39-1 紫の王の報復
ラーベリア、紫のレーギア
グレイガとソアラは、玉座に座るラウエル王の前に跪いていた。 肘掛けに右肘をあてて頬杖をついた、赤く光る不思議な黒髪の男は40代にしか見えなかった。 肌は透き通るように白く光によっては青く見えるかも知れない。 しかし病弱には見えず、逆に何者も近づきがたい、覇気というかオーラを全身から感じさせていた。 鼻は高く掘りの深い顔、金色の目は眼光鋭く、強い意志を感じさせた。
グレイガは、たとえ赦されても王の顔をまともに見ることはできないだろうと思った。 ソアラの様子を盗み見ると、彼女は細かく震えていた。
「申し訳ございません。 ゲブラは討たれ、ゴルドンを維持することはできなくなりました」 グレイガが報告した。 グレイガが報告する間、ラウエル王は黙って聞いていた。 グレイガの報告が終わると、ラウエル王は静かに言った。
「そうか、ご苦労であった」 それだけだった。 グレイガもソアラも叱責されるものと思っていたので、何か拍子抜けした。 二人が下がろうとした時、王が呼び止めた。
「グレイガ、緑の王には会ったことがあるのか?」とラウエル王。
「はい、ございます」 グレイガは再び跪くと答えた。
「どのような男だ」
「まだ若く、一見するとひ弱な感じさえするくらいですが、意志は強く一旦怒らせると手が付けられないほどの戦闘力を示します。 ゲブラも一度完膚なきまでに叩きのめされています」
「そうか、それほど強いか」 ラウエル王はそう言うと、その顔には笑みが浮かんでいた。 二人はそれからその場から下がった。
「カウレイ、やはり当初の計画でいくしかないようだな。 他のレギオンを征服、拡大していく路線は頓挫してしまった」 ラウエルはカウレイと二人になるとそう言った。
「そのようですな。 申し訳ございません、私の見通しが甘かったようです」
「良い、これで最高の舞台が演出できる。 そして余の相手は、緑の王ということになるのだな」
「はい。 これで緑の王は大陸中の兵を集め、大挙して攻めて来るでしょう。 完全に勝ったつもりでです」とカウレイ。
「そして、それを完璧に叩き潰す。 他の12王達の前で。 そして力の差を見せつけられて、絶望を感じながら死んで行くのだ」
「その通りです。 そして付き従った12王たちは抵抗する気力も失せてしまうでしょう」
「実に楽しみだ」
「はい」
「よし、ではダメ押しをしておこう。 すっかりなめられて、僅かな軍勢で攻めるようなことになってはつまらない。 大陸中の兵を動員するぐらいの気持ちで来てもらわないとな」
「具体的には、どのようにされますか?」
「あれを使う」 そう言うと、ラウエル王はイタズラを考えついた子どものような目で笑った。
アストリア連合軍と金の戦争から三日後、金のレーギア
アンドレアスは金のレギオンの王(兼ガーラント王国の王、兼アストリア王国の王)に即位したことを宣言した。 それによって、タイロン、ボスリア、ギスガル、アストリア、メルーニアは金の王に従属することを誓った。 ガルバー王は、直接緑のレギオンに従属したいと申し出たが、6国が協調した行動をとれるようにするため、俺は断った。
その翌日、異変が起こった。 ギスガル王国の王都の郊外に、赤い光の球が落ちて、直径1キロほどの大きな穴ができた。 周辺は高音と爆風で家や木々が吹き飛び、火災がおきた。 王都の城壁も一部が崩れ、王都内にも被害が及んだ。 更にその翌日には、メルーニア王国の王都でも同様のことが起きた。 更にその翌日、銀の王都にも、赤い光の球が落ちたのだった。 そこは住宅地では無かったが、多くの工場が吹き飛び、爆発や火災を誘発した。 3件とも被害は甚大だった。




