39-15 悲哀の大戦(6)
緑の本陣
開戦三日目の朝、軍勢の配置を少し変えた。 黒の軍勢を本陣の背後に据えたのだった。 更に本陣の両翼の脇に空堀を掘った。 スウゲンもユウキも気休め程度にしかならない事は分かっていた。
「今日辺りですかね」とユウキ。
「おそらくそうでしょう。 戦況は膠着していますから、均衡を崩す意味でもやってくるでしょうね」とスウゲン。
「カケル様、そのお姿は・・・」とセシウス。 俺が黄金に輝く、アニメのヒーローのような鎧を着けていたからだ。 今までも何度かセシウス達から着けるように言われていたのを俺が嫌がっていたやつだった。 王が兵達からいつも見えるところにいるということを示すためだった。 だがそれを見てスウゲンが顔をしかめた。 俺の意図を読み取ったようだ。
「カケル様、今日だけはお止めください。 カケル様は兵達を鼓舞するために自ら前線で戦われるおつもりですね」
「あなたに万一のことがあったら、そこで終わりです」とトウリン。
「おそらくそんな事は言っていられなくなる。 もしかしたら今日は大敗を喫することになる。 そうだろう?」 誰も返事が出来なかった。
「私は、必要だと思ったら即座に出るつもりだ」俺は強い決意を持ってキッパリと言った。
陽が昇って来た頃、紫の軍勢が進んできた。 しかし今日は3キロほどの距離を空けそれ以上は進軍してこなかった。 まるで何かを待っているようだった。 そして突然、両軍の中間の空に三つの巨大な魔方陣のようなものが現れた。 それは異世界とのゲートと化し、そこから魔物とも人とも言えない異形の者が一斉に大挙して現れた。 カマキリのような昆虫系の兵や、コウモリのような翼を持った一つ目の兵や、表情の分からないナメクジか芋虫のような不気味な兵達もいた。 数は総数2万近いだろう。 そしてそれらを率いている将と見られる一際大きい6人がいた。
「ついにきたか」ヒョウマは渋い顔をした。 兵達がざわつき始めた。 12王達は、事前の会議で紫の王が魔王軍を召喚する可能性が高いことを聞いていたので、驚きはしなかった。 しかし兵達には戦い前に士気を下げるような事は避けたいと知らせていなかったため、兵達の動揺は大きかった。
魔王軍はヒョウマ達の丘とバウロ達の丘に向って、二手に別れて進撃を開始した。 魔王軍の兵達が近づくとヒョウマは攻撃を命じた。 しかし兵達は動けなかった。
「チッ、仕方ない」 ヒョウマはそう言うと空中に飛び出した。 そして魔王軍に対して攻撃した。 魔王軍の兵達を凍らせると、念砲で次々と打ち砕いた。 ターニャとサツカも同様に戦場に出てくると、ターニャは無数の光の矢を放ち兵達の体を貫いた。 サツカは上空から赤い火の雨を降らせ、魔王軍の兵達を次々に焼き殺した。 そこでレギオンの兵達は我に帰ったように動き始めた。
シーウエイ達も同様だった。 事前の対策会議で、スウゲンは王達に言った。
「魔王軍が突如現れれば、兵達は驚き、動揺して最初はまともに戦えないでしょう。 ですから、申し訳ありませんが、王自ら戦って破ることが出来ることを示さねばなりません。 もしそれができず躊躇すれば、我々はまともに戦えず大敗を喫することになるでしょう。 そしてそうなれば二度と立て直すことは出来なくなります」
シーウエイ、アドル、バウロは魔王軍の前に立ちはだかった。 アドルは右手を上げると、上空に黒い雲が湧き上がった。 そして手を振り下ろすと、魔王軍の兵達を無数の落雷が襲った。 バウロは風の旋風を起こし広範囲の敵兵を吹き飛ばし、更に動きの止まったところを、剣を一閃し遠間から敵兵を斬り倒した。 シーウエイは自分の上空に無数の鉄のやり投げの槍のような物を作り出した。 それを魔王軍の上空から雨の様に降らし、兵の体を貫いた。