39-7 潜入(2)
ヒョウマ達はキレン姉弟の案内で、紫のテリトリー内を奥深く侵入していった。 昼は目立つために、夜間に移動を限定したため、距離はなかなか稼げなかったが、ホーリーの能力によって、敵との不慮の遭遇は避けられたため、トラブルは起こらなかった。 三日目に神殿のある街近くを通ったが、特に異常なレムも結界も見つけられないことから、候補から外した。 そして6日目に旧都に到着した。 途中、進軍する紫のレギオンの軍勢を見かけた。 各地からアデル族の兵達が集結しながら南下しているのだった。
ホーリーは旧都に入ると、異変を感じた。
「感じる、ものすごいレムの圧力を」とホーリー。
「ああ、間違い無いな」ヒョウマも感じていた。
旧都は石造りの家が密集した地域で、今でも人は少ないが住んでいた。 繁栄していると言うよりは、寂れた感は否めなかった。 旧都の北側には岩山を利用した王城跡が遺跡として残っていた。 これは12王以前の王達の居城であった。 王城には今や誰も住んでいないにも関わらず、入り口付近には警備兵がおり、一般人の立ち入りが禁じられていた。
ヒョウマ達は、埃にまみれた空き家で休息をとり、侵入に備えることになった。決行は未明である。 作戦はシンプルだった。 入り口の警備兵を倒し、全員で地下へ向う。 レムを貯蔵する装置は大型になるであろうから、そのような空間を設けるには地下だろういう推論からだった。 警備兵を倒せば侵入はすぐ知れてしまうだろう。 すぐに多くの兵に囲まれることになるのは目に見えていた。 時間との勝負になるが、かといって分散して探していては個別に討ち取られる可能性が高いからだった。 案内人のキレンとアレクはここまでのはずだった。 ところが二人は侵入に参加を申し出たのだった。
「ここまでの案内には感謝している。 だがこれから先は、これまで以上に危険だ。 命を落とす可能性が高いぞ」とレオン。
「それは承知しています。 ですが、今回の作戦はとても重要であり、今回の作戦の成否が戦の勝敗に深く関わっていると聞いています。 祖父からこの戦は我等一族の未来のためにも、必ず勝利しなければいけないと聞いています。 お願いします、参加させてください」とキレン。
「分かった、良いだろう」とヒョウマ。
ヒョウマ達は王城の正面入り口に続く階段の下に潜んでいた。 二人の警備兵の内、一人がその場を離れた隙にホーリーとハルが素早く階段を駆け上った。 ハルは兵士が気付いて警告を発する間もなく、兵士の口を押さえナイフで胸を突き刺した。 ホーリーは絶命した兵士が落とした槍を床に落ちる前につかむと、音が出ないようにした。 一行は兵士の死体を隅の闇に隠すと素早く内部に入った。 内部の岩の通路には、所々に灯りがついていた。 アレクが地下に通じる階段を見つけ、無言で手招きした。 一行は三階層降りた時に、天井の高い広い部屋が現れた。 そこに到達するまでに警備兵と遭遇したのは2回あったが、レオンやキレンとアレクが倒した。
その部屋は一度も見たことが無いような、不思議な部屋だった。 広い部屋の両側に黒い太い柱のような物が5本ずつ並んでいた。 それは六角柱で高さが5メートル以上あった。 表面がツルツルしたガラスのような素材で、黒いにも関わらず不気味な赤い光を放っていた。
「黒曜石だな。 これで間違いないだろう」とヒョウマ。
「多数の兵達が迫ってきます」とホーリー。 部屋の外の階段から足音が聞こえてきた。
「時間が無い、とっとと破壊してしまおう」とヒョウマ。 レオンとハルはリュックを下ろし、爆薬を黒曜石の柱にセットし始めた。




