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4-14 天聖球を継ぐ者(3)

 アンドレアスは最悪の事態になったと思った。 候補者が次々にダメになり、このままでは王を決める事ができない。 周りでは「王はどうなるんだ?」という声でざわめいていた。

 残っているのは、あの小僧だけだ。 あいつに天聖球を持たせてみよう、天聖球が受け入れれば、能力はあると認められる。 だがそれだけではダメだ、レギオンの者たちは納得しないだろう。 王の資格ありと認めさせなければならない)

 アンドレアスは念話でセシウスに話しかけた。

「セシウス、小僧に天聖球を持たせるのだ」

「なるほど、承知した」 セシウスは一瞬でアンドレアスの意図を理解した。

 アンドレアスは次に、隣にいたグレアムに話しかけた。

「グレアム殿、頼みがあります」 アンドレアスはグレアムの耳元でささやいた。

「なんですと、承知しました」 少し驚いたが、承知した。 2人は静かに広間から出て行った。


 セシウスは、ロレスの様子を確認すると俺のところへやってきた。

「カケル、お前があそこへ行って、天聖球を受け取るのだ」 セシウスが顔を向けた先には、ロレスが部下に背負われながら吊り橋を降りようとしているところだった。

「しかし、もうカギはないし、俺は失格なんじゃ・・・」

「失格ではない、お前は4人中の4番目になったということだ。 とにかく、ロレス様が天聖球に拒否された以上、お前に順番が回ってきたということだ」 そう言うと、セシウスは俺の背中を押して促した。


 俺は再び吊り橋を渡ると、丸い空間にたった。 その床に明るい緑色に光った球があった。 その球を両手でそっと持ち上げてみた。 すると球の輝きが増したかと思うと、光が自分の体に飛び込んで来たように思えた。 体の中心が熱くなるような感覚を覚えた時、ズボンのポケットに入れていたお守りの辺りで“ビシッ”という何かが割れるような音がした。 次の瞬間、頭の中に大量の情報が一気に流れ込んでくる感覚があった。 燃え上がる砦、無くなった女性を抱えている画像、赤ん坊を抱え上げている男の画像、後ろから剣で突き抜かれる男の画像など、様々なシーンの画像の断片がランダムに一気に映し出されていった。 その画像と一緒に、悲しみ、怒り、喜び、憎しみ等の感情も一緒に伝わってきた。


 (何だこれは、そうかこれは歴代の王たちの記憶の断片なのだ。 強い感情の一部だけがこの球の中に残っているのだ。 “この球を受け継ぐ者は、このような過激な経験をすることになるぞ、お前にはそれを受け入れる覚悟はあるのか”と問うているということか) 俺はなんだか泣きそうになる自分を感じた。 これらの記憶にはもちろん喜びの記憶も沢山あった。 戦いの勝利、仲間との友情、愛する者との生活など、しかしそれ以上に悲しみや憎しみの記憶が多かった。 更に孤独や挫折、苦悩も感じられた。 そして最後に感じられたのは、願いだった。 達成できなかった願いを叶えて欲しいということかと俺は考えた。 そんなことを思っている内に、俺はなんだか不思議に気持ちが軽くなってきた。 普通なら、こんな過激な感情の洪水に襲われたら、心が押しつぶされるような気になると思うのだが、逆に超人的な強さと人望を集める王たちも、自分と同じなのだなと思うと、心がなぜか落ち着いていくのだった。


 気がつくと、球を胸に抱えるように持ちながら、涙を流している自分が立っていた。 俺は球をテーブルの上の台座にそっと置いた。 すると天聖球の周りには、まるで急速に氷で覆われるかのように透明のダイヤモンド型の箱ができていった。 形状は前のものと同じようだったが、天面にはカギを差す穴はなかった。 俺は静かに吊り橋を渡り外側の床に降り立った。 グレンが心配そうな顔で俺を見上げていた。 側にはホーリーとエレインの姿も、そしてジュリアンの姿もあった。


 「大丈夫?」 ホーリーが声をかけた。

「ええ、大丈夫です」 俺は安心させようと笑いながら言った。 セシウスはその様子を脇で見ていた。

(少し雰囲気が変わったな) セシウスは思った。

「セシウス様、それでこれはどうなるのですか? カケルが王様になると言うことですか?」 エレインがセシウスにたずねた。

 その時、少し離れた空間に急に白く輝く円が現れたかと思うと、急激に大きな輪になり、そこに大きな異空間の口が開いた。 するとそこから二人の人物が出てきた。 最初に出てきたのは、グレアムという老人だった。 そしてその後から出てきたのは、全身黒い鋼鉄の甲冑に覆われた騎士のような人物だった。


 現れた黒騎士は、顔も鋼鉄に覆われ、僅かに出ているのは緑色の目だけだった。 黒騎士は俺の前まで来ると、顔を覆ったバイザーのせいで聞き取りにくい声で言った。

 「小僧、皮鎧を外して、胸を見せて見ろ」

「な、何を急に、なぜですか」

「つべこべ言わずに早くやれ、確認しなければならないことがあるのだ」

 横柄な物言いに、むっとしたが言われた通り皮鎧をはずし始めた。 そしてシャツのボタンをはずし、シャツを開けて見せた。 俺自身驚いたが、いつの間にか胸に炎のような不思議な形の模様がアザというか、入れ墨のように浮かび上がっていた。

「フン、どうやらお前は、天聖球に認められたようだな。 それは緑のレギオンの紋章だ」 黒騎士が俺の胸のアザを指さしながら言った。

「だが、事は単純にはいかなくなった。 一連の王選抜の様子は、レギオンの主立った者たちに見られていた。 お前は他の候補者たちが脱落していった後に、棚ぼたで天聖球を手に入れたと見られている。 このまま王になっても、レギオンの者たちからの人望は得られないだろう」

「それでは、どうするというのですか」

「私と戦うのだ。 私と戦って、お前が王にふさわしい力を持っていることを、レギオンの者たちに示すのだ。 それが王代行のご命令だ」

「嫌だと言ったら?」

「お前に選択の自由はない。 どうしても断るのならば、死あるのみだ」 言葉は淡々と語られたが、冗談ではなく確実に履行するという強い意思が感じられた。

「言うと思った。 人の気持ちも意思も全く無視、そっちの都合だけ押しつけてくる。 いい加減にしろ!」 俺はすごくむかついてきて、思わず怒鳴ってしまった。 右手は拳をにぎっていた。

「言いたいことはそれだけか。 ここはお前の世界とは違う、この世界では強い者しか生きてはゆけない。 言いたいことがあるなら、私を倒してから言え、寝言を聞いている暇はない」

「クッ、何を言っても無駄か。 いいだろう、やるよ」 俺は覚悟を決めた。 この黒騎士がどれだけ強かろうと、一発ぶん殴ってやらないと気が収まらなかった。

「では、いくぞ。 ここは狭いので、場所を換える。 グレアム殿」 黒騎士がグレアムの方を向くと、老人は黙ってうなずいた。 グレアムは両手を胸の前に突き出すと、手と手の間に白い円ができた。 その手を左右に広げると、出てきたときと同じように、大きな丸い門が開いた。 黒騎士がその門を通ろうとした時、セシウスが声をかけた。

「俺も行こう」 黒騎士とグレアムがセシウスを見て頷いた。 その時、エレインが手を上げながら言った。

「あたしたちも行きたいです」 隣にいたホーリーとジュリアンも頷いた。

「いいだろう、ついてこい」 黒騎士がそう言うと、門をくぐって行った。


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