を示そうではないか。 先王の葬儀は、残念だが、戦から帰還後になろう。 勝利の報告を、先王へのはなむけにしようぞ」
「おーっ! カケル王に勝利を、オークリー王に勝利を!」 一同が一斉に雄叫びを上げた。
かくして、俺は異世界で王になった。