38-13 金への侵攻(3)
ゲブラは前線に出ると、右手を上げた。 その手を左から右へ払うように動かすと、アストリアの兵達がまるで後ろに吸い込まれるように飛ばされていった。 次にゲブラが上に上げた右手を下に下げると、アストリアの兵達が見えない巨大な鉄球で潰されたかのように、次々と圧死していった。 その間に攻め込まれていたアデル族の兵達は体勢を立て直そうとした。 4本の手を持つ多手族は4つの手から火球を連射し始め、体の表面が石のように堅い石化族は、高速の石つぶてを飛ばして攻撃してきた。 他の兵達も、怒りの咆哮を上げると反撃を開始した。
後方で金の反撃の様子を見ていたアンドレアスはつぶやいた。
「まずいな、流れを変えられてしまったようだ。 奴らを調子付かせると、手が付けられなくなるぞ」
「グラント、後を頼む。 私が出る」 アンドレアスはそう言うと、騎竜を進めた。
俺は戦場が混戦状態になってきたので、全体が見えるように上空に飛び出した。 戦況はアストリアと金がぶつかっているところが、徐々に金が盛り返しているのが分かった。 するとアストリア側から赤い甲冑の将が前線に向って行くのが見えた。
(あれは、アンドレアスか? その先にいるのはゲブラじゃないか。 一騎打ちをやるつもりか?) 俺はそちらに近づいて行った。
ゲブラは敵の中から、赤い甲冑の女に気付いた。
(あれは、アストリアの新王か? 運はまだこちらにある。 アイツを仕留めればこちらの勝ちだ) ゲブラはアンドリアスの方へ向った。
お互いに同時に、倒すべき相手を理解した。 言葉はいらなかった。 アンドレアスは“雷光”を抜いた。 二人は20メートルほどの距離で対峙した。 両軍勢は戦いの手を止めると、遠巻きにして戦いを見守った。
ゲブラは右手を上げると、その手を静かに下げた。 するとアンドレアスは周囲に違和を感じて、素早く騎竜から飛退いた。 振り返って騎竜を見ると、騎竜は地面に横たわって、見えない力に押しつぶされそうになっており、大きな悲鳴を上げると血を吐いて絶命した。
「なるほど、珍しいレムを使うのだな」とアンドレアス。
「いつまで逃げられるかな」 ゲブラはそう言うと、左手を挙げてその手をアンドレアスに向けて静かに下ろした。 アンドレアスは素早くその場を避けようとしたが、上から見えない手で押さえつけられるような感じがして、その場を動く事ができなかった。 そしてその力は次第に大きくなってきて、アンドレアスは立っていることができず、地面に膝をついた。
「クッ、クッ、クッ、お前はこれで終わりだ。 もう逃げることはできないぞ」 ゲブラは勝利を確信したように言った。
「それはどうかな」俺は二人の上空から言った。
「緑の王、また邪魔をするつもりか」ゲブラは驚いて見上げた。
「カケル様、これは私の獲物です。 手出し無用です」 アンドレアスは苦しそうに言った。
「しかし・・・。 分かった」 俺はアンドレアスの目を見ると、光を失っていないことから、まだ勝算があるのだろうと思い、彼女を信じることにした。
アンドレアスは必死に力に抗いながら、何かをつぶやいた。 すると突然、上からのしかかるような力が消えたのだった。 アンドレアスは静かに立ち上がった。
「何だと、お前も私のレムを相殺できるのか?」
「相殺するのではない。 私のは受けたレムを同じ力ではじき返すことができるのだ」
「クソッ!」 ゲブラは右手をアンドレアスに向けると、掌から赤い稲妻をまとった光を放った。 しかしアンドレアスも左手を突き出すと呪文を唱えた。 赤い光がアンドレアスに向うと、その光はアンドレアスの手ではじき返された。 そして光が消え失せたその瞬間、アンドレアスの姿は消え失せた。 次の瞬間、アンドレアスはゲブラの頭上で剣を振りかざしていた。 ゲブラは為す術もなく、左手で庇おうと手を挙げるくらいしか出来る事はなかった。 アンドレアスは剣で、ゲブラの腕ごと袈裟斬りにした。 ゲブラはレムで体を強化していたが、アンドレアスの雷光は、まるで粘土細工を斬るかのように、体を真っ二つにした。 ゲブラの体は騎竜から崩れ落ちた。




