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4-15 王の資格(1)

 門をくぐって出たところは、外だった。 広い競技場のような場所で、地面は砂敷きだった。 周りには階段状の観客席で囲まれており、コロシアムのような感じだった。


 玉座の間で成り行きを見ていた、リースはレオンに言った。

「なんかおかしな事になってきたな。 カケルとかいうのと、あの黒騎士が闘技場で戦うようだぞ」 周りもざわついていた。

「ああ、だが気にいらんな」 レオンが不機嫌そうに言った。

「何がだ?」

「ここではよく見えない」

 少し離れた場所では、騎竜部隊の部隊長であるリゲンが、檀上を振り返り、司令官がいないことをいぶかしんだが、何も言わなかった。 彼は周りを見渡し、クロームとシローネを見つけると、急いで駆け寄ると言った。

「森の賢者殿、騎竜部隊のリゲンと申します。 ぜひお願いがあるのです、我々をあの闘技場へ連れて行っていただきたいのです」 黒騎士たちが現れた闘技場は、旧レーギアの近くの旧市街の中にあった。 普通に行けば馬車でも30分以上はかかってしまう。 だがクロームやシローネは、グレアムが使った“縮地門”と呼ばれる術を使うことができるのだった。 クロームとシローネは顔を見合わせると、シローネが頷いた。

「いいでしょう、我々も近くで見たいと思っていました」 クロームがそう答えると、近くで聞いていた者たちが歓声を上げた。

「賢者殿、感謝いたします」 リゲンはそう言うと、広間の人々に向って言った。

「聞け、森の賢者殿が我々を闘技場に連れていってくださるそうだ」 広間中に歓声が沸き起こった。


 我々が闘技場に入って来た時、そこには誰もいなかった。 今日は興業が休みだったのだろう。 陽は東に傾いていたが、今の時期は陽が沈むまでにはまだ時間があった。 少し暑く感じたが、時折吹く微風が気持ち良かった。

 エレインとホーリーが近づいてきた。

「剣はどうした?」とエレイン。

「谷に落とした」

「これを使って、エレインのでは少し大きすぎるから」 ホーリーが自分の剣を渡した。 俺が使っていた剣と長さはほぼ同じだったが、軽く、良く研ぎ澄まされていた。

「ありがとうございます」 俺は受け取った。

「気をつけろ、あの黒騎士が誰だか知らないが、とんでもなく強いのは確かだ」とエレイン。

 突然、少し離れた場所で、グレアムの時と同様の光の門が開くと、中からクロームをはじめレギオンの人々が次々に現れた。 100人近くの人々は、階段状の観客席にすわり、戦いの開始を静かに見守っていた。 するとセシウスの側に座っていた、内務の職長の一人がセシウスにたずねた。

「セシウス様、あの黒騎士は甲冑のフル装備なのに、候補者の青年は皮鎧だけです。 これは不公平なのではないですか?」

「なるほど、そう見えるか。 だが、そうではない。 これは黒騎士がカケルに対してハンデをくれているのだ。 あの装備では、視界も動きも制限される、しかもあの甲冑の重さでは、当然動きもにぶくなる」

「そう言われれば、確かにそうですな」 職長は納得した様子だった。


 黒騎士は剣を抜くと、俺に言った。

「準備は良いか。 観客もそろったようだ、そろそろ始めよう」 そう言ったとたんに、急に雰囲気が変わった。 黒騎士の全身を覆った甲冑の隙間から、冷気のようなものが噴き出してくる感じがした。 すると一気に全身の毛が逆立ってくるのが分かった。 それと同時に体に震えが走った。 膝を手で押さえ、震えを止めようとしたが、無駄だった。

(ヤバイ、怖い、これほどとは思わなかった。 これじゃ一秒も持たないんじゃないのか) 剣を構え、黒騎士の攻撃に備えたが、これにどれほどの意味があるのだろうと思ってしまった。

「いくぞ」 黒騎士がそう言うのと、剣が振り下ろされるのがほとんど同時と言っても良いくらいだった。 5メートル以上離れていた距離が、甲冑を着ているとは思えない速度で、一瞬にして詰められたのだった。 驚く間もなく、反射的に剣で防いだが、その剣圧に圧倒され後ろに倒れ込んだ。 黒騎士は追撃をすることも無く、俺が立ち上がってくるのを待っていた。 俺はすぐに立ち上がると、剣を構え直した。

(剣では無理だ、勝てない。 別の手を考えないと)

