39-4 大遠征(1)
2月、緑のレーギア
俺は2回目の王会議を招集した。 紫への具体的な侵攻計画を話し合うためだった。 ユウキとスウゲン、更にセシウスも加わり、これまで何度も作戦について検討が行なわれてきた。 スウゲンから作戦の概要が説明された。
「では、2カ月後に金の王都に軍勢を集結させると言うことで、よろしいですね」とスウゲン。
「それはかまわないが、集結したところを例の神威とかいうやつを使われたら、我々は全滅してしまうのではないのか」とザウロー。
「それは無いでしょう。 ラウエル王は攻めて来たところを返り討ちにしたいと考えていると思われます。 ですので、そこを襲うというのは考えられません」とユウキ。
「もし万が一それがあった場合でも、私の方で無効化できる」と俺が補足した。
「なるほど」
「それでは2カ月後、金の王都で会いましょう」俺は言った。
その後、俺とユウキ、スウゲンは個別に各王と兵と物資の輸送について協議を行なった。 特に東部、南部地域のレギオンについては距離の問題を解決する必要があったからだ。
出征の準備に慌ただしく過ごしていたある日、アッセイのアデル族の族長、バウファルがレーギアに現れた。 アビエルと一緒にバウファルが執務室に入ってきた。
「カケル様、出征のご準備でお忙しい中を、お時間をいただきありがとうございます」とバウファル。
「バウファル殿、お久しぶりです。 本日はどうされました」
「じつは、この度カケル様は各レギオンの兵を率いてラーベリアに攻め上るとお聞きしております」
「はい。 その通りです」
「そこでお願いがございます。 我等も今回の遠征にお加えください」
「えっ、よろしいのですか? 森の各種族は、遠征の場合は参加しないという取り決めになっていたはずですが」
「いつも兵を出すことを渋る親父殿が、自ら出兵を申し出るなんて怪しいですね。 もしかして途中で寝返るつもりじゃないでしょうね」とアビエル。
「バ、バカなことを言うな。 我等は12王とは別の、古来からのアデル族の王の血を引く者だ。 今の12王については、正直永年苦々しく思っていた。 そしてこの戦いいかんによっては、アデル族の存亡にも関わっていると考えている。 そんな時に無関係ではいられないのだ。 ならば私自身の手で決着を着けたいと思ったのだ」 バウファルはまじめな顔で言った。
「分かりました。 ご助力感謝します」
「親父殿、信じてよろしいのですね。 もし嘘だったら、アタシが親父殿を斬りますからね」
「おお、結構だ」
「それで、幾ら出すのですか?」とアビエル。
「今回は、精鋭ばかり5千だ」
「それはありがたい。 アデル族の5千は2万近くの戦力に匹敵しますからね」
「それでは早速、準備いたします」 そう言うとバウファルは急いで帰った。
2カ月後、金の王都の郊外に軍勢が次々と集結した。 その数、総勢36万人。 11のレギオンの他に、アデル族5千とアテン島からエルビン族5千が参戦していた。 黒と藍は船で、銀は飛空船で、赤と白は俺がゲートで移送したのだった。 集結した兵達が整然と並び、一斉に俺の前に跪いた。 その光景に俺は、体に震えが走った。 (これだけの軍勢が、俺の命令で死地に向い戦う。 この内どれだけの兵が生還できるのだろう)
「皆の者、遠路ご苦労であった。 今回の遠征はただ単に一レギオンとの戦いということでは無く、今後の大陸全体の平和を築くための最後の戦いである。 戦いは決して安易ではなく、多くの仲間を失うことになるだろう。 だが私は平和のためにはこの道は避けて通れないと考えている。 たとえ多くの死者が出て私が皆の家族から責められても、血の涙を流すことになろうとも、退かぬ覚悟である。 もう一度、皆の力を貸してくれ」 俺が話し終わると、全軍から地鳴りのような歓声が沸き上がった。