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4-17 最終関門(1)

 俺が目覚めると、そこはベッドの中だった。 ベッドから降りてカーテンを開けると、まぶしい光が容赦なく部屋の中へ入ってきた。 太陽の位置からすると、もうすぐ昼になろうかという時刻だろう。 ベッドの脇で寝ていたグレンも、まぶしさで目を覚ました。 部屋を見渡すと、昨日の部屋と違っていた。 昨日の部屋もかなり良い部屋だったが、広さもベッドの大きさも部屋の調度品や装飾などワンランク上という感じだった。 椅子に座ろうとして数歩歩いてみたが、全身に痛みが走った。 よく見ると細かい擦り傷や打撲はほとんど直っていた。 痛むのは関節や筋肉だった。 たぶん普段使わないような体の使い方をしたということなのだろう。 昨日の戦いのことは、途中から覚えていない。 俺が勝ったと言われたが、なんだか他人事のようで、ピンと来なかった。

 ドアがノックされ、メイドの女性が入って来た。 メリナという40代くらいのふくよかな女性で、こちらに来てからずっとお世話してくれている人だった。

「カケル様、お目覚めですか。 早速、お風呂を準備いたしますね。 その間に食事のご用意もいたしますので。 それからお着替えはこちらに置いておきます」 と言って、着替えをベッドの上に置くと浴槽の準備をしにいった。

(なんだか雰囲気が違うな。 そうか言葉遣いが敬語になっているんだ。 昨日まではもっと気軽な感じだったのに)


 入浴をしてグレンと朝食兼昼食を取っていると、ジュリアンが入ってきた。

 「カケル様、お加減はいかがですか。 アンドレアス様が、お食事がお済みになられましたら、お部屋におこし願いたいとのことです」 ジュリアンはかしこまって言った。

「ジュリアンさん、そんな言い方はよしてくださいよ。 何か他人行儀すぎていやだな」

「そうはいきません。 カケル様は私たちの王になられるお方です。 不遜な物言いはできません」

「まだ、王になれるかどうか分からないでしょう。 たしか最後に前王の遺言を聞いてそれに対して答えなければいけないのでしょう?」

「そうですね、しかし私たちはそれもクリアされて、王になられると信じております。 それでは一時間後にお迎えに参ります」

「あっ、そういえば上代はどうしていますか」

「少し前に起きて、お部屋で食事をしておりました。 後ほどお会いできると思いますよ」 そう言うと部屋を出て行った。


 王代行の執務室に入ると、テーブルの向こう側に、真ん中にアンドレアス、左にグレアム、右にセシウスが座っていた。 俺はアンドレアスの向かい側にすわった。 グレンはまだ眠そうだったので、部屋においてきた。

「気分はどうだ?」 アンドレアスがたずねた。

「最悪です。 どうしたらこうなるんだと言うくらい、体中が傷みます」

「それはお互い様だ」 アンドレアスの左ほほには青あざが残っていた。 セシウスは、それを聞いて笑っていた。

「ところで、昨日の黒騎士との戦いだが、急に別人のように動きや強さがアップしたが、何があった」 セシウスが聞いてきた。 俺は昨日のことを思い出しながら、話し出した。

「急に強くなったと言われても、実感が無いのですよ。 黒騎士にたたきのめされて、俺はここで死ぬんだと思った時、女の人の声が聞こえてきたんです。 そして、『お前は既に強い、力の使い方を知らないだけだ』と言われたのです」

「それは、リーアだな。 天聖球の守護者であり、球の所有者との仲立ちをする者だ」 グレアムが言った。 俺は話しを続けた。

「その声が、手に入れた力で何がしたいと聞いてきたので、黒騎士をぶっ飛ばしたいと言ったのです」 それを聞いたとたん、セシウスとグレアムは声を上げて笑い出した。 アンドレアスだけがムッとした顔をしていた。

「そして力の使い方をアドバイスしてくれたのですが、俺の方は倒れた時に頭を打ったのか、だんだん声が小さくなっていって、気がついた時にはセシウスさんに腕をつかまれていました」

