38-9 アルマの戦い(2)
アストリア王国軍とタイロン解放軍は、東西二つの門前に兵を展開した。 しかし攻撃は開始しなかった。 更にアドルとフーリエ、カムラと100名の橙の兵達が到着した。
「お久しぶりです。 アンドレアス殿、いやアンドレアス王」 アドルは笑いながら近づいた。
「元気そうだな、アドル王。 お前も押しつけられた口か?」
「そうです。 王など無理だと固辞したのですが・・・」
「まあ、カケル様自身が王を押しつけられたと思っているから、そのようなことは聞く耳持たぬだろうな」
各軍勢はそれぞれ旗を揚げた。 アストリアの旗は前の王国の旗ではなく、青地に白の獅子が赤いバラをくわえていた。 これはケビンか考案したもので、前王国の継承ではないことをハッキリ明示する目的もあった。 橙のオレンジ色の旗と、タイロン王国の旗が並んで揚げられているのを見て、城壁の上の兵士達に動揺が走った。 更にユウキは、レーギアからエルクと3名の供の人達を呼んでいた。 エルク達4人は包みを持って飛び立つと王都の上空で、ビラをばらまき始めたのだった。 ビラにはこう書かれてあった“我らはアルマの人々を害する者にあらず。 橙のレギオンは王が代替わりし、カケル王に仕えることとなった。 もうタイロンの人々を苦しめる者はいない。 それでもアルマの人々を虐げ、戦う事を強要する者があれば、それは橙の者でもなくただの反逆者である。 我々は三日後の早朝より、反逆者を討つ。 いまだレギオンの者としての誇りを失わぬ者は、それまでに城外へ出られたし。 タイロンの人々は傷つけぬが、不測の事態を避けるために堅く家にこもられたし”。
このビラが王都内を更に混乱させた。 マブル族の兵達は、自分達が反逆者だと聞かされて驚き、お互いに顔色をうかがいながら、城外へ出ようとしている者達が出始めた。 タイロンの兵達は、マブル族の兵達を敵視するような目で見ていた。 これによって王都内は不穏な雰囲気が漂っていた。 そしてそれは二日目の夜に起きた。
二日目の深夜に、東の門が密かに開き多くのマブル族の兵が逃げ出したのである。 その少し後に、西門でも同様のことが起こった。 夜が明けた時に残ったマブル族の兵は、クロンとアロンザの直属の兵達で5百にも満たなかった。 更に夜明けとともに、タイロン兵達は両方の門を開放したのだった。
「勝負は着いたな」アンドレアスはアドルに言った。
「そうですね。 それでは後片付けに行ってきます」 そう言うと、アドルはフーリエ達1千ほど率いて王都内に入った。 それにグレオ達が続いた。 アンドレアス達は王都外に待機した。
王宮の前まで来ると、マブル族の兵達が王宮の門を守っていた。 アドルは気にする様子もみせず一人歩みを進めた。
「アドル様、危険です。 我々が排除いたします」 フーリエとカムラが前に出た。
「かまわない、私自身が越えなければならない問題だ」そう言うとかまわず兵士達の方へ歩き続けた。
突然、二人の猿の獣人が、アドドルに同時に斬りかかってきた。 アドルは剣を抜くこともせずに、剣先をギリギリでかわしながらも前に出た。 そして右手に長く伸びた爪で右の兵を切り裂き、左の兵士の顔面に左の拳を叩き込んだ。 それを見て、後ろに続く兵士達の動きが止まった。
「愚か者、お前達にも家族がいるのだろう? このまま反逆者としてここで死ぬつもりか!」 アドルがそう一喝すると、兵士達は雷撃を受けたかのように固まり、次々と剣を落とした。 そのまま兵達は、アドルに対して一斉に跪いた。 後ろで見ていたフーリエとカムラは、自分達との格の違いを実感した。
アドル達が玉座の間に入ると、そこにクロンとアロンザがいた。
「兵達はどうした? 全員寝返ったのか」とアロンザ。
「寝返ったのではない。 帰るべき所へ帰ったのだ」とフーリエ。
「お前がアドルか?」とクロン。
「後はお前達だけだ。 最後の機会だ、今降るのであれば、赦そう」 アドルは言った。 クロンとアロンザは顔を見合わせた。
「その手には乗らない。 我らの王はムギン様だけだ」とアロンザ。
「アロンザ、同時にかかるぞ。 こいつは12王と言えど、まだなり立てだ。 こいつを倒せばまた逆転できる」
クロンは火球を、アロンザは氷の槍でアドルに同時に攻撃した。 アドルは同時にそれを左手で打ち払った。 その時には剣を抜いた二人が同時に斬りかかっていた。
「もらった!」クロンが叫んだ。 その時、二つの黒い影が間に割り込んだかと思うと、フーリエがクロンの胸に剣を突き立てていた。 それとほぼ同時にカムラが、アロンザの首をうちおとした。
「要らぬことをいたしました」とフーリエ。
「いや、良い。 フーリエ、事態を収拾してくれ。 全軍、退くのだ」
「かしこまりました」
こうして、アルマは3年ぶりに解放された。