39-16 悲哀の大戦(7)
ラウエル王の幕舎
「ほう、意外とやるじゃないか。 これは思ったよりも楽しめそうだ」 魔王グレリュウスはテーブルの上の鏡に映った戦場の様子を、頬杖をついて見ながら言った。
「なかなか侮れないでしょう」とラウエル。
「まあ、これくらいはやってもらわないとな。 我の兵など幾ら殺られても、どうということはない。 それでは将軍達に敵の殺戮を命じるとしよう」
「お待ちください、グレリュウス様。 私に考えがございます。 奴らに追い打ちをかけて恐怖のどん底に突き落とす妙案が」とカウレイ。 グレリュウスは蔑むような目でカウレイを見ていたがやがて静かに言った。
「そうか、良いだろう。 やってみろ」
「かしこまりました」 カウレイはそう言うと出ていった。
銀の陣では長い銃身を持つ重機関銃が並べられた。 これは魔王軍対策のためにシーウエイとユウキが協力して機関砲を更に軽量化と耐久性を改良したのだった。 フレアの指揮のもと、迫り来る魔王軍の兵に向けて次々と弾丸を連射し、カマキリのような兵の鎧のような甲殻を打ち砕いていった。 その重機関銃は白のレギオンにも20丁貸与されていた。 こちらもガーリンの指揮で攻撃が開始されていた。 兵達は次第に平静を取り戻しつつあった。
突然、戦場の上空に巨大なゲートが開いた。 そしてその中から出てきたのは信じられない物だった。
4カ月前、ドラゴンの島
突然島の上空にゲートが開くと、二人の人物が現れた。 ラウエル王とカウレイだった。 二人は空中に浮かんだまま話し始めた。
「ようやく見つけました。 ここがドラゴン達の島です」とカウレイ。
「うむ、だがドラゴンが見当たらないようだが」
「狩りにでも出かけているのでしょう。 あれをご覧ください。 あそこに赤竜が寝ております」 島の中央にすり鉢状になった火口跡の日陰になった場所に、体を丸めた巨大な赤竜が寝ていた。
サーフィスは驚いた。 寝ていたとはいえ、自分が目の前に来るまで侵入者に気付かなかったことにだ。
(何者だ? ただ者ではないな) サーフィスは立ち上がり、目の前の二人を威嚇した。 危険な奴らであることだけは分かったからだ。
「何者だ! ここはお前達のような者が訪れてよい場所ではないぞ」 サーフィスは念話で話しかけた。
「ほう、会話ができるのか。 余は紫のレギオンの王、ラウエル・フローエン」
「12王か。 その12王が何用か」
「なに、ドラゴンとはどれほど強いのかと思ってな。 退屈しのぎだ」
「愚かな。 身の程を知らせてやる」 サーフィスはそう言うと、口から火炎をラウエルに向けて吐き出した。 ラウエルは瞬間移動すると次の瞬間には、サーフィスの顔の左にいた。
「な、なんだと・・・」 次の瞬間にはサーフィスはラウエルにぶちのめされ、近くの木々をなぎ倒していた。
(つ、強い。 ワシももう老体だが、まだそこいらの若いドラゴンにも負けないつもりだ。 こいつは、ゴードンよりも強いのではないか) サーフィスは立ち上がり、右の前足でラウエルを攻撃した。 しかしラウエルは難なくそれをかわすと、下からサーフィスのあごを突き上げた。 サーフィスはあごにものすごい衝撃を受け、意識が飛びそうになった。 体のバランスを崩し脇にあった小さな岩山を崩した。 サーフィスはゆっくりと立ち上がると、朦朧とした意識をハッキリさせようとするかの如く頭を振った。
「何だ、拍子抜けだな。 これじゃあ暇つぶしにもならない。 終いにしようか」 ラウエルはそう言うと、剣を抜いた。 赤く光る剣を振りかぶると、次の瞬間にはサーフィスの左の肩から胸にかけて斜めに切り裂いた。 サーフィスにはかわす間もなかった。 勢いよく傷口から血が噴き出すと、サーフィスは前のめりに地面に倒れ込んだ。
「グレンバロウス、む・無念・・・」 そこでサーフィスは絶命した。
「思ったよりたいしたことなかったな。 カウレイ、帰るぞ」
「お待ちください、ラウエル様。 私に考えがございます。 このドラゴンには使い道がございます」
「そうか、好きにするがいい」
「かしこまりました」 カウレイはドラゴンの死骸を氷漬けにするとゲートを開き、別の場所に移送した。 更にそこにあった墓を掘り返し、竜王の遺骸も運び出したのだった。




