4-2 候補者
「次に王選抜に参加する候補者だが、一人目はクドウ・ヒョウマだ。 前へ出てくれ」 先ほどの茶髪の男が代行の前に出て行った。
「うむ、お前がヒョウマだな。 王選抜に参加するかね」
「もちろん、こんな面白そうなものに参加しない理由はない」
「いいだろう。 次の候補者は、カミシロ・ユウキ。 前へ出なさい」 上代は戸惑いながらも、前へ出て行った。
「ユウキだな、お前も王選抜に参加するか」
「その前に、一つ質問がございます」
「何だ、言って見ろ」
「あなたは先ほど、王選抜によって天聖球を得た者を新王の資格者とすると、仰られました。 とすれば、これが最終試験ではないと言うことでしょうか」
「なかなか鋭いな。 天聖球は莫大なレムを供給するものであり、王やレギオンの力の源である。 王はその天聖球のレムを受容できる者でなければならない。 それが前提条件となる。 よって、王選抜によって天聖球を得た者はその条件をクリアしたにすぎない。 その者にはその後、前王からのメッセージが伝えられる、遺言と言っても良い。 そしてそれに対して、前王が満足するような答えを返した者が王になることができる。 どうだ、参加するかね」
「分かりました、参加いたします」
「そうか、では3人目の候補者だ。 ツクモ・カケル前へ出なさい」 俺は一瞬、自分が呼ばれたことに気づかなかった。
「エーッ!」 俺とエレインが同時に声を上げた。 俺はホーリーに背中を押された勢いのまま出て行った。 グレンも俺について出て行こうとしたが、ホーリーに制されて、その場に留まった。 アンドレアスは俺の顔をじっと見つめていたが、やがて言った。
「カケルだな、お前も王選抜に参加するか」
「お断りします」 俺は即答した。 辺りにどよめきが起こった。 アンドレアスも思いもかけぬ返答に驚いた。
「何だと、なぜだ、王になれるかもしれないのだぞ」 アンドレアスが俺を睨んだ。
「なぜとはこちらが伺いたいです。 私が元々こちらに来てしまったのは、手違いです。 私が選ばれる理由が分かりません」
「お前がここに到着するまでの経緯から、お前には強力なレム使う能力があると判断したからだ」
「私にですか? 私には残念ながらそんな力はありません」
「それはおまえが、使い方を知らないだけだ。 それは問題ではない」
「それでもお断りします」
「だからなぜだ」 アンドレアスがいらつきながら言った。
「ちょっと、ヤバイよジュリ姉、あのバカ、アンドレアス様を怒らせてしまう」 エレインがジュリアンに言った。
「理由は三つ。 王選抜をあなたはサラリと説明されましたが、ヤバイ感じしかしませんでした。 それで命を落とすこともあるのではないのですか。 二つ目は王様なんかになりたくは無いからです。 私の望みは元の世界に帰ることです。 三つ目は、万が一王様になった時です。 あなたは戦争が近いことを仰いました。 もし王になったら、ここにいる人達に“死んでこい”と私が命令することになるのではないですか。 私は親しくなった人達が、私の誤った判断や命令で死んで行くのが耐えられません」 俺は目の前の冷徹な目に耐えながら、一気に言った。
(クッ、クッ、クッ、本当に面白い奴だ。 アンドレアスにあれだけはっきり物を言える奴は久しぶりだ) 壇下の端に控えていたセシウスは笑いをこらえるのに必死だった。
「なるほど、お前は物事を悪く考えてしまうようだな。 だが良いことも考えてはどうだ。 王になれば信じられないような力を得ることができるのだぞ。 そしてこのような王宮で贅沢三昧、歴史に名を残すことになるかも知れない」
「それでも、いやです」
(クソッ、物欲で動かない奴は、厄介だな。 こんな手は使いたくなかったが・・・)
「おい、出てきてくれ」 アンドレアスが右の奥に向って声をかけると、10人の若い女性が出てきた。 様々に髪の色も肌の色も違っていたが、どれも顔立ちが整った美人ばかりだった。 服装は他のメイドと同様であったがスタイルも一目で男の目を引くような者たちだった。
