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4-5 旧レーギア(2)

 ユウキとジュリアンの前にあったのは、そこが見えない様な谷だった。 幅は20メートル以上あった。 その間には1メートル4方ぐらいの石の柱が2メートル弱ぐらいの間隔で幾つも飛び石の様に並んでいた。

 「ようするに、あの石を跳び移りながら渡れってことらしいわ」

「問題はあれだな」 ユウキが指さした石の真ん中の穴から突然火が噴き出した。 いくつかの石が同時に火を吹くため、渡る石の選択とタイミングが重要だった。

「見ていてもしようがないわね、行くわよ」

「いや、待って」 ユウキは言うと5分ほどじっと見ていた。

「分かった、火の吹く位置とタイミングには規則性がある。 ルートは見えた」 そう言うと、ある石の前に立った。


 「行きますよ。 僕を信じて一緒のタイミングで跳んでください」

「今です」 そう言うと2人同時に跳んだ。

「すぐ左」「次、前、今です」 2人はタイミングを合わせながら跳んだ。 跳び移ったとたんに、今までいた石から火が吹き出した。 2人同時に載るには石は少し狭かった。 それにどうしても下に広がる闇が目に入るため、載り移った瞬間にバランスを崩しそうになるのだった。 足を踏み外しそうになるのを、ジュリアンが腕をつかんで止めてくれた。

(これは別の意味で、結構難しいぞ) 2人が跳び移りながら次々と移動していき、向こう側までもう数個渡ればたどり着くというところまでくると、ジュリアンもその規則性を理解して、次にどれに跳べば良いか分かってきた。 そして後一つで向こう側に渡れるという時、ジュリアンが言った。

「次、右だよね」

「いや、それは罠だ、左、今だ」 2人は左の石に跳ぶとほぼ同時に、ジュリアンの言っていた右の石から火が吹き出した。 跳んだ石からすぐに向こう岸に跳び移り、クリアすることができた。


 ジュリアンが不思議そうな顔をして言った。

「なぜ、分かったの」

「本当に渡らせたくなかったら、火が吹き出すタイミングは不規則にするはずだ。 それがこれだけ規則的になっているのは、明らかに誘っていると思いました。 だから一番油断するだろう最後の石で裏をかいてくると思ったんです」

(やっぱり、ユウキもただ者じゃない。 規則性があるって言っても普通の人ならなかなか気づかないぐらいだ。 しかも少し見たぐらいじゃ覚えることなんか無理だと思う。 それをあの状況で、裏の意図まで読み解いてしまうなんて)

「それじゃ、次行きますか。 左に行きましょう」 と言いながら扉を開けた。


 各候補者たちの奮闘の様子を、アンドレアスをはじめレギオンの主立った者たちが見ていた。 昨日、王選抜について発表が行なわれた広間の真ん中に、縦2メートル近くの大きな楕円の鏡が4枚並んでいた。 それぞれの鏡には、各候補者とその補助者たちが奮闘している様子がテレビでライブ映像を見ているような感覚で見ることが出来た。 ただし画像のみで音声は伝わらなかった。 鏡の周りには多くの男たちが腕を組みながら、様子を見ていた。 今回は隊長や職長たちに混じって、非番の兵士も参加することが許されたのだった。 そこにレオンとリースの姿もあった。


 「誰が最初にたどり着くかな」 リースがレオンに言った。

「ヒョウマだ」 ぶっきらぼうに答えた。

「そうだな、セシウス様もついておられるからな」

「気にいらんな」

「何が気にいらないんだ」

「ユウキは最初の部屋をこともなげにクリアした。 セシウス様が一緒なのだから当然といえば当然なのだが、我がレーギアの防御をあっさり突破されるのは正直なところ面白くない」

「なるほど」

「他の候補者はどんな様子だ」 リースが隣の鏡を覗いた。

「ユウキもカケルも最初の部屋はクリアしたようだ。 ロレス様は、3匹の巨大ニシキヘビと苦戦中のようだな」 レオンも鏡を覗いて言った。


 俺たちは巨大なトカゲたち(?)に囲まれつつあった。 体長約6メートルを越える巨体は、ワニの様に硬い皮膚に覆われていた。 試しにエレインが剣で斬りつけてみたが、鎧のような皮膚には傷一付かなかった。 俺は火を怖がるかも知れないと、炎を浴びせてみたが、少しイヤそうに顔をそむけた程度だった。 トカゲたちが舌をチロチロ出しながら近づいて来て、俺がどうしたものかと考えていた時、後ろにいたグレンがトコトコ俺の前に出てきた。


 「グレン、危ないから下がっていろ」 俺の声に耳もかさず、グレンは更に一歩前に進むと、目の前の大トカゲをにらみつけた。 “何だこいつ”とでも言うようにグレンを見下ろすと、「グワッ」と威嚇してきた。 するとグレンがそれに応えるように、「グオーーッ」と体に似合わない咆哮をとどろかせた。 するとトカゲたちは、雷に打たれたようにビクッとして体をこわばらせた。 しばらくの間、固まって動けなかったが、グレンにさらに一睨みされると、突然後ろを向き出てきた穴に一目散に戻って行った。 俺たちはその光景を呆気にとられて見ていた。

「すごいなグレン、一吼えで追い払うなんて、小さくてもさすがドラゴンだな」とエレイン。 ホーリーが「よしよし」と言いながら、グレンの頭をなでた。 グレンは「クオッ」と先ほどの声とはほど遠い声で得意げに鳴いた。


 洞窟を降りて行くと木製の扉にたどり着いた。 ヒョウマが扉を開けると、広い石畳の部屋になっていた。 そこには20体ほどの石像が横に2列に並んで立っていた。 石像は3メートルほどの高さの鎧を着た兵士の姿で、本物の巨大な剣を握っていた。 ヒョウマとセシウスが部屋に入ると、石像たちが一斉に動き出し、剣をふりあげて向ってきた。


 「さあて、どうするね」 セシウスがヒョウマに聞いた。

「力ずくでたたきのめすだけですよ」 ヒョウマがこともなげに言った。 右手を手の平を正面の石像に向けて突き出すと、突然正面の石像が“ドゴッ”という音と共に、腹部に透明の砲弾でも受けたかの様な衝撃を受けて後ろに吹っ飛んだ。 その石像は胴体がバラバラになって、後ろの石像の前に転がっていた。 ヒョウマは続けて左手を左前から迫って来る石像に向けると同様に一撃で吹き飛ばした。

「ヒュー、前よりも威力が増しているんじゃないか。 それではこちらも行くとするか」 セシウスは青い光に包まれた剣を振りかぶると、前の石像に向って一気に間を詰め跳び上がった。 セシウスは相手に剣を振り下ろす間も与えず、一気に袈裟斬りにした。 それは石とは思えないような、チーズでも切っているかのように切り裂いた。

「そっちこそ、すごいじゃないか。 剣が特別なのか、あんたの技量が特別なのか、どっちだい」

「んー、剣は悪くはないが普通だな。 たださすがに刃こぼれが起きるので、レムで保護しちゃいるがね」

「なるほど、あんたが尋常じゃないということだね」 そう言うと、両手を突き出し、一気に2体の石像を吹き飛ばした。 もうその後は、まるで巨大な石像は2人の訓練用の人形であるかのように、一方的に破壊されていった。


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