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4-18 最終関門(2)

 部屋に戻り、まだ怒りがおさまらないでいるところに、上代が入ってきた。

「やあ、体の方はどうだ?」 俺は上代にたずねた。

「ああ、大丈夫だ。 きのうクロームさんに診てもらった。 お前の方こそどうなんだ」

「最悪、全身がバキバキ状態だ。 それより昨日、天聖球の間から消えてからどうなったんだ?」

「カギを間違えたら、床が抜けて穴に落ちたんだ。 暗い中をどこまでも落ちていく感覚だったのだが、不思議なことに放り出されたところは外だった。 たぶん旧レーギアの近くなのだろう。 しばらくどうしたものかと考えていると、少し離れたところで、ヒョウマと兵士が何か話していたので、そちらでどうしたのか聞いたんだ。 すると、最終候補者が闘技場でレギオンの者と戦って決めることになったと言うんだ。 それで俺とヒョウマは一緒に、近くにあった闘技場まで歩いて行って、お前の戦いを見ていたんだ」

「なるほど」

「正直なところ、ショックだった。 お前のあのイカレた戦い方はな。 俺には絶対無理だと思ったよ」

「お前、あの天聖球の間で、わざとカギを間違えたんじゃないのか?」 俺は上代に聞いた。

「なぜ、そう思う」

「俺には、お前があの状況で読みをはずすとは、到底思えない。 お前俺に気を遣ったのじゃないのか?」 上代は俺の問いにすぐには返答しなかったが、やがて静かに語り始めた。


 「俺はこの世界にきて、このレーギアに着くまで一つの疑念があった。 クロームさんに俺のレムの力を認められて連れてこられた、俺はこの世界で活躍するためにここにいるのだと、最初は思っていた。 ところが旅を続ける中で、本当にそうなのだろうかと思うようになっていったのだ」

「なぜ?」

「一つ、俺のレムの力を示す魔獣石だが、こちらに来てから再度試した時には、最初ほどの大きな輝きはしなかった。 クロームさんも理由は分からないと言っていたが。 二つ、お前が鳥の魔獣にさらわれて、落雷の様な光で魔獣が倒された件だが、俺はお前がやったのではないかと思っていた。 今では確信に変わっているがな。 三つ、グレンの件だ。 ドラゴンは人に懐かないと言われているのに、お前にあっさり懐いている。 四つ、村で野盗からの防衛戦をやった時、お前に作戦と指揮をとらせたことだ。 あの場合、どう考えても本気で村を守る気ならば、ジュリアンさんに指揮をとらせるのが筋だ。 と言うことは別に目的があったと言うことだ。 五つ、アンドレアスさんが、お前を強制的に王選抜に参加させたことだ。 これだけあれば、バカでもお前が偶然、間違えてこちらに来たのではないと言う結論に達する」 上代は俺の顔を見つめた。

「足りないピースがまだ幾つかあるので、全てが分かった訳ではないが、俺の中ではお前が来たのが偶然なのでは無いという確信に変わった。 そしてあの天聖球の間でカギを選ぶ時、俺は思った。『もしも、本当に選ばれた者が俺でなく、九十九の方だったとしたら、ここで誤った選択をしたら、きっと不幸な結末になる』とな。 それであえて緑を選んだ」

「うーん、本当にそうなんだろうか」 俺は上代の考えに半信半疑だった。

「お前、あれだけのことやらかしておいて、まだそんなこと言っているのか。 お前の方こそ、俺に気を遣っていたんじゃないのか」

「なぜ、そう思う」

「一つ、お前は俺がこちらに来たことを喜んでいたことを知っている。 二つ、お前は自分が間違えてこちらに来てしまって、自分はこの世界では余計者だと思っていた。 三つ、お前は王選抜の参加を固辞した。 いくらリスクがあるからと言って、王になれるチャンスを普通は捨てる奴はいない。 四つ、俺が怪我をした時に、回復薬を俺にくれた。 自分だってこの先まだ何があるか分からないのにだ。 五つ、お前が谷に落ちて、俺が助けようとした時、お前は俺を先に行かせようとした。 俺に助けさせて、その上で俺を出し抜こうとしても良いはずなのにな。 これだけあれば、小学生でも分かるわ。 バーカ、お人好し過ぎるぞ」 そう言うとお互い笑い出した。


