4-4 旧レーギア(1)
王選抜の日は、朝から快晴で一日暑くなりそうだった。 昨夜は早めに休んだが、色々と考えてしまいあまり眠れていないような気がする。 これまでの疲れが出てしまったのか、体が重くだるい。 ホーリーが朝食を部屋に運んでくれるように手配してくれた。 エレインは武器庫から剣と皮鎧を調達してきていた。 今まで持っていた剣は、シュルメ村で使った剣だ。 だがエレインが言うには、この剣では俺には少し重すぎるとの事だった。 3人と一頭で朝食をとりながら、再度確認をした。
「いいか、もし途中であたし等とはぐれたり、バラバラになっても、探しに戻ろうとしたり、待っていたりはするな。 とにかくお前は前に進むことだけ考えるんだ。 あたし等は自分の面倒は自分でみれる。 最悪の場合でも、管理者も脱落者としてそれ以上の攻撃はしてこないはずだからな」 エレインが念を押すように言った。
昼前に馬車が迎えにきて、旧レギオンまで市街地を通って送ってくれた。 丘の上のピラミッドのような石造りの建物前には、他の候補者達が既に来ていた。
武器を確認して、靴ひもを結び直していると、ホーリーが口の栓をロウで固めた、青い小瓶を差し出した。
「回復薬だ、持っていて」
「さあて、腕試しといくか」 エレインが肩を回しながら言った。 グレンはこれからやろうとしていることを理解していないのか、大きなあくびをするとその場に横になった。
太陽が真上にきたころ、鐘が鳴り王選抜の開始が告げられた。 各チームはお互いの動きを観察しながら、石段を登りだした。 20段ほど上った正面に入り口が大きく口を広げていた。両脇には裸の巨人が天井を支えている彫像の柱が立っていた。 中に入ると、正面の壁に3つの扉が並んでいた。
「さて、どうするね」 セシウスがヒョウマに聞いた。
「迷うことじゃないでしょう、真ん中行きますよ」 とヒョウマが扉を開けて入って行った。 それを見ていたロレス達は“フン”と見下すような仕草をみせると、右の扉を開けて入って行った。 俺が上代を見ると、俺に左手の扉を指さしてみせ「行ってくるよ」と言った。
「さあ、あたし等はどれにする」
「真ん中にしよう」 俺はそう言うと、扉を開けた。
中は薄暗くよく見えなかった。 扉が閉まると部屋の壁にかがり火が点いた。 広さは思っていた以上に広かった。 体育館ほどの広さで正面の壁に扉が2つ並んでいた。 ヒョウマ達は既にいなかった。 すぐ隣の扉を入った他のチームの扉も内側からは無かった。 おそらくレムの力で、他の階層の部屋へとつながっているのだろう。
「何も無いけど、これはこのままあそこの扉へ入れば良いのかな」 俺は独り言のように言った。 とその時、左右の扉が開いて、剣を持った木人の群れが左右から出てきた。
(そうだよな、そんな訳ないよな) と思いながら剣を抜いた。
「来るぞ、カケル不用意に斬りつけるなよ。 剣が食いこんで抜けなくなるぞ。 斬るなら肘や膝の関節部分を狙え」 エレインが剣をかまえながら言った。 丸太の胴にハロインのカボチャのような頭が載っている数十体の木人がカチャカチャ音を立てながら近づいて来た。 まずエレインが機先を制して斬り込んでいった。 木人の振り上げた腕の肘を切り落とし、そのまますかさず、隣の木人の膝関節を断ち切った。 その木人はバランスを崩し、隣の木人に倒れかかり、進行を遮る形になった。
ホーリーは、木人の剣をさばいてかわすと、そのまま肩で木人の背中に体当たりをして倒した。 倒れた木人は仰向けになったまま手足を動かして用意に立ち上がれ無かった。 その様子を見ていた俺は、深呼吸をすると剣を鞘に収めた。 そして素手のまま木人の群れに飛び込んだ。 俺は木人の剣を持つ腕を両腕で取ると、体をさばきながら左脇に挟み、そのまま体重を木人の体にかけるようにして押し倒した。 人と関節の作りが違うので、極めることは出来なかったが、倒すだけで十分だった。 意外と木人の動きは軽やかだったが、先日の村での戦闘に比べれば遅いし、動きが単調のため読み易かった。 ふとグレンを見ると、火を吐いて攻撃していたが、燃えながらも止まらず攻撃してくるので、面倒になり羽ばたいて空中に逃れた。 3者3様であったが木人を倒しながら扉の前までたどり着くことができた。 俺は左の扉を開けると、薄暗い中に用心しながら入って行った。
ヒョウマとセシウスが入った部屋は、向こう側のかべまでが50メートルほどの縦長の部屋だった。間には水が横たわっていた。 部屋の真ん中に幅1メートルほどの橋が架かっており、そこを渡って行けということらしかった。 左右の壁には骸骨を積み重ねた様な絵が描いてあった。
「何が出てくるのかな」とヒョウマ。
「おそらく、橋の上で逃げ場を無くしたうえで、あの骸骨のところから矢でも飛んでくるんじゃないかな」 とセシウス。
「なるほど、それじゃ俺が右側を担当するから、あんたは左を頼むわ」 とヒョウマがサラリと言った。 橋の方へ歩いて行くと右を向いて両手を肘を曲げて左右に開くと前面に大きな透明の壁が出来た。
「ほう、レムの防御壁か、いつの間にそんな事まで覚えたんだ?」 セシウスがヒョウマの後ろに、背中を合わせるように立ちながら言った。
「俺、剣が使えないから、と言うか面倒くさいから防御ができるものと思ってやってみたら出来た」
「思ってやってみたら出来たって、すごいな。 じゃあいくか」 2人は背中合わせのまま、静かに横へ進んで行った。 3歩ほど進んだところで、シュッ、シュッという風切り音がしたかと思うと、左右から一斉に多数の矢が飛んできた。 セシウスは目にも止まらぬ速さで剣を振ると、足下に切断された矢がバラバラと落ちた。 ヒョウマ側では、透明の防御壁に当たった矢がそれもバラバラと足下に落ちた。 動きを止めず更に進んだが、矢は次々と絶え間なく、骸骨の目の部分から打ち出された。
結局のところ、50メートルの距離を渡りきっても2人の体には一本の矢もかする事さえ出来なかった。
2つの扉の前に立つとヒョウマはポケットから一枚の銅貨を取り出した。
「さて、今度はどっちにするかな。 表が出たら右って、どっちが表か分からんな。 10って書いてある方が出たら右、建物の方だった左にしよう」 と言いながら、10円硬貨を上に放り投げた。 それを左手の甲で受け、右手で押さえた。 右手をのけると、硬貨には建物が描かれていた。
「左にしよう」 とセシウスに言いながら扉を開けた。




