39-25 悲哀の大戦(13)
俺とグレンが戻ってくると、戦場は壮絶な戦いが繰り広げられていた。 ただ、趨勢は決しようとしていた。 紫の軍勢は連合軍に圧倒され、アデル族本来の驚異的な戦闘力が発揮出来ずにいるように見えた。 士気も大分下がっているようだった。
右翼から攻め上がったバウロは、紫の左翼を指揮していたグレイガと一騎打ちをしてグレイガを討ち取った。 中央から攻めていたセシウスは、アレンを討ち取っていた。 左翼ではヒョウマが、コーレンを叩きのめし、コーレンはサツカにとどめを刺された。 そしてただ一人残ったサムライのバルリはアビエルと戦っていた。
アビエルが鞭でバルリの剣を叩き落とすと、バルリは炎の矢を放った。 アビエルはそれをかわすと、またがった灰色の魔獣に距離を詰めさせた。 アビエルを乗せたガルは、バルリに襲いかかり前足で両脚を押さえつけた。 アビエルはバルリにとどめを刺そうとして、剣を振り上げた。
「アビエル、そこまでだ!」 俺は二人の上空まで飛んで行くと、アビエルを制した。
「カケル様、ご無事だったのですね」 アビエルは驚き、喜んだ。
「アビエル、殺すな。 勝負はもう着いた」
「分かりました」 アビエルは不満そうながらも、ガルをバルリの体の上から退かせた。 バルリは体を起こしながら俺の顔を見つめた。
「ラウエル様はどうなされた・・・」
「死んだ。 もう戻っては来ない」
「嘘だ! ラウエル様がお前ごときに負けるはずがない」 バルリが俺に向って火球を放った。
「オフセット」 俺がつぶやくと、俺の前で火球が消え去った。
「無駄だ。 もう勝負は着いた。 戦は終わりだ、降伏しろ」
「そんな、我等が負けるなど有り得ない!」
「現実を見ろ! お前以外のサムライは皆討ち取られた。 このままでは紫の軍勢は全滅するぞ」 俺がそう言うと、バルリは周りを見渡した。 紫の軍勢はどんどん押し込まれていた。
「お前が全軍を掌握して、降伏するのだ。 これ以上無駄に血を流すことは無い」
「クッ、ラウエル様の許しもなく、そんなことが出来るか!」
「バカヤロウ、ラウエルは死んだんだ。 お前は指揮官としてやるべき事をしろ! ここを収拾できるのはお前だけなんだぞ!」 俺が怒鳴ると、バルリは雷に打たれたように固まった。 そして意を決したように俺を見つめると言った。
「分かった。 いえ、承知いたしました。 我等は緑の王に対して降伏いたします」そう言うと、バルリは跪いた。
「では早速、兵達を掌握してくれ」 俺はそう言うと、内心ほっとした。
「はっ!」 バルリはそう言うと軍中に消えて行った。 俺はセシウスに念話を送った。
「セシウス、敵は降伏した。 全軍攻撃を止めさせてくれ」
「カケル様、ご無事でしたか。 承知いたしました」
1時間後
紫の軍勢は、武器を捨て降伏した。
「我等の勝利だ!」 全軍に歓声が響いた。 そして12王達が次々と祝いの言葉を述べにやって来た。
「おめでとうございます」とザウロー。
「必ず紫の王に勝利されると信じておりました」とスウゲン。 他の王達も嬉しそうに祝いを述べた。
(そうだ、俺にはこんなにも大勢の仲間がいたんだ) 俺も心から喜びがこみ上げてきた。
こうして、後にゲルガンの大戦と呼ばれた戦いは、多くの犠牲を出しながらも勝利を収めた。