「この者たちは、前王の身の回りのお世話係だ。 お前が王になれば、この者たちがお前のお世話をしてくれるのだぞ。 おまえが望めばもちろん“夜”もな」 アンドレアスが意味深に言った。
(アンドレアスが焦っている、まさか断る者がいようなどと思っていなかっただろうからな。 アンドレアスは、自身がこんな手を使うことを嫌っていたはずなのに。 だが、こんなミエミエの手には乗らないだろう) セシウスは益々面白がっていた。
「えっ、この人達が、夜もですか・・」 俺は思わず見とれてしまった。
(乗っているじゃないか)とセシウス。
(・・・・・)ジュリアン。
(猿だ・・・・)ホーリー。
(あのエロザル・・・)エレイン。
(こいつもただの男ということか、もう一押しだな) アンドレアスは手を変えることにした。
「ええい、もうお前は参加決定だ」
「えっ、そんな不公平じゃないですか、俺だけ決定権が無いなんて!」
「不公平? この世に公平や平等など存在しない。 裕福な家に生まれた者、貧乏な家に生まれた者、健康な者、病弱な者、皆様々だ。 だがそれを不公平だと、親のせい、社会のせい、他人のせいにして嘆いてばかりいるやつは、何も得ることなどできはしない。 欲しいものがあるのなら死ぬほど努力して、自分の力でつかみ取れ」 不公平という言葉に興奮したように、一気にまくしたてた。
「とにかく、お前の辞退は認めない。 もしそれでも拒否するならば、お前に待つものは死だ。 レギオンに必要ない。 覚えておけ、お前の生殺与奪権は私にあるのだ」 辺りは静まりかえった。
「それでは明日、この3名で王選抜をおこなう」 といった時、角で成り行きを見ていたロレスが発言した。
「認めんぞアンドレアス、私も王選抜に参加させよ」 そう言いながら玉座の前まで出てきた。
「なぜ私は候補者になれんのだ、私にも人並み以上にレムは使えるぞ。 なおかつ私は前王の子であり、最も王としてふさわしいであろう。 ここにいる皆だって、このような素性も知れん者どもよりも、私の王を望んでいるはずだ。 それなのになぜ私を選ばない、理由を私が言ってやろう。 お前がこのレギオンを乗っ取ろうとしているからだ。 お前は自分の言いなりになる者を据えて傀儡にするつもりなのだ。 だから正統なる私が邪魔なのだろう、もしどうしても私を排除すると言うのならば、この話しがレギオン中に流布され、レギオンの中から反乱する者が出るであろう」
(はぁーっ、どいつもこいつも面倒な奴らだ。 出したい奴は出ないと言い、出したくない奴は出せという)
「いいでしょう、ロレス様の参加を認めましょう。 その代わり、どのような結果になっても知りませんよ」
「おお、もちろんだ、それで結構だ」 満足そうに降りて行った。
「代行」 セシウスが手を挙げて言った。
「候補者のほとんどが剣にしろレムにしろ、十分な修練を積んでおりません。 単独で行かせるにはあまりにも酷すぎると思うのですが。 我がガーディアン達もすんなり通してくれるほど優しくはないはずですがね」
「うむ、そうだな、いいだろう、助っ人を認める。 各候補者の助っ人として参加したい者はいるか」 アンドレアスが一同を見渡したとき、素早く出てくるものがいた。 出てきたのはホーリーとグレンだった。
「私も参加いたします」 ジュリアンは上代の隣に立った。 軍人達の中から3人が出てきて、ロレスの後ろに立った。
「おい、お前は参加しないのかい」 リースがレオンに言った。
「気にいらんな」 ぼそりとレオンが言った。
「そうだよな、あの兄ちゃんどうも好きになれないもんな」
「冷たいやつらだな」 そう言うとセシウスが兵摩の脇に立った。 周りに驚きのざわめきが起こった。
「セシウス様が参加されるならハンデがありすぎるでしょう、私も参加してもかまいませんよね、アンドレアス様」 エレインも俺のところへ来た。
「ああ、これで全員か。 それではこれで決定だ」
「今夜は、お前達の歓迎もかねて晩餐を用意したので、明日のためにも英気を養ってくれ。 オークリー様の喪中なので、はでな事はできぬがな」 そう言うと、椅子から立ち上がり広間を出て行った。




