38-8 アルマの戦い(1)
タイロンの王都、アルマの王宮
クロンとアロンザの前に、フーリエが現れた。
「何しに来た、裏切り者が!」 アロンザがフーリエを罵った。
「新王の命令は伝わっているはずだ。 撤退してオレジオンに帰還するようにと」
「新王とは誰のことだ。 我々の王はムギン王ただ一人だ」とクロン。
「ムギン王は亡くなられた。 アドル王に敗れて、正々堂々の勝負でだ。 ムギン王はご自身でアドル様を次の王にご指名されたのだ。 それを否定することは、ムギン王を侮辱することになるぞ」
「それで、お前はアッサリとそのアドルとかいう男に尻尾を振ったのか? 情けない」とアロンザ。
「ならばお前達はどうするというのだ? アドル王は正式にレギオンの王となられたのだ。 その命に背くと言うことは反逆者になるのだぞ」
「我らはムギン王にしか従わない」とクロン。
「そうか、ならばもうお前達はレギオンではない。 だが兵達はレギオンの兵だ。 帰してもらおう」
「あの兵はムギン様から預かった兵だ。 アドルとかいう男の兵ではない」
「バカなことを・・・・。 お前達は勝ち目のない戦いをして無駄に兵達を死なせるつもりか」
「ムギン様の命令は緑のレギオンと反乱軍を打倒することだ」とアロンザ。
「話にならん! 状況の変化も分からぬ愚か者どもが」 フーリエは説得を諦め立ち上がった。
「次に会うと時は、敵どうしだ」フーリエはそう言い捨てて出ていった。
「クロン殿、ああ言ったものの、今後どうされるおつもりですか」とアロンザ。
「当面、堅く守る。 そして状況を見ながら、新王が懇願してくるならこちらの条件を飲ませる」
「新王が攻めてきたら、どうされるのですか?」
「こちらの方が兵力は上だ。 こちらの強さを見せつけた上で和議を結ぶ。 もし和議に応じなかったら、しゃくに障るが金と手を組む」
「アストリアに新王が即位したということです。 アストリアが攻めて来ることも考えなければならないと思います」
「アストリアは今、自分達のことで手一杯だろう。 緑の軍勢も帰還しているし、北の金からの攻撃も警戒しなければいけないので、兵は動かせないはずだ」
「なるほど、ではそのように」
10日後、アンドレアス王と新生アストリア王国軍8万は西の隣国タイロンに侵攻した。 アンドレアスは全軍とも言える兵を動員した。 理由は水晶の軍勢がボスリアの国境を侵し、金の軍勢の関心をそちらに引きつけていてくれた事と、王都に中途半端な軍勢を残しておくと、新王に不満を持つ者達が良からぬことを企てる可能性があったからだった。 アストリア王国軍が国境を越えると、グレオたちタイロン解放軍2万が合流し、王都アルマを目指した。 それに対してクロン達はアルマに籠城することに決めた。 アンドレアス達は、王都までの8日間の行程だったが整然と行軍した。 それを見た人々が武器をとり、行軍に加わった。 アルマに到着する頃には、アンドレアス達の総勢は13万人まで膨れあがっていた。
アルマの王宮
「クロン殿、これはまずいですぞ」とアロンザ。
「うーん、こんなはずでは・・・」
「これは討って出た方がよろしいのではないでしょうか。 奴らは烏合の衆です。 一部を圧倒的な力を見せつけて打ち破れば、総崩れになって逃げ出すはずです。 逆に籠城しても援軍は見込めませんし、長引けば元々のタイロン王国軍の兵達は離反者が出てくる恐れがあります」
「とにかく堅く守れ」 クロンはアロンザの進言に耳を貸さなかった。 クロンは野戦に出て、戦況が思わしくなかった場合、王都の人々が反旗を翻して城門を閉ざして、クロン達を閉め出すことを恐れたのだった。