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40-2 皇帝即位そしてその後

 一カ月後、セントフォレスト

 ゲルガンの戦いの後、俺はアストガル大陸の初代皇帝になった。 街は連日お祭り騒ぎになり、大陸各地からの人や物資の流れは激増した。 都はセントフォレストとした。 王宮は新たに建設するべきとの声が多かったが、俺は戦で疲弊したところに無駄にお金をかける必要はないと、却下した。 ただ、各地からの訪問客や、官職が増え、今のレーギアでは手狭であるため、北の広場に建物の増設だけは許可した。


 官職はスウゲンを右丞相、ユウキを左丞相として、協力して全体を取り仕切らせた。 そして他の官職は当面レーギアの者達に兼務させる事にした。 緑のレギオンについては今までどおりセシウスを王代理とし、藍はバウロを王代理にして大幅に権限を委譲した。 俺が皇帝になって大陸に布告させたことは次のようなものだった。

 “一つ、奴隷制を廃止し、人身の売買を禁止する。 二つ、各種族は平等であり、住む場所や職業を自由に選ぶことができる。 三つ、種族によって賃金に格差をつけてはいけない” それ以外は、各王の裁量に任せた。


 それとザウフェルについては、正式に王のサムライとして公表した。 これによってザウフェルとその一族は、皇帝の臣下として表に出ることが出来るようになった。 そしてザウフェルの孫のキレンとアレクは俺の側近く仕えることになった。


 俺はこの新しい帝国をどのように運営するかをユウキとスウゲンと話し合い、新たな体制の素案をまとめるように指示した。


 クロームの家

 俺はクローム達の家を訪れていた。 戦いで負った怪我は、アリーウエン様によって完全に治っていたが、なぜか気力が湧いてこなかったのだ。 皇帝になってから慌ただしい日が続き、疲れが溜まったのかも知れないし、戦いがなくなって安心して気が抜けてしまったのかもしれない。


 「カケル様、皇帝陛下におなりになられたとお聞きしました。 おめでとうございます」とクローム。

「ありがとう」

「今回は、疲れを癒やしたいとお聞きしております。 たいしたおもてなしも出来ませんが、ごゆっくりしてください」とシローネ。

「ご迷惑をおかけします」

「アグレル様、お久しぶりです」 俺は久しぶりにクロームたちのところへ立ち寄ったというアグレルに挨拶した。

「しばらく見ないうちに、大分いい面構えになったようだな。 だが皇帝なんぞになって、位負けせんようにな」

「頑張ります」

「そう言えば、山の貧血ジジイが喜んでおったぞ」

「ハ、ハ、ハ・・・」(貧血ジジイって、ザウフェルのことか?)

「まあ、でもこれでお主がどのような世界を作るのか、見届けるまでは死ねなくなったな」

「アグレル様、何歳まで生きられるおつもりですか?」と珍しくハルがつっこんだ。

「バカモノ、師匠が弟子の行く末を見守るのは責務じゃ。 ワシはあと百年は生きるつもりじゃぞ」

(ハ、ハ・・・この人は冗談じゃなく、本当に生きそうだな)


 クロームの家の前の小川

 俺はその日の午後、暇つぶしに家の少し前に流れている小川で釣りを始めた。 春の陽気にいつのまにか釣り糸を垂れながらウトウトしていた。

(平和だ。 これがいつまでも続くと良いのだが)


 ハルやキレン達が、お茶の準備をするために家の方へいって、少しのあいだその場には俺とホーリーしかいなくなった。 ホーリーは俺の隣にたたずんでいた。 ホーリーの横顔を見ていたら、今までのことが色々と思い出された。 ホーリーはいつ頃からか青い布の覆面をしなくなっていた。


 「ホーリー、今まで本当にありがとう」

「いえ、私はカケル様にお仕えできて幸せでした」

「何か望みはないのかい?」 俺がそう言うと、ホーリーは少し考えてから俺の後ろに回った。 そしてそっと腕を回して俺を抱きしめた。 俺は驚いて後ろを向こうとした。

「だめ、恥ずかしいから。 このまま、少しだけこのまま・・・」 ホーリーはそう言うと額を俺の背中にそっと押し当てた。 俺はそのまま何もできずに、どうしてよいのかも分からずにいた。


「ウ、ウホン。お邪魔でしたか」 声を発したのはユウキだった。 ゲートを使って急に現れたのだった。 ホーリーは慌てて俺の背中から離れた。


 「陛下は、お気楽でよろしいですね」

「なんか、ずいぶんトゲのある言い方だな」

「それはそうでしょう。 面倒なことは全部我々に押しつけて、自分は隠居でもしたみたいに、田舎で釣りをしているのですから。 まあそれは冗談として、これだけは陛下の決裁をいただきませんといけませんので・・」 ユウキはそう言いながら書類を差し出した。 俺はざっと目を通してサインをした。

「まあそんなに責めないでくれ。 やっと平和になったのだ、少しぐらいのんびりする時間があっても良いだろう」

「ええ、ですが、これからが大変なのですよ。 自覚していただかないと」

「なぜ、もう戦争も起きないし、後は各都市を復興させていくだけだろう」

「ふうっ。 陛下、もし陛下が突然お亡くなりになられたらどうなるとお思いですか。 また始まりますよ、次の皇帝の座を巡って王達の戦いが・・・」 ユウキは真顔になった。

「・・・・・」

「ですので、陛下には永く君臨していただかなければならないのです。 そうですね、千年ぐらいは生きてもらわないと」

「な、何だと。 そんなの無理に決まってるだろうが」

「無理だろうと何だろうと、お前がいなくなれば、また争いは起きるということだ。 皇帝は世襲できないのだからな」

「・・・・」

「では、私は仕事がありますので戻ります」 そう言ってユウキはゲートを開いた。

「ああ、それと、もう一つ。 陛下はこの世界には大陸は一つとお考えですか?」 そう言うとゲートの向こうに消えていった。

(えっ、大陸が一つじゃないということ? そんなこと考えてもみなかった。 だがまてよ、エルム族の伝承に、今の人族は太古に別の大陸から渡ってきたとか言っていたよな。 それって、別の大陸から攻めて来ることもあり得るということじゃないか)

「エーーッ、そんなあ」 俺は全身から力が抜けた。


 突然釣り竿が大きくしなった。

「陛下、引いています!」とホーリー。 俺は慌てて竿を取ろうとして駆け寄ったが、その時に川岸の草に足を滑らせて川に落ちてしまった。 丁度その時、テーブルを運んでいたハル達に笑われてしまった。

(くそっ、何だよ。 全然楽にならないじゃないか) 俺はそのまま水面に大の字になって浮かんだ。 まだ水は冷たかったが、何だかスッキリした。

(まあ、いいや。 まだまだ楽はさせてもらえないようだが、この仲間がいれば怖くはない。 やってやろうじゃないか)

見上げた空が、やけに青くて清々しかった。


 完


何とか完結することが出来、ほっとしております。 拙い文章に最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。 ただ今次回作を準備中ですので、また読んでいただければ幸いです。

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