38-3 王都急襲(1)
俺は橙の王都の郊外の森にいた。 俺の側にいたのはアドルとグルサンのマブル族3千人だった。 彼らは戦いの装束ではなく、普段着で農民のように見えた。 俺は二週間ほど前に、密かに夜間飛竜でここを訪れていた。 ゲートで一気に3千人の兵を移動させるためだった。 本来、グルサンのマブル族は、族長ゾーリンとの約束で遠征には参加しないことになっていた。 しかしアドルは今回の作戦を聞いたときに、グルサンも参加させて欲しいと申し出たのであった。 その理由を問うとアドルは言った。
「今の王は他の種族の者を奴隷にし、苛酷な労働をさせるなど、同じマブル族でも許容できないと考えています。 ですが、今回の遠征によって多くの罪のない同胞の血が流れるのも、心苦しいものがあります。 今回の遠征が避けられないものならば、積極的に関与してなるべく流れる血を少なくしたいと考えます」 その考えはゾーリンの同意も得られ、今回の参加になったのだった。
王都の方から、緊急事態を知らせる早鐘は何度も鳴り響いた。
「行くぞ!」俺は皆に言った。 アドル達は黙って頷くと、行動を開始した。 王都の西3キロの港には3百隻以上の藍と黒の船がひしめき、バウロが率いる5千と黒のサムライ、ギーエンが率いる1万、それとエルクが率いるエルビン族3千が上陸し、王都を目指して進軍を開始していた。 侵攻軍の総指揮を執っていたのはバウロだった。 そしてスウゲンが参謀として参加していた。
俺達は分散すると、王都の郊外から王都の城内に逃げ込む付近の農民達に紛れ込んだ。 そして一緒に城内に逃げ込んだのだった。 俺達は怪しまれないようにレーギアの方に近づいて行った。 城内の兵士達はあわてて城門の方へ走っていった。
「城門を堅く閉ざして守るのだ。 カムラは東門を頼む」 フーリエは兵達に命じた。 今王都に残っている兵は1万2千ほどだった。
(敵は2万に満たない。 大丈夫だ、守り切れる。 ムギン様が戻られれば兵の士気も上がる) フーリエは自信を持っていた。 兵達を城壁に上らせ、迎撃準備を取らせた。
俺達は密かに少しずつ集まりだした。 俺達は服装のどこかに緑色を取り入れていた。 シャツ、タオル、帽子、ズボンなどである。 アドルの部下の中に相手の考えを読み取ることができるレム使いがいた。 彼らは兵士の一人を路地裏で捕らえ、レギオンの武器庫の位置を知ることができたのだった。 その者が先導し俺達は武器庫にまず向った。
「お前達、どこへ行く!」 城門へ向う兵士の一団に俺達は呼び止められた。 アドルは、わざと憤慨した様子で言った。
「敵が攻めてきたってのに、俺らだけここにじっとしていられねえだよ。 俺達も戦うだ。 俺達も武器が欲しいだ」
「そうか、良く言った。 武器庫はあそこだ、武器を持ったら城壁に上がってこい」 隊長と見られる狐の半獣人が笑いながら言った。
俺達は武器を手に入れると、そのままレーギアに向った。 武器庫からレーギアまでは数百メートルの距離だった。 多くの兵が城門に向っていたので、付近に兵士は見当たらなかった。 しかしレーギアには守備兵がいるはずなので、呼び止められるリスクを考え俺達は走った。 そしてレーギアの門前まで来ると、二人の牛と馬の巨体の衛兵に止められた。 おれはそのまま衛兵の言葉を無視し、先頭を駆けて衛兵に近づいた。 俺は向けられた槍をかわすと、右の牛にはみぞおちに突きをみまい、そのまま回転すると左の馬の兵には後ろ回し蹴りを、その長いあごにぶち込んだ。 それはほんの一瞬の出来事で、二人の兵士はその場に崩れ落ちた。
「行くぞ! 一気に制圧するんだ」 俺はそう言うと門に飛び込んだ。
「おう!」兵達が俺に続いた。