38-6 アストリア王都解放
アンドレアス達は無理に攻めなかった。 守りに重点を置いたのだった。 それはセシウスも同じで、連携を取りながら戦った。 その結果、その日は橙の軍勢は攻めあぐね、夕方には10キロほど下がった。
橙の幕舎
「奴らめ、のらりくらりと戦いおって。 本当なら一日で決着を着けるつもりであったのに」 クロンはテーブルの杯をとると一気に飲み干した。
「何かを待っているように感じられましたが。 水晶の援軍でも待っているのでしょうか」とアロンザ。 その時兵士が入って来て報告した。
「何だと! 嘘だ、そんなことはあり得ん」とクロン。
「バカな、ムギン王が亡くなられて橙の王都が落ちたなんて・・・」
「しかも王を殺めた緑のサムライが、新王だと!」
「どうしますか?」とアロンザ。 クロンは少し考えていたが、意を決して言った。
「明日、早朝に退くぞ。 この情報はすぐに軍中に広がるだろう。 真偽は別にしても兵に広がれば動揺が起こり、十分に戦う事が出来ない」
「ではブレアで仕切り直しですか」
「いや、タイロンの王都、アルマだ。 ブレアではすぐに奴らは追撃をしてくるだろう。 そしてこの情報がアストリアの連中に広がれば、奴ら寝返るかも知れない。 アルマには我らの兵が5千ほど残っている。 彼らと合流した上で今後のことを考える」
「分かりました」
翌日、レッドローズの本陣
斥候が戻って来て報告した。
「橙の軍勢が早朝に撤退を開始しました」
「何だって! 何があったのだ?」とグラント。
「理由は不明です。 しかも向っているのが北西では無く、西に向っております」
「そうか、成功したのだな」とアンドレアスは笑った。
「何が起きているのか知っているのか?」とケビン。
「知っているわけでは無いが、推測はつく」
「どう言うことだ」
「こちらに橙の援軍を送らせて関心をこちらに向かせている間に、橙の王都を急襲する。 そんなところだろう」
「だから、奴ら慌てて退いたのか。 ならばこれから奴らはどうするのだ?」とゴーセル。
「考えられるのは二つだ。 本国の橙は降った見るべきだ。 そうなれば本国の命令に従ってカケル様に投降するか、あくまで戦うかだ。 西に向ったと言うことは、ブレアを捨てて、アルマで籠城するつもりだろう」
「だから守りに徹せよという作戦だったのか。 団長はこの作戦を聞いていなかったのですか」とゴーセル。
「ああ、この兵達の中には複数の間者が紛れ込んでいると思われるからな」 アンドレアスは事もなげに言った。
「じゃあ、我々はカケル王の掌の上で踊らされていたのですね」とケビン。
「そうだな、正確にはユウキの掌だがな」
「では、これから我々はどうするのですか」とゴーセル。
「どうもしない。 我らはブレアに向う。 今日こそ王都を取り戻すぞ、準備しろ」
「はい!」
レッドローズとレギオンの軍勢は、橙の軍勢を追わずに真っ直ぐ王都へ向った。 昼前にブレアの城門前に到着すると、異変が起こった。 城門が突然開かれたのだった。 中から三人の騎兵が現れ、こちらに向ってきた。
「レッドローズの団長、アンドレアス殿、我らアストリア軍王都守備隊は、レッドローズに降伏いたします」
「何だって!」とケビン。
「そうきたか。 だが余計な血を流さずに済むならば、それにこしたことはない」とアンドレアスは驚きもせずに言った。
「分かった、受けよう」 そう返事をした。 アンドレアスはセシウスに伝令を送ると、意外な返答が帰って来た。
「セシウス殿の申されるには、レギオンの兵は王都には入らないとのことです」
「何、何故だ。 今回の功労はレギオンによるものが大きい。 国民はカケル様に感謝するだろうに」とアンドレアス。
「ここはあなたを立てたと言うことでしょう」とケビン。 アンドレアスは納得がいかなかったが、渋々了承した。 中の状況を把握するため、ユウキがレギオンの代表として同行することになった。
アンドレアス達が王都内に入ると、人々は歓声を持って迎えた。 王都に残っていたマブル族は早々に逃げ出していた。 アンドレアス達は街中を整然と行進し、王宮に入った。
 