「どうした、来ないのか、攻撃しなければ倒すことはできないぞ」 黒騎士はそう言いながら、こちらを誘うように無造作に近づいてきた。 俺は剣を振りかぶり、斬りかかっていった。 黒騎士は剣で受けることもなく、体をさばいて避けた。 俺は肩で黒騎士の体に体当たりするように、そのまま黒騎士の方へ飛びこんでいった。 しかしその動きも読まれていて、素早い動きでかわされてしまった。 かわされた俺は何もない地面へ倒れ込んだ。

「クソッ」 俺は起き上がりながら、右手で黒騎士に炎を放った。 それもあっさりかわされたが、それは想定内で避けたところへ剣で突いていった。 しかしその剣も簡単にたたき落とされてしまった。

「さっさと剣を拾え、お前の力はこの程度か」 黒騎士は冷たい目で俺を見つめながら、剣先で俺の剣を指した。 俺は剣を拾うと黒騎士と向き合った。


「今度はこちらからいくぞ」 黒騎士が左上段から斬りつけてくるのを、かろうじて受ける事はできたが、素早く胴に切り替えされたのは受けることができず、もろに腹に剣を受けてしまった。 苦しみにこらえきれず腹を抱えてうずくまってしまった。

「さっさと立て」 黒騎士は俺が立ち上がるのを待っていた。 俺は痛みをこらえて何とか立ち上がると、剣を構えるやいなや、打ち込んできた。 左肩に剣が当たり、肩に激痛が走った。 そのまま続けざまに右腕を打たれ、思わず剣を落としてしまった。

「剣を拾え!」 イラついたような口調で言うと、俺が剣を拾うのを待っていた。


 リゲンの隣で、戦いの様子を見ていた兵士が、リゲンに言った。

「部隊長、黒騎士の剣は訓練用のものですよね」

「そうだな、だがあの方にとってはあまり関係ない。 刃の付いていない訓練用の剣だろうと、その気になれば腕の一本や二本難なく切り落としてしまうだろう」

 側で別の兵士が言った。

「何だよ、これじゃ新兵に稽古つけてるのと一緒じゃないか」 するとその隣にいた男が言った。

「レギオンの新兵の方が、もう少しやれるぞ。 ぜんぜん期待はずれじゃないか」 見ていたレギオンの人々が、しらけた雰囲気になってきた。

(まずいな、どうするつもりだ) セシウスは、一方的にやられているカケルの姿を見ていた。


 俺は、立っているのもやっとだった。 全身剣で打ち据えられ、痛みも箇所が多すぎて、今感じている痛みがどこの痛みか分からない状態だった。 剣も腰の位置から上にあげることができなくなった。

(俺はここで死ぬんだな)とぼんやり考えていると、黒騎士の下段からの逆袈裟斬りがきた。 かろうじて剣で受けたが、ほとんど握力が無くなっていて、剣が飛ばされてしまった。 剣は回転しながら飛んでいき、10メートルほど離れた地面に突き刺さった。 俺は続けざまにきた胴をまともに受けて、苦しさのあまりその場に大の字に倒れ込んでしまった。 その時に頭を地面に打ち付けてしまい、意識が朦朧となってきた。

(このまま死ぬのか? 悔しい、情けない。 せめてアイツに一発入れてやりたかったなあ。 俺にもっと力があれば・・・)


 その時、どこからともなく声が聞こえた。

「やっと言ったね。 力が欲しい?」 女性の声だった。

(誰だ? 俺は会話しているのか?)

「とりあえず、いまは誰でもいいわ、あなたの頭の中で会話しているの。 あなたは考えるだけでいいわ。 ねえ、力が欲しい?」

(ああ、欲しい、強くなりたい)

「その力で、どうするの? 何をしたいの?」

(あの、あの黒騎士をぶっ飛ばす) ますます頭がかすんできて、この会話が現実なのか夢なのか分からなくなっていた。

「あはははは、なるほど。 分かった、いい、時間がないから、良く聞いて」

「あなたは既に、本当はもっと強いのよ。 力の使い方を知らないだけ。 あなたの体はレムの入れ物なの、そしてあなたの体の中を自在にレムは流れ回るわ。 でも今までのあなたは体に余分な力が入っていて、十分にレムが必要な部分に集まらず、一部のレムしか放出されていないの。 力をもっと抜いて、打つ瞬間にだけ力を込めるの。 守りも同じよ、打たれる瞬間にその部分に意識を集中して、強く念じるの“痛くない、切れない”てね。 余分な力が抜ければ、もっと動きも良くなるわ。 それから、最後に覚えておいて、あなたは何でもできるのよ」 最後の方は声がだんだん遠のいていく感じだった。


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