4-19 最終関門(3)
しばらくすると、ジュリアンが入って来て伝えた。
「ヒョウマ殿が、見えられておりますが、お会いになられますか」
「ヒョウマが、なぜ? まあいい、通してください」
「承知いたしました」 ジュリアンが出て行くと、すぐヒョウマが入ってきた。 ヒョウマの姿を見て、グレンが牙をむき出してうなった。
「やあ、思ったより元気そうだな。 そう警戒しなくても、もう撃ったりしないよ」
俺は椅子を勧め、ヒョウマは丸テーブルの向かいに座った。
「どうしました?」 俺は警戒しながら言った。
「どうって事はないのだが、少し話しをしておきたかっただけだ。 昨日の闘技場での戦いはすごかったな」 そう言うと、少し間をおいてまた話し出した。
「負けたよ、完敗だ。 あんたが最終候補者に残ったと聞いた時、ただ最後に残ったということだけで、王になるということだったら、俺は今度こそあんたをぶちのめしてレギオンの連中に認めさせようと思っていたのだ。 だがあの戦いを見て思った、あんたは残るべくして残ったのだとな。 認めるよ、あんたは俺より強い、現時点ではな」
「ありがとう。 ところでこれからどうするのですか」
「まだ分からない。 でもこれだけは言える。 俺はあんたの下で、あんたのために働くつもりはない。 俺はいずれ、あんたと同じ高さまで登る、そしてあんたとど突きあいをする、必ずな。 それだけ言いたかった」 そう言うと、立ち上がろうとした。
「待ってください。 ひとつ聞きたいことがあります」 俺がそう言って、制するとヒョウマは座り直した。
「あなたが、もし王になる条件として、この大陸の深刻で不均衡な環境を修正するために、過剰な人間を抹殺して欲しいと言われたら、どうしますか」 俺がそうたずねると、驚いたような顔を一瞬だけした。
「ずいぶん過激なことを言うねえ。 でもそれも面白いかもしれないな」
「面白い?」 俺は顔をしかめた。
「何だい、そんなことは倫理的に良くない、正しくないとでも言いたいのかい? じゃあ、何が正しいんだい? 正義や価値観なんて一人一人、立つ位置によって変わってくるもんだろ。 だったらどれが正解かなんて、誰にも分からないってことだ。 それなら、自分の思うとおりにやるしかないじゃないか。 人に押しつけられたものに従うなんて、真っ平だね」 そう言うと、今度こそ立ち上がり、部屋を出て行った。 俺は、納得はいかなかったが、反論もできなかった。
いつの間にか椅子に座ったままウトウトしていた。 目が覚めると夕方になろうとしていた。 そしてふと思い出した。
(昨日の女性の声、あれは夢ではなかったということだよな。 グレアムさんはリーアとか言っていたが) すると、突然目の前のテーブルの上に光の塊が現れたかと思うと、30センチぐらいの高さの女性の姿に変化した。
「ハーイ、呼んだ?」 艶やかなグリーンのショートヘアの若い女性で、まるでアイドルグループの衣装のような服装をしていた。 俺は驚いて、椅子から転げ落ちそうになりながら言った。
「あなたがリーアさん? 昨日の声はあなたですか?」
「そうよ、昨日は何とかうまくいったみたいね」 彼女は、俺の前のテーブルの縁に腰掛けた
「あなたは妖精ですか?」
「違うわよ、でもま、似たようなものかな。 ダメよ、いくら私が魅力的でも、触ろうとしちゃ。 私は実体がないの」
「あなたは天聖球の守護者と聞きましたが・・・」
「そうね、厳密には少し違うわね。 私は天聖球と所有者を繋ぐ者、そして導く者。 まああなた方の言葉でいえばナビゲーターかな」
「あなたは、どこにいたのですか」
「リーアでいいわ。 私はあなたの中にいたの。 もう2人は深い絆で結ばれて、離れられないわ」
「な、なぜですか?」
「何故って、天聖球があなたを所有者と認めたからよ。 天聖球がどこにあるかは関係無いの。 あなたが死ぬまではこれは変わらないわ」
「リーアは、今の俺の状況は知っているのですか?」
「もちろんよ、一緒にいるのだから」
「えっ、じゃあ、もしアンドレアスさんたちが、俺を王として認めないと言ったら、どうなるのですか」
「どうもならないよ。 あなたは既に天聖球の所有者なの。 王の定義が天聖球を持つ者と言うことなら、あなたは既に王なの。 レギオンの承認が必要と言うことになれば、まだと言うことになるかも知れないけどね」 リーアは子どものように、脚をバタバタしながら言った。
「それじゃあ、もし俺が王にならないって言ったら、どうなるのですか」
「どうもならないわ、あなたがレギオンの王になろうとなるまいと、天聖球の所有者であることに変わりはないの。 でもレギオンにしてみれば具合が悪いわね。 別の者が王として立っても偽王と言われるでしょうし。 そうなると、やっぱり殺されちゃうかな」 リーアはあっさり言った。
「何だよそれ、八方塞がりじゃないか。 どうすればいいんだよ」
「あなたが思うようにすればいいのよ。 カケルは自分が追い込まれているように感じているかも知れないけど、逆よ。 追い込まれているのはアンドレアスの方よ」
「えっ、どういうこと?」
「それぐらい、自分で考えなさい。 じゃあ、そろそろ戻るね」 そう言うと、体が光の粒の塊になったかと思うと、消え去ってしまった。
夕食の後、風呂に入っていると、また眠くなって、お湯に顔が沈んで目が覚めた。 風呂から出ると、少し頭がスッキリしてきた。
(ああっ、もう破れかぶれだ。 言いたいことぶちかまして、あとは野となれ山となれだ) 俺はジュリアンに、至急アンドレアスさんたちに会いたいと伝えてくれるように頼んだ。
昼と同じように3人が座っていた。 セシウスが言った。
「年寄りはもうとっくに寝ている時間だぞ、いいのか明日じゃなくて」
「わしを年寄り扱いするんじゃない」 グレアムが不満そうに言った。
「それで、こちらの意向を受け入れる気になったか?」 アンドレアスが言った。
俺は立ったまま深呼吸すると、アンドレアスに向って一気に吐き出した。
「俺は、王になる。 だが、罪のない人々の抹殺には絶対に手を貸さない。 あなたたちレギオンは王のために働くのならば、俺に従ってもらう。 俺に従えないと言うならば、俺を殺せばいい、だが簡単には殺されないぞ。 死ぬまで、抵抗してやる」 俺はそう言うと、3人を交互に睨んだ。 3人はお互いに顔を見合った後、こちらを向くと、突然笑い出した。
「ははは、ずいぶん強気にでたな。 だが合格だ」 アンドレアスは、ほっとしたように言った。
「へっ! どういうこと?」 俺は拍子抜けしてしまった。
「説明する、まあ座れ」 セシウスが笑いながら言った。
「12王の会議が行なわれ、ある王からそのような提案があったのは事実だ」 アンドレアスは、話し始めた。
 




