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39-11 悲哀の大戦(3)

 西の空が明るくなりかけた頃、俺の幕舎をアデル族の兵達が武器を手に緊迫した表情で取り囲んでいた。

(あの黒装束達は、見たことがある。 そうだ金の王達と一緒にレーギアを襲った奴らだ) その時、アビエルが走ってやって来た。


 「これはどう言うことだ、親父殿。 こいつらは斬魔衆だろう?」とアビエル。 バウファルはそれには応えず、頭のはげ上がった小男から目を離さなかった。

「バウファル、さっさと緑の王を殺すのだ。 何を迷っている、ここにきて裏切るつもりではないだろうな」

「何だと! 親父殿まさか・・・・」

「騒ぐなアビエル。 儂が裏切るだと。 カウレイ、何を勘違いしている。 儂は最初からラウエルに従うつもりなど無かったぞ。 お前の戯れ言に適当に合わせていただけだ」

「何だと、バウファル。 これがどう言うことか分かっているのだろうな。 この戦争が終わった後、アッセイの人々は皆殺しになるだろう」

「勝つのは、カケル様だ」とバウファル。

「お前は賭ける方を間違えた。 我等だけで緑の王を討て!」カウレイは斬魔衆に命じた。


 斬魔衆と呼ばれた20名ほどの黒装束の男達が、次々と素早い動きでバウファルの兵達の間をすり抜けて行った。 そしてすれ違いざまに兵達を目にも止まらぬ速さで切り伏せていった。


 「カケル様に近づけるな!」バウファルは叫んだ。 アデル族の兵達は斬魔衆達に斬りかかるが、斬魔衆の方が明らかに戦闘力は上だった。 斬魔衆は踊るように回りの兵を斬り伏せると、一気に俺に向ってきた。 二人が左右から同時に俺に斬りかかった時、目の前に二人の影が立ちはだかった。 ハルとホーリーだった。 ハルは敵の剣を受け流すと、そのまま敵の懐に潜り込んで剣を突き刺そうとした。 しかし敵も俊敏で、ギリギリのところでかわすとハルの顔面に毒霧を吹きかけた。 ハルは視界を奪われ、一瞬動きが止まった。 斬魔衆はその機を逃さず剣を振りかぶった。 ハルは目が見えないにも関わらず、慌てずに敵の剣をかわすと同時に、敵を逆袈裟に切り伏せた。 一方、ホーリーは敵の剣を受け流しつつ、左手のナイフで敵の右腕を切り裂いた。 敵は怯まずに更に斬り込んできたが、ホーリーはそれを最小限の動きでかわし、剣を敵の胸に突き立てた。


 アビエルも斬魔衆に斬りかかった。 斬魔衆の戦闘力は目を見張るものではあったが、怒ったアビエルはそれ以上だった。 アビエルは次々に斬魔衆を切り伏せていった。 それでも俺のところまで三人の斬魔衆がたどり着いた。 三人は俺を取り囲むと一斉に攻撃してきた。 俺は右から斬りつける敵の剣を、僅かにかわしながら前に踏み込み、顔面に右の拳を叩き込んだ。 その斬魔衆は顔面を陥没させながら後方に吹き飛び動かなくなった。 すかさず前から斬りつけた敵に対しては、左腕で受け流しながら手首をつかむと、左から斬りかかってきた敵の前に引き出した。 左の敵は振り下ろした剣を止められずに、目の前に現れた味方を斬ってしまった。 俺はその間に素早く最後の敵の背後に回り込むと、襟をつかんで背後から地面に投げつけた。 敵は後頭部から地面に叩きつけられ、首の骨を折った。

「さすがです、カケル様」ハルが言った。


 「クソッ、失敗か。 だがバウファル、お前だけは赦さない」カウレイはそう言うと右手を、バウファルの方へ突き出した。 掌から黒い霧のようなものが出てくると蛇のような動きでバウファルの体に絡みついた。 そして身動きができなくなったところへ、カウレイは無数の赤い炎の矢を空中に表出させると、それを一斉にバウファルに放った。 バウファルはそれを体中に受けて倒れた。

「親父殿!」アビエルが叫んだ。 アビエルがカウレイに斬りかかろうとすると、カウレイの 肩に矢が刺さった。 振り向くとそこにはジュリアンが弓を構えて立っていた。

「クソッ、退却だ!」 カウレイは肩を押さえながらゲートを開いた。 そして生き残った斬魔衆三人とともに、すかさずゲートの向こうに消えていった。


 「親父殿、しっかり・・・」 アビエルがバウファルの手を握った。 俺はレムでの治療を試みた。

「カケル様、無駄でございます。 あの矢は呪いがかけられていて、レムでは治りません」

「そんな・・・」

「バウファル殿、貴方は奴らの企みを潰すために、参戦してくださったのですね」俺がそう言うと、バウファルは笑った。

「奴らは、必ず卑劣な手段を採ってくる。 そう思ったので、奴らにつくフリをしながら警戒していたのです」

「親父殿、すみません。 アタシは半分ぐらい、親父殿を疑っていました」

「バカ者。 アビエル、後はお前に任せる。 お前の信じる・・道を行け・・・」

「親父殿・・・」

「カケル様・・・アビエルを・・・よろしく・・お願いします・・」

「分かりました」 俺がそう言うと、バウファルは安心したように静かに目をつむった。

「親父殿―――っ!」 俺は初めてアビエルの涙を見た。


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