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4-13 天聖球を継ぐ者(2)

 吊り橋に向って歩き出した時、数人の男の声が聞こえてきた。 俺たちが開けた扉の隣の扉が開いていた。 あれはヒョウマが開けた扉だろう。 扉から4人の男が入ってきた。 4人とも服はぼろぼろの上、血や泥で汚れていた。 歩く姿も疲労がたまった様子で、剣を杖のように地面に刺しながら歩いていた。

 「ロレス様、天聖球の間に着きましたよ。 どうやら先に着いた者がいたようですが、あの通り天聖球はまだ残っています」 左手に包帯をした男が天聖球を指さした。 ロレスは大柄な男に肩を借りながら歩いていたが、それを聞いて顔をほころばせた。 小柄な男が、俺に気づいて俺を指さして言った。

「ロレス様、ドラゴンを連れた小僧がおります」 吊り橋までの距離は、俺の方が少し近かった。

「ここは我々が、あいつを阻止します」 そう言うと、包帯の男と小柄な男は俺の前まで走ってきた。 剣を俺に向けて立ちはだかると、包帯の男が言った。

「行かせないぜ! 最後の最後まで手間をかけさせやがる。 お前等はとっととシュルメ村でくたばっていればいいものを・・・」

「やはり、あれはお前等が仕組んだのか。 あれで何人が死んだと思っているんだ」 俺はシュルメ村で俺をかばって死んだおじさんの顔が浮かんできて、怒りがこみ上げてきた。

「そんなこと知るか、今度こそお前はここで死ぬんだよ」 二人は剣を構えながら、にじり寄ってきた。 その間にロレスは、一人で吊り橋を渡り始めていた。 最後の詰めのところで、人の力を借りていたのでは格好がつかないということのようだ。 俺の剣は谷底にあった。 ホーリーからもらった短剣はあったが、剣技の点でも人数の点でもこちらに勝ち目は無かったので、あえて出さなかった。 俺は右手を握っては開くを繰り返し、呼吸を整えながら敵の攻撃に備えた。 横にはグレンが牙をむきながら男たちを威嚇するようにうなっていた。


 右側の小柄な方の男が、剣で斬りかかろうとした。 俺は右手をその男へ向けて突き出すと、心で念じた“吹っ飛べ”と。 すると激しい風の渦と共に男は、はじかれたように吹き飛ばされると、思いっきり壁に背中をたたきつけられた。 左側の男は上段から斬りつけてきたが、俺は右前に体をさばくと男を柔道の一本背負いの要領で投げた。 男は背中を硬い床にたたきつけられ、一瞬呼吸が止まり、しばらく身動きができなくなっていた。 後ろにいた3人目の男がそれを見て、剣を抜いてこちらに向ってこようとした時だった。

「そこまでだ」 男の前に横から剣を出して制したのは、ようやく到着したセシウスだった。

「ロレス様はもう天聖球のところに到着するところだ、お前たちが争う理由は無いはずだ。 それでも戦うというのなら、俺が相手だ」 男を睨みつけながら、セシウスが言った。

「承知いたしました」 男は素早く剣を鞘に収めると、壁に打ち付けられて倒れている男のところへ駆け寄った。


 ロレスは天聖球の前に立つと、笑いがこみ上げてくるのをこらえられなかった。

「これぞまさしく天啓、私が王になるべく定められていることを示している。 あの偽者どもは、馬脚を現わし既に退けられていることが何よりの証拠だ」 ロレスはそう言うと、残った薄紫色のカギを取り、天聖球を覆った箱の穴に差し込んだ。 すると透明の箱にヒビが入り、崩壊していった。 残ったのはくぼんだ台座に安置された、緑色の光に輝く球だった。 ロレスは両手でそっとその球を持ち上げ、セシウスたちの方へ向けて掲げて見せた。 球の中でうごめく光は一層の輝きを放ったかと思うと、一部が球から飛び出し、ロレスの胸に飛び込んだように見えた。 するとロレスは、顔の前で球の中をのぞき込んでいるように見えたが、突然大声を出した。

