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39-10 悲哀の大戦(2)

 開戦は夜明けと同時だった。 紫の兵達の内、大きな狼のような魔獣にまたがった小柄な種族が、先駆けを務めた。 こちらの機先を制しようとする意図は明らかだった。 紫の軍勢は三角形の中には入らず、左の白、水晶、赤の軍勢9万へ攻撃を集中させた。 寄せ手は火球を放ちながら津波のように一気に押し寄せてきた。


 「来るぞ! 気合いを入れろ!」ヒョウマが兵達に檄を飛ばした。 ヒョウマは敵の前に氷の壁を横に数百メートル作り出した。 更に巨大な氷塊兵を20体ほど作りだし、敵の軍勢に乱入させた。 狼の魔獣に乗った兵士達は、軽々と氷の壁を乗り越えてきた。 巨人族は巨大な槍を銛のように投げると、氷の壁を貫通させた。 他のアデル族達は火球で氷を攻撃した。


 サツカは溶岩の塊を次々に紫の軍勢の中に放った。 紫の兵達は体に火が点き、悲鳴を上げながら転げ回った。 ガーリンは氷の壁を越えてきた魔獣達の足下を凍らせて、足止めすると兵達が一斉に矢を射かけた。 紫の兵達は胸や腕に矢を受けながらも勢いは止まらなかった。 ターニャは兵士に突撃を命ずると、兵達が槍先を並べて突撃し、次々に兵や魔獣を串刺しにしていった。 辺りには怒声や悲鳴、咆哮が響き渡った。


 「あっちに行ったか」とバウロ。

「こっちは完全に無視ですね」とアドル。

「ちょっと振り向かせてやりますか。 戦車があれば良かったのだが」とシーウエイ。 戦車は移送が大変だったので持って来ていなかったのだ。


 バウロ達は、紫の左翼を攻撃した。 藍の兵達がバズーカを次々に撃ち込むと、乱れた敵軍の中に橙のマブル族が斬り込んでいった。 銀の兵達はV字型に隊列を組むと、こちらに向ってきた紫の兵達に、十字砲火をくわえた。


 激闘は夕方まで続いた。 両軍は多大な犠牲を出しながらも一進一退を繰り返し、勝敗は決まらなかった。


 ラウエル王の幕舎

 「やはり、正攻法では勝てぬか」 ラウエルは杯をテーブルに置くと言った。

「はい、寄せ集めながら、二人の軍師が全体をうまくまとめております」とカウレイ。

「次はどうする? 例のヤツを召喚するのか」

「いいえ、奴らのせいでレムの貯蔵柱が8本も破壊されました。 召喚はここぞというタイミングで行なうべきでしょう。 兵達の心が折れ、絶望と恐怖に震えるようにするのです」

「なるほど、面白い。 ところで残った2本でどれだけ召喚できる」

「おそらく、魔王と魔族が2万というところでしょうか」

「分かった。 で、次は?」

「取りあえず、仕込んである別の手を試みてみます」

「斬魔衆を使うのか? 余はその手の策は好まぬ。 美しくないからな」

「ですが、万全を期さなくてはいけません」

「分かった。 それでやられる程度の者ならば、興味はない」 ラウエルはそう言うと杯を一気に飲み干した。


 未明、緑の本陣

 俺は異変を感じて目を覚ました。

「カケル様、敵です」 ハルが幕舎に入ってきた。

「夜襲か?」

「そのようですが、少し変なのです」

「変?」

「バウファル殿のところのアデル族が集まっているのです」

「どう言うことだ」 俺は幕舎を出ようとした。

「お気をつけください!」とハル。 今では俺の警護班は手薄になっていた。 リースとレオンは死亡し、エレインは子どもができたことで警護を外れている。 アドルは橙の王になり、アビエルはアデル族の将として、エルクもエルビン族の将として参戦しているため、俺の回りにはハルとホーリーとジュリアンだけだった。


 俺が外に出ると、そこには怪しい覆面の黒装束の男達がいた。 そしてその回りには、バウファルとアデル族の兵達が集まっていた。 バウファルは黒い装束の小男と向き合っていた。 小男はバウファルに命じた。

「緑の王を殺せ!」


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