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4-1 王選抜

 連れて行かれた部屋は北向きだが窓もある、質素な部屋だった。 6畳ほどの部屋に2段のベッド、その反対の壁際には半円のテーブルが置いてあった。 おそらく使用人の部屋であろう。 隣の部屋は風呂になっていて、既に木製の湯船にはお湯が張ってあった。 早速、俺は裸になると湯船に浸かった。 お湯は少しぬるめだったが、久しぶりの風呂はとても気持ち良かった。 グレンがこちらに来たかと思うと一緒に無理やり入ろうとした。

「オイオイ、きついよ、まっ、待ってくれ、痛いよ背中のトゲトゲが腹に突き刺さるってば」 そんなこともお構いなく、グレンはお湯に浸かってしまうと、湯船の縁に載せた俺の腕を枕代わりにあごをのせて、気持ち良さそうに目をつぶった。


 風呂から上がると、ベッドの上にタオルと着替えの服が置いてあった。 新しい服ではなかったが、洗濯された着心地の良い服だった。 白いシャツと紺のズボンは少し大きめだったので、袖と裾をまくって調節した。 やることも無いので、ベッドに横になると、グレンが寄り添うように隣に体を伸ばした。

(これからどうなるのだろう) そんなことを考えている内に、いつの間にか眠りに落ちてしまった。 目が覚めた時には夕暮れ時だった。 ジュリアンに体を揺すられて起こされたのだった。


 ジュリアンに連れて行かれたところは広く、豪華は広間だった。 太い石の柱、高い天井に豪華なシャンデリア、大理石の床の中央には赤い絨毯が敷かれていた。 壁には蔦が絡まるような装飾の彫刻が施され、天井には天使と悪魔が戦っている巨大な絵が描かれていた。 まさに宮殿の広間というのはこういうものなんだろういう感じだった。 ただそんな場所には似つかわしくない男達が集まっていた。 軍人と思われる約50人の男達が、正面の数段高い舞台のようなところに向って左側に固まっていて、右側には30人ほどの男達、着ている服はバラバラであるが、おそらく事務や庶務的な仕事をする役人なのだろうと思った。


 俺たちが中に入ると、どよめきが起こった、グレンを見て驚いたのだった。 俺はグレンを部屋においてこようと思ったのだが、グレンは言うことを聞かず、ジュリアンがかまわないと言ったので連れてきたのだった。 ジュリアンが壁際にいた上代とエレインを見つけ、合流した。 ジュリアンもエレインも着替えていて、明るい黄色のシャツとモスグリーンのズボンが軽快な印象を与えた。 上代は上質な生地の服に着替えていた。

 「なんか待遇が全然違うな」 俺は自分の服と上代の服を見比べながら言った。

「それはしようがないさ、でも喜べ、あたしがアンドレアス様にここに置いてくれるように頼んでおいたから」 エレインが俺の肩をたたきながら言った。

「何が始まるのですか」 上代がジュリアンにたずねた。

「ユウキがこちらに連れてこられた目的が、これから発表される。 ここにおられる方々はレギオンの指揮官や内務の職長達だ」 そうジュリアンが答えたとき、広間の中でまたざわめきが起こった。 見ると正面の金色に輝く立派ないすに、金髪の男が座ったのだ。

「あれが王様かい」 俺はジュリアンに聞いた。

「いや、あれはロレス様、王の息子」 ホーリーがいつの間にか後ろに立っていた、クロームと一緒に。 広間のざわめきは収まらなかった。


 アンドレアスがグレアムとセシウスとともに玉座の間に入って来た時、目に映った光景に不快感を覚えた。 ロレスが玉座に足を組んで座り、肘掛けに左腕をかけ頬杖をついていた。

「やあ、アンドレアス、早く私を新王として皆に告知してくれ」

「ロレス様、お戯れはおやめください」 アンドレアスはこみ上げてくる怒りを抑えながら静かに言った。

「戯れだと、私は本気で言っているのだ。 新王にふさわしいのは私以外にはおらぬではないか」

「玉座をお降りください。 そこは王以外の者が座って良い場所ではありません。 あなたはご自身で、オークリー様のご威光をおとしめておられることに気づかれませんか」 押さえた怒りが爆発して、ロレスを殴り倒すのではないかと、セシウスはハラハラしながら見ていた。

「わ、私は認めんぞ、私を入れない王の選考など」 そう言いながらも、アンドレアスに殺されかねない剣幕にたじろぎ、玉座を渋々降りた。


 「グレアム殿、始めましょう」 アンドレアスがグレアムに言うと、老人はうなずき、正面の玉座の下に立つと、ゆっくりと皆に話し始めた。

「皆の者、一部の者はすでに気づいているかも知れぬが、昨日の早朝オークリー様がみまかられた。 オークリー様はご自身の死期が近いことを悟られ、遺言を残された。 その内容をこれから皆に告げる」 また広間中にどよめきが起こった。 グレアムは懐から丸めた紙を取り出すと、広げて読み始めた。


 「親愛なる我がレギオンの勇者達よ、残念ながら別れの時が来たようだ。 我が亡き後については、次のように定める。 一つ、次の王が定まるまでの間、総司令官であるアンドレアス・グレーガーを代行と定め、全権を委ねる。 二つ、新王が立つまで、外部へは我が死を秘匿せよ。 三つ、新王の選定については、我が依頼によって森の賢者ことクローム殿、シローネ殿が導きたる者、および王代行が資格有りと認めた者によって、王選抜をおこなう。 王選抜の内容については、代行が説明をおこなう。 四つ、王選考については、可能な限りオープンなものとすること。 そして決定した新王を皆で支え、これから迫る嵐に備えて欲しい。 五つ、我が愚息達の処遇については、新王に全て委ねる。 最後に、私を支えてくれた全ての者たちに、心より感謝を申し述べる。 オークリー・ラーベンス」 グレアムは遺言状を丸めると、懐にしまった。 広間は静まりかえった。 壇上の玉座の脇に質素な木製の椅子が置かれた。 アンドレアスは壇上に登ると、その質素な椅子に座った。 静かに目の前に立ち並ぶ人々を見渡した、そして静かに語り始めた。


 「残念なことであるが、我々は悲しみに沈んでいる暇は無い。 様々な情報が、戦が差し迫っていることを示している。 早急に新王を立て、新体制を確立せねばならない。 早速だが、王選抜について説明を行なう。 日時は明日の正午、場所は旧レーギアだ。 方法は単純だ、最上階の入り口から入り、ガーディアンの攻撃をくぐり抜け、天聖球の間に入り最初に天聖球を手にすることが出来たものが、新王の資格を得る。 防御エリアは通常の三分の一を使用するので、迷い込んで出られなくなると言うことはないだろう」


 「おい、何かすごいことになってきたな、お前が王様になるかも知れないってことだろう」 俺は上代の腕をつついて、小声で言った。

「ああ、俺も驚いている」 上代が緊張気味に言った。

「面白いことになってきたな」 近くに白ニャンと一緒に立っていた、茶髪の男が言った。


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