「やはりな、戦術的な意図は感じられず、本能だけでの攻撃に見えたからな」 アンドレアスは納得したように頷いた。

「だが意識を失ったのが幸いして、体に余計な力が入らず、力を発揮することができたということだろう」 セシウスが言った。

「じゃあ、これからはカケルに本気を出させるときには、殴って気絶させるしかないと言うことだな」 アンドレアスの冗談が、顔が笑っていないので冗談に聞こえなかった。

「よしてくださいよ」 俺は顔を引きつらせながら言った。

「まあ実際は、今回のことで体の方が覚えていると思うので、ずっと力を出しやすくなっていると思うがな」 セシウスも冗談と分かっているが、笑いながらそう補足した。


 「さて、冗談はこれくらいにして、そろそろ本題に入ろうか」 アンドレアスが真顔になって言った。

「これが最終関門だ。 これから前王であるオークリー様の遺志を伝える。 お前はそれを聞いて、自分の考えを述べよ」 アンドレアスの言葉に対して、俺は黙ってうなずいた。

「オークリー様が新王に望んでいることは、他の12王と協力してこの大陸の人間を抹殺することだ」 アンドレアスは俺の反応を見逃すまいとするように、俺の顔を鋭い目で見つめていた。 俺はあまりの衝撃に、すぐには言葉が出なかったが、かろうじて言った。

「それは笑えない冗談ですよ!」

「冗談ではない」 その目から、本気で言っていることが分かった。

「何をバカなことを言っているのですか。 そんなことできる訳、ないじゃないですか」


 「まあ、待て、説明するから聞け。 ことの始まりは約3カ月前にさかのぼる。 約一千年ぶりに12王の会議が行なわれた。 現在、王が不在のレギオンが4つあるから、集まったのは8人だった。 その招集をかけた王が、提案した内容はこうだった。 『今や、この大陸は、青虫に食い荒らされたキャベツの様な物だ。 山の木は伐採され、それによって土砂崩れが起きている。 山から様々な鉱物を掘り、精錬で出た毒の水は川に流され、魚も死に絶えようとしている。 森もどんどん減少し、大地は砂漠化し、動物たちの住処も無くなってきている。 いまこの大陸は死にかけている。 そしてその元凶は人間である。 この大地を創造された神は、このような現状を容認されはしない。 であるから、神の代理執行人である我々12王は、神の意に沿うように、この世界を是正しなければならない。 12王は協力し地上の人間、いわゆる人族を、有用と思われる人間を除いて、数パーセントまで削減させる必要がある』 その提案に対して数人の王は賛同したと言われている。 我がオークリー王は、本来争いを好まない方であるが、現状を勘案しレギオン存続のために、協力することにされたのだ」 アンドレアスはそう言うと、テーブルの上に両肘をつき、顔の前で両手の指を組みながら、俺の顔を見つめていた。 俺は話しを聞いて、ムカムカしてきた。


 「冗談じゃない、誰が、12王が神の代理執行者だと決めたのですか。 思い上がりも甚だしい。 いくら12王が特別な力を持っているからと言って、人の命を勝手に減らすだの増やすだのと決めて良いはずがない。 人間の生活によって、様々な環境問題が発生していたとしても、それは個別に知恵を出し合って問題解決の方策を探るべきだ」 俺は怒りにまかせて、一気にまくし立てた。

「まあ、そんなに興奮せずに、王ともなればレギオンの仲間や、その家族のことも考えなければならないのだぞ。 様々な角度から、良く考えてみてくれ」 セシウスが言った。

「ならば、殺される人々のことはどうなるのですか。 その人たちにも家族がいるのですよ。 考えるまでも無い、こんなこと請け負える訳がない。 それで王になれないと言うのなら、なれなくて結構です」

「まあ、一晩考えてみてくれ、返事は明日聞こう」 アンドレアスはなだめるように言った。

「明日になっても、変わりませんよ」 俺は、ぶっきらぼうにそう言うと、立ち上がり部屋を出てきた。


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