39-12 悲哀の大戦(4)
ラウエルの幕舎
「そうか、失敗したか」 ラウエルは事もなげに言った。
「ラウエル様、嬉しそうですね」 カウレイは肩の傷の包帯を抑えながら、不満げに言った。
「ははは、そう見えるか。 あれで殺られたらつまらんではないか」
「バウファルが裏切らなければ・・・」
「まあ、良い。 今日は余に少し考えがある。 アレン達を呼べ」
ラウエルは集まった5名のサムライに、今日の戦いの策を伝えた。
「承知いたしました」アレン達はそう応えると幕舎を出て行った。
二日目の戦いは、前日とは様相が違った。 ヒョウマ達の陣の1キロほど手前で紫の軍勢は留まり、攻めて来る様子が見られなかった。 バウロ達が陣取る右側の丘でも同様に紫の軍勢は横に広がり、攻めて来る様子が見えなかった。
「おかしいな、何を考えている?」とバウロ。
「何かを待っているのではないでしょうか」とシーウエイ。 とその時、アドルの耳がぴくぴく動いたかと思うと、後ろを向いて言った。
「何だ、あれは。 いつの間に・・・」 アドルにつられてシーウエイ達が振り向くと、本陣の後ろに突然軍勢が現れた。
「あれは紫の軍勢か? 3万ぐらいいるんじゃないか?」とバウロ。
「しまった。 これが奴らの待っていた事でしょう。 前の軍勢は後方へ援軍を送らせないように牽制しているのでしょう」とシーウエイ。
「どうする?」とアドル。
「こちらからはどうすることも出来ませんね。 援軍を送ればそれを見て前の奴らが攻めて来るでしょう。 スウゲン殿達に任せましょう」
緑の本陣
俺の本陣の後ろには、万一の備えとしてアデル族とエルビン族各5千がいたが、その後ろに約3万の紫の軍勢が突然現れたのだった。
「やられましたね。 まさかゲートを使って来るとは・・」とスウゲン。
「だが一度にあんなに大量に移送できるのか?」とユウキ。
「なにせ伝説の12王ですからね。 すぐに金や黒の兵を向わせましょう」とスウゲン。 アビエルとエルクはすぐに迎撃態勢を命じた。 ミーアイもすぐにボーク部隊を出動させた。 だが、スウゲン達の誤算はこれだけでは無かった。 今度は本陣の右前と左前から、時間差でまた3万ずつの軍勢が現れたのだ。 3方から同時に計9万の軍勢に攻め立てられることになったのだった。 こちらは本陣回りには計19万の兵がいた。 単純に数の上ではこちらが倍以上であったが、今回は完全にこちらが機先を制せられた。
エルクは迫り来る紫の軍勢を前に、両手を左右に広げると意識を集中した。 すると周りの空気がざわつき始めると、風が吹き始めた。 それは次第に強くなり、渦をまき始め竜巻へと成長していった。 その竜巻は天に昇る竜のように巨大なものになり、次第に紫の軍勢の方に進んでいった。 その竜巻は軍勢の中をまるで暴君のように兵を巻き上げ、吹き飛ばしながら進んで行った。 取りあえず紫の軍勢の勢いが止まったところで、エルクは剣を抜くと兵達に命じた。
「今こそ我等エルビン族の力を示せ! カケル様に近づけるな!」 エルビン族の兵達は鬨の声を上げると、敵に向って突撃を開始した。
戦いは昨日以上の激闘になった。 アビエルは自分の頭上に紫色の霧のような球を作ると、それを紫の軍勢の上空まで移動させた。 そしてその球が突然破裂すると、紫の破片が敵兵達の頭上に降り注いだ。 すると兵達は急に悲鳴をあげ、狂乱の様子を示し、辺り構わずお互いに攻撃を始めた。
「クソッ、精神操作のレムか」 この部隊の指揮を任されたソアラは、右の掌を空に向けて高く上げると、呪文を唱えた。 ソアラの掌が一瞬光ったように見えた。 するとその掌を中心に空気が震えると、“キーン!”という高い音が戦場に響いた。 兵達は敵も味方も耳を押さえて、戦場は一時、時が止まった。 そしてしばらくして兵達が耳から手を離すと、紫の兵達は我にかえった。
「惑わされるな! 我々の敵はあそこだ」 ソアラは、アビエル達に向って剣を指し示した。 兵達は気を取り直すと、再び進撃を開始した。
「チッ、あの女、余計な事を・・・。 この前のケリを着けてやる」 アビエルは灰色の狼の魔獣にまたがると、虎のような魔獣にまたがった赤い髪の女に向って行った。




