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4-8 旧レーギア(5)

 ヒョウマとセシウスが長い洞窟を降りて行き、行き着いた木製の扉を開くと、そこには20畳ほどの広さの洞窟に池があった。 薄暗い中に白く濁った池の水が見えた。 2人は中に入った時から不快を感じていた。 中に入ると卵が腐ったような異臭がしたのだ。

 「これって、ヤバイやつじゃないか。 たしか温泉なんかで出る硫化ナントカっていうガスで、濃いガスを吸うと死んでしまうやつだろう」 ヒョウマが口を腕でふさぎながらセシウスに言った。

「確かにこれはまずいな。 どうするね」

「俺に考えがある。 ガスは水中から出ているようだが、湯気は出ていないようだから、水温はそれほど高くないと思う」 ヒョウマが池の真ん中辺りから時折、ボコッと泡が出ているところを指さした。

「あまり時間がないので、とっととやるぜ」そう言うと右手を水面に向けると、水面がたちまち凍り始めた。 数秒後には池の表面に厚く氷が張った。

「次だ、あそこがこの洞窟の換気口の役目をしているんだと思う」と言うと、左手の手の平を左角の天井に開いている穴に向けた。 ドンという音と衝撃と共に穴の周りの岩が落ち、大きな穴が天井に開いた。 セシウスがヒョウマの意図を理解して言った。

「じゃあ、仕上げは俺がやろう」と言うと、剣を一降りした。 すると剣の周りに風が巻き起こり、洞窟内の空気が天井の穴の方へ流れて行った。 格段に臭いが薄くなったのが分かった。

「今のうちだ、とっとと渡っちまおうぜ」 ヒョウマが笑いながら言った。

「本当に強引だねえ、でも嫌いじゃないね」 2人は氷の上を足早に渡って行った。


 ユウキとジュリアンは、目の前の異様な光景にそれ以上進めなくなった。 ジュリアンが手の平にレムの光を灯し、暗い洞窟の中を進んで行くとやがて水の流れる音が近づいてきたかと思うと、目の前に無数の赤い光が見えた。 恐る恐る近づいていくと、それが巨大なネズミの群れだと言うことが分かった。 一匹がカピバラほどあるネズミが数十匹かたまり、赤い目でこちらを見ていたのだ。 その脇には水路のように水が音を立てながら流れていた。


 「カピバラは愛嬌があるけど、これは怖さしか感じないな。 これは絶対かまれたらやばいことになるな」 ユウキは腕を組みながら考えた。

「さすがにこれは気味が悪いわね、今にも襲って来そうよ」そう言うと、ジュリアンは手の炎を天井の方まで浮かせると、矢筒から金色の矢を取りだして弓につがえた。 弓をかまえると、金色の矢が光り輝き始めた。 ジュリアンがネズミの群れに向けて矢を放つと、矢が途中で分裂し幾条の光の矢となってネズミの群れに突き刺さった。 矢が当たったネズミは悲鳴を上げて倒れたが、それ以外のネズミたちは一瞬ひるむものの、大勢を動かすことは出来なかった。 ジュリアンが“光のカケラ”と名付けているこの技は、広い戦場であれば上空めがけて放ち、落下するときに無数に分裂し雨の様に攻撃するので、密集した敵には非常に効果的だった。 しかしこの狭い空間では、十分な距離も角度もとれないため、10本程度にしか分裂させられなかった。


 「これではキリがないわね」

「僕がやってみます」 そう言うと、ユウキは左手を地面につけた。 地面が小刻みに揺れ始めると、ネズミの群れに向って地割れが発生した。 その地割れに約三分の一のネズミが「ギー」という悲鳴を上げながら飲み込まれた。 次に水路の方へ右手を向けると、水路に水柱が上がった。 その手をネズミの群れの方へ、思いっきり振り抜くと、大量の水が波の様に襲いかかりネズミたちを、地割れの方へ押し流していった。

「上達したわね」

「ありがとうございます。 今のうちに行きましょう」 ユウキが歩き始めた。


 ロレスたちは、砂の山を越えようとしていた。 彼らは既に疲労困憊の状態だった。 少し前まで吸血コウモリの群れと格闘しながら、ようやくその洞窟を抜けてきたばかりなのである。 目の前の光景を見ながら、ロレスはため息をついた。 砂の山には木ではなく、無数の剣が生えていた。 大小の剣が1メートルぐらいの間隔で固定されていたのだ。 その山を迂回して行ける道はなく、剣を避けながら山を越えるしか無かった。 最初、このぐらいの間隔ならば避けていくのは、それほど難しくなさそうに思えた。 しかしすぐにそれが甘い考えであることが分かった。 砂山は登りはじめると、砂が崩れやすくまた靴がはまり易かった。 そのため、体のバランスが崩れてしまい、剣の方へよろけてしまい、うっかり剣先に触れてしまうのだった。


 「まったくガーレンの奴、戻ったら覚えていろよ」 ロレスは昨日の、この旧レーギアの管理者の一人であるガーレンとの会話を思い出していた。

 「ガーレン、天聖球の間までの最短のルートを教えるんだ。 私が王になったら、決してお前を悪いようにはしないぞ」 ガーレンと呼ばれた、色白で口からあごにかけて黒い髭を生やした50代に見える男は、鋭い眼光でじっとロレスを見ていたが、やがて静かに言った。

「いいでしょう、右の扉から入って、道が分かれていたら右へ右へと進んでください。 ただし最短ではありますが、容易に抜けられるという訳ではありませんよ。 うちのガーディアンたちは、侵入者には厳しいですから」 そう言うと、にやりと笑った。

「あの野郎、もう少し手加減しろっての」と言った瞬間、右足の砂が崩れて前に倒れそうになり、右手をつこうとしたところに剣があった。 思わず右手で剣を握ってしまってから、後悔した。

「ギャー」 悲鳴を上げて剣を放した瞬間、こんどは後ろに下がってしまい、尻に剣先が刺さってしまった。 他の者たちはその様子があまりにもおかしかったが、笑うに笑えず、必死に下を向いて口を押さえてこらえていた。 30分後、ようやく砂山を越えた時には、4人とも体中傷だらけになっていた。


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