39-22 悲哀の大戦(10)
そこは不思議な空間だった。 草原だったが、見たことがない風景だった。 なにより違和感があったのは、空に無数の地面が様々な方向を向いて浮かんでいたことだった。 時も止まっているように感じた。
「どこだ、ここは・・・・」
「驚いたか? ここはアストガルではない。 異世界と異世界の空間の狭間に出来た亜空間だ。 あそこに浮かんでいるのは、他の異世界から削り取られて紛れ込んだ大地の一部だ。 今、我々が立っているここもそうだ」
「・・・・・」
(何だと、こいつは異世界にもゲートを開けるのか? レベル5だから出来るのか? あれっ、俺帰れるのか?)
「気付いたかも知れないが、もうお前の勝ちはない。 正確にはお前が向こうに戻る事はない。 なぜならここで死ぬからだ。 万が一、お前が私に勝ったとしても、お前が帰る術はない」 そう言うとラウエルは笑った。
(やはりそうか。 クソーッ)
「ならば、お前をぶちのめして、無理にでも扉を開かせてやる」俺は弱みを見せないように強がりを言った。
「ははは、良いぞ。 良いぞ、やって見せろ」 ラウエルはそう言うと剣を抜いた。 ラウエルの剣は、赤みがかって見えた。 俺も剣を抜いてかまえた。
「行くぞ!」 ラウエルはいきなり目の前に現れ、俺の顔面を剣で突いてきた。 俺はとっさに剣で、剣先を受け流した。 ラウエルの剣はそのまま流れるように軌道を変え、右脇から襲って来た。 それもかろうじて体を回転しながらかわした。 その後もラウエルの剣は執拗に襲って来たが、俺は何とか凌ぐのがやっとだった。
「そらそら、どうした? 守ってばかりじゃ、私は倒せないぞ!」
「クソッ!」 俺もギアを上げて攻撃に転じた。 しかしラウエルの守りも堅く、有効なダメージを与える事が出来なかった。
戦いは拮抗したまま、時間だけが流れた。 その時間もこの世界では、5分なのか1時間なのかその感覚も分からなくなっていた。 ラウエルは戦法を変えてきた。 空間を自在に使い、遠間から火球や光の攻撃を放ち、俺が防御したりかわして体勢が崩れた一瞬を狙い、瞬間移動して剣で攻撃するというのを組み合わせてきたのだ。 それに対して俺も瞬間移動して、ラウエルとの距離をとり、レムの攻撃加えるという戦法をとった。 もしここに戦いを見る者がいたら、高速で移動しながら戦っている二人の姿を見ても、いったい何が起こっているのか理解出来なかっただろう。
緑のレギオン本陣
12王達が集まって来た。 これからどうするかを協議するためだ。 セシウスに対してスウゲンが進言した。
「セシウス殿、今が好機です。 紫の軍に対して総攻撃をかけるべきです」
「しかし、カケル様が心配だ。 カケル様を助ける手段を考える方が先だろう」とセシウス。
「セシウス殿、我等が今出来ることはカケル様を信じることだけです。 あの紫の王を倒して戻って来られると。 我等は我等のできることをすべきです」
「それはそうだが、しかし・・・・」
「カケル様が不在の今、貴方が王代理です。 ご決断ください」
「良いだろう。 カケル様が戻られるまでに、勝利を決めておこう」
他の王達も頷いた。
「具体的にはどうする」とセシウス。
「ことここに至っては、小細工は無用です。 敵はあてにしていた魔王軍を破られ、王も不在で浮き足立っているはずです。 全軍で打ち破るのみです。 勢いはこちらにあります」とスウゲン。
「分かった。 全軍総攻撃だ。 今日で決める!」
そしてセシウスの号令のもと、全軍紫の陣をめがけて進軍を開始した。