 「ウオーーッ、何だこれは、力がみなぎってくる。 ハッ、ハッ、ハッ、王だ、私は王だ」 笑顔でそう叫んでいたが、次第に顔色が変わってきた。

「何だ、何だこれは・・・」 遠い目をしながら、震えていた。

「ウワーッ、嫌だ、ダメだこんなのは。 怖い、嫌だ、嫌だ、助けてくれ」 ロレスは、その場で床に座り込むと、天聖球を足下に置いた。 するとロレスの胸から、光が飛び出すと、球に吸い込まれていった。 ロレスはその場で膝を抱えて震えながら、何やらブツブツ独り言を言っていた。


 ロレスの様子を見ていたアンドレアスは、渋い顔をしながら言った。

「だから言わないことじゃない。 オークリー様はこうなることを見越しておられたのだ」 アンドレアスはそう言うと、3ヶ月ほど前のことを思い出していた。


 「なかなか、適任者はいないものだな。 今度は森の賢者殿にお願いして、向こうの世界から候補者を連れて来てもらおうと考えている」 オークリーは自分の執務室のソファーに座って、向かいに座っているアンドレアスに言った。

「ロレス様ではいけないのですか。 別に世襲がダメな訳ではないでしょう」

「いや、初代王からの申し送りで、世襲は一応禁じられている。 それには理由があるのだ。 普通の王ならば、何より血を優先する。 より濃く前王の血を引く者が、権力や財産を引き継ぐだろう。 だがレギオンの王は天聖球を引き継ぐ者だ。 あれは大きなレムの力を使いこなせる者しか引き継げないのだ。 そしてあれを引き継ぐ者は大いなる力と共に、歴代王たちの思いも引き受けなければならない。 歴代王たちの経験してきた怒り、悲しみ、喜び、孤独、苦悩そして願い、それら全てを飲み込む覚悟が求められるのだ。 生半可に強さだけを求めるような者には、その重圧に耐えられず、精神が崩壊してしまうだろう。 だから王には、元々強いレムに耐えられる特性と強い意思を持つ者しかなれないということであって、世襲などというものは何の意味も持たないということだ。 初代王から世襲を禁止するとされているのは、力のない者たちが身内同士で骨肉の争いをすることを避けるために出されたのだ。 だから2度とロレスの名前は出さないで欲しい。 あやつにはとても無理だ。 もし私が生きている内に後継者が決まらなかったら、その時は必ずロレスが候補者になることは阻止して欲しい」

「承知いたしました」


 「それとこれも言っておかなければならない」 オークリーはアンドレアスを真剣な目で見つめた。

「もし、森の賢者殿が連れて来た候補者も適任者でなかった場合、アンドレアス、お前が王になってくれ」 アンドレアスは驚いて、すぐに返事ができなかった。

「それは、承知しかねます。 私には向いておりません」

「それは分かっている。 ああ、誤解しないでくれ、アンドレアスに王としての能力が無いと言っているのではない」 オークリーはそう言ってから、さらに話を続けた。

「お前が王になった時の先行きを心配しているのだ。 お前は自分に対して厳しいのと同時に、他人に対しても厳しい。 言い方を代えると、他人に望むもののレベルが高いのだ。 そうするとその要求に応えられない者たちは、やがてお前から離れていってしまうだろう。 それでも平和な時代はなんとかやっていけただろう。 だが不穏な時代になってきている今、戦いになった時にお前は、減った仲間の分をカバーしようとして自分が率先して戦おうとするだろう。 ぼろぼろになりながら修羅のごとく戦う姿を見たくはないのだ」 オークリーの分析が的を射ていたため、アンドレアスは返す言葉が無かった。

 「どちらかと言うと、セシウスの方が向いているかも知れない。 しかし、セシウスにそんなことを言ったら、奴はその日のうちに逃げ出してしまうかも知れない」 オークリーは笑いながら言った。

「確かに、奴なら間違いなく逃げ出すでしょうね」 アンドレアスも笑っていた。 オークリーは真顔に戻り、話を続けた。

「それで、本当ならお前に王を押しつけるようなことはしたくない。 しかし、もしも誰も適任者が出なかった場合、王を不在にしておく訳にはいかない。 お前に王になってもらうしかない。 最悪の場合、それも覚悟しておいてほしい」 アンドレアスには返事ができなかった。


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