 「ところで、話があったのだろう? 例の前王の遺言の件」 上代が真顔になって言った。 それを聞いて、俺はまたムカムカがぶり返してきた。 彼らは、他人に口外するなとも相談するなとも言っていなかった。 それで俺は、上代に先ほどの一部始終を話した。

「うーん、何か違和感があるな。 これまでのジュリアンさんたちの話からすると、前王は穏健的な王だと思われる。 その人が、いくらレギオンの存続のためとはいえ、そんなことに同意するかな。 一つはっきりしていることは、これはお前の本心を見極めるテストだということだ」

「俺の本心?」

「おそらく、お前が王になったら、何をやりたいのか知りたい、お前の覚悟と決意を知りたいというところだろう」

「そんなことを言われても困ってしまうな」

「とにかく、これには罠も隠されていると思う。 へたな小細工はしない方がいいと思う。 答えを間違うと、お前は殺されるぞ」

「脅かさないでくれよ」

「これは脅しじゃないと思う。 まとにかく、頑張ってくれ。 俺じゃ無くて良かったよ」 そう言うと、立ち上がり自分の部屋へ帰って行った。


 入れ違いのように、今度はジュリアン、ホーリー、エレインが入って来た。

「どうだ、いや、どうですか体のお具合は?」 エレインが苦しそうに言った。それを見ていたジュリアンとホーリーが笑っていた。

「どうしたんですか、エレインさん。 腹でも壊しました?」

「誰が、腹を壊すか! いや、お腹など壊してなどおりません」

「エレインは、昨日のカケルの戦いを見て、カケルを怒らせるとまずいと思っている」 ホーリーが説明した。

「やめてくださいよ、『アイツ、怒らすと超ヤバイ奴』みたいな言い方」

(実際に超ヤバイ奴なんだよ。 鬼より怖いアンドレアス様をタコ殴りにしたのだからな) エレインは思った。

「そうはいかない、です。 カケル、様は、あたしたちの王様になる、なられる方ですから」 エレインは苦労しながら、やっと言った。

「俺は王様にはならない、イヤ、なれないですよ!」

「えっ、なぜ?」

「アンドレアス様たちとの話しの件か?」 ホーリーが言った。

「ええ、そうです」

 グレンが起きてきて、エレインが持っていた包みを見つけ、近づいてきた。 エレインはグレンに包みを見せた。

「グレン、ほら約束の肉を持って来てやったぞ」 グレンは、包みに鼻を近づけ、匂いをかぐと、そのままかぶりつこうとした。 エレインは包みを引っ込めると言った。

「待て、待て、今開けてあげるから、慌てないで」 エレインが包みを開けると、グレンは生肉の塊にかぶりついた。 俺はそれを見ていたが、思い出したように言った。

「今度は何ですか。 アンドレアスさんから、俺が逃げだそうとしていないか、様子を見てこいとでも言われたのですか」

「そ、そんなことはないぞ、グレンに肉をあげに来ただけだ、いやだけです」 エレインが口ごもりながら言ったが、嘘がバレバレだった。

「そう、カケルが早まったまねをして、逃げ出さないように見張って、逃走は絶対に阻止しろと言われている」 ホーリーがあっさり認めた。

「ああ、もうやめだ。 カケル、アンドレアス様たちとどんな話しをしたのかは知らないが、逃げるのはダメだぞ。 納得いかないなら言い返せばいい」

「カケルは王様になれるよ」 ホーリーも言った。

「何を根拠に、そう言い切れるんだい?」

「根拠はない。 でも信じている。 だから逃げるな」

「分かりました。 逃げたら、ジュリアンさんたちに罰が与えられかねませんからね」

「ということで、あたしたちは外にいるから、用があったら声をかけて」 エレインが言った。

「それだったら、この部屋に一緒にいればいいじゃないですか」

「いえ、カケル様の思考のお邪魔になるといけませんので、部屋の外で待機いたします」 ジュリアンがそう答えると、2人と共に部屋を出て行った。


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