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4-11 最後のガーディアン

 岩をきれいに積んだトンネルのような長い通路を通り抜けると広い部屋に出た。 そこの正面には大きな豪華な扉があった。 ここが最後の関門だろうかと思った時、誰かいるのに気づいた。 近づいてみると、上代が剣を構えて、5メートルほどの黒い巨人と対峙していた。 巨人は全身黒光りした体に、両手には巨大な戦斧を握っていた。 上代は巨人の戦斧の攻撃をかわしながら、飛び込み巨人の脚に斬り込んだ。 しかし大きな金属音がしたかと思うと、脚には傷一つ付いていなかった。


 「大丈夫か」 俺は上代に声をかけた。 上代はこちらを振り向きもせず、戦斧の攻撃をかわしながら下がると、言った。

「良くない、剣の攻撃は効かないぞ」 巨人に対して目を離さず警戒していた。

「ここは協力しよう、別に反則じゃないだろう?」

「分かった、それでいい。 何かいい考えはあるのか」

「魔獣を倒した時のように、お前のレムで地割れを起こして、そこにはまり込ませるというのはどうだい」 俺は言った。

「それはもう試した。 ここは特殊な部屋らしくて、地割れを起こせない」 そう言っている間に、グレンが巨人の顔に炎を放った。 巨人の顔は一瞬赤く加熱されたが、特段効果は見られなかった。

「炎もだめか」 俺はそう言いながら、ふと気づいた。 胸のところに菱形の緑色に輝く石がはめ込まれていたのだ。

「あの胸の石、あれがもしかしたら弱点ということはないかな」

「俺もそれを考えていた。 あの石を破壊することができたら、動きを止められるかもしれない」 巨人の戦斧が俺の方にも襲ってきた。 かろうじてかわしたが、その風圧が凄まじかった。 左右から飛んでくるこれをかわしながら、4メートル近い高さまで飛び上がり、石だけを破壊することは至難の業だった。

「とにかく、こいつを仰向けに転ばせる必要があるな。 俺に考えがあるから少しの間、気を引いていてくれ」 俺は上代に言った。

「分かった」そう言うと、上代は巨人の正面で剣を構え、今にも攻撃を仕掛けるぞという体で睨み合っていた。

 

 俺は密かに大きく回り込み、巨人の裏側に立った。 両手を突き出して意識を集中させると、芋虫を吹き飛ばした時の感覚を思い出そうとした。 巨人が上代との距離を詰めようと左脚を前に出した時だった。

(今だ、吹っ飛べーッ)と俺は強く念じた。 両手から強い風の渦が巻き起こり、巨人の左ふくらはぎの辺りに当たった。 巨人は左足を床に着く寸前に足をさらわれたような格好になり、そのまま思いっきり轟音をたてながら後ろに倒れ込んだ。

 上代がその隙を見逃さず、大の字に倒れている巨人の胸に登り、剣を胸の石に突き立てようとした瞬間、巨人の右手に握られた斧が上代を襲った。 上代も攻撃を察知してかわそうとしたが、一瞬遅く斧の湾曲した刃が上代の皮鎧を引き裂いた。 切れ目から赤い血がしみ出してきた。 上代は胸を押さえながら下がるしか無かった。

 俺は急いで前に回り込み、声をかけた。

「大丈夫か」

「ああ、血は出ているが、傷は浅い」

  巨人は戦斧を手から放し、両手を床に着いて体を起こそうとしていた。

「九十九、今だ、今しか無い」 上代が傷口を押さえながら、俺に言った。 俺は剣を両手に持ち、腰溜めに構えるとそのまま巨人に向って走り出した。 巨人はちょうど上体を起こしたところだった。 両手は床につき、斧は持っていなかった。 脚の上に飛び乗りそのまま巨人の胸まで駆けていった。 緑の石の位置はちょうど俺の胸の位置だった。 巨人は右手を上げて俺を払いのけようとしていた。 その前に仕留めなければならない。 俺は剣を前に突き出すとそのまま勢いをつけて、緑に輝く菱形の石に剣を突き立てた。 見事に剣先が石の真ん中に当たり、石は“ビキッ”という音とともに砕け散った。 巨人の目から光りが消えたかと思うと、腕の動きが俺の直前で止まった。 巨人の動きは完全に停止した。 俺はほっとして一瞬その場に座り込んだ。 しかしすぐ上代の怪我のことを思い出して、駆け寄った。


 「どんな具合だ?」

「傷は浅いのだが、血が止まらない」

「これを飲め」 俺はホーリーからもらった回復薬を差し出した。

「だがそれはお前の分だろう」

「いいから飲め、そんなこと言っている場合じゃないだろう」 そう言うと栓を開け、裕樹の左手に握らせた。 裕樹はしょうがないと言うような笑みを一瞬浮かべると、一気に飲み干した。

「まずいな」 変な顔をしながら言った。

 しばらくすると、出血は止まったようだった。 さっきまで青ざめた顔をしていたが、顔色も大分良くなったようだった。

「俺は大丈夫だ、先にいけ。 まだ王選抜は終わったわけじゃ無いぞ」

「しかし・・・」 俺が躊躇していると、上代は言った。

「人に情けをかけている場合か。 お前はお前のベストを尽くせ、それがお前を助けてくれたホーリーさんたちへ報いることになる。 それに俺だってまだ諦めていないぞ、もう少し落ち着いたら追いかける」 そう言うと、左手で追い払うような仕草をした。 仕方なく俺は立ち上がり、グレンと扉の方に向った。


 ヒョウマとセシウスの前には赤いドラゴンが立っていた。 ガレジオン山脈で死んでいたグレンの親ドラゴンよりは、はるかに小さいがそれでも体長は10メートル以上あるだろう。 赤い目をして2人を睨み、胸には緑色の光りを放つ菱形の石がはめ込まれていた。

 「ドラゴンって、なかなか会えないとか言って無かったっけ?」 ヒョウマがセシウスに言った。

「そうだ、このドラゴンは本物じゃない。 だが、火は吐くしこいつには剣は通用しない。 ある意味このドラゴンは本物以上に厄介だ」と言っている間に、セシウスに向って炎を吐き出した。 セシウスは炎の下をかいくぐり、青い光に包まれた剣でドラゴンの右腿に斬りつけた。 剣はドラゴンの腿を切り裂いたが、血は出なかった。 しかもすぐにその傷は、次第に塞がっていくのだった。

 ヒョウマは、両手をドラゴンに向けて突きだし、“念砲”を続けざまにみまった。 「ドン、ドン」という轟音とともに、ドラゴンの腹に二個のへこみができたが、ドラゴンにダメージは無さそうだった。 そしてできた二つのへこみも、次第に修復されていった。

「本当にこれは、ちょっと厄介だな」

「ここは俺が引き受ける、お前は隙をみて先に進め。 その扉の向こうが天聖球の間のはずだ」 セシウスが、ドラゴンの後ろの豪華な扉を指さしながら言った。

「分かった、感謝する。 あんたと一緒で楽しかったぜ」

「俺も楽しかった」 セシウスはヒョウマに向って微笑んだ。 そしてドラゴンに向って一気に間を詰めると、目に見えないくらいの速さで連撃を加えた。 ヒョウマはそれを横目にしながら、ドラゴンの背後に回り込み、扉に手をかけた。


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