37-6 アンドレアスの悩み(1)
ソドン近くの平原
アンドレアスは、グラント達が新兵の訓練をする様子を眺めていた。 アンドレアスは悩んでいた。 ソドンの攻防の後、レッドローズが橙の軍勢を撃退した事が国中に知れ渡り、志願兵が殺到したのだった。 今や軍勢は3万を超え、更に増え続けている。 だがそれが問題なのだ。
(ケビンの奴め、何が来る者は拒まずだ。 頭数だけ増えれば良いというものではないぞ) アンドレアスが頭を痛めていたのは兵の技倆であった。 勿論歴戦の強者も多くいたがそれは全体の10パーセント程度だった。 槍も持ったことがない農民達も多数おり、兵士としての差がありすぎるのだった。
(マブル族は身体能力が高い。 強力な戦闘力で前線が崩されれば、今のままでは持ちこたえられずに総崩れを起こしてしまう。 そうなれば何万いようが関係無い。 グラント達が訓練を行なっているが、正式な軍隊の訓練と違い効率が悪い。 軍隊経験者もいるが経験しているのと教えるのでは全然違う。 兵は集まったが早急に全体の底上げができなければ、本格的な戦いはできない)
「団長、要塞に客人です」 ゴーセルが伝えにきた。
「客人? 誰だ」
「以前来た緑の軍師と将軍二人、それに緑の兵1千です」
「何だと、すぐに戻る」 アンドレアスは騎竜を駆けてソドンに戻った。
ソドンの要塞
「トウリン、それにゲランではないか、元気だったか」
「アンドレアス様もお元気そうですね」とゲランは日に焼けた笑顔を見せた。
「将軍が来たと言うから、セシウスが来たのかと思ったぞ。 トウリンもサムライになったと聞いた、おめでとう」
「ありがとうございます。 もちろんあのオッサンは自分の立場もわきまえず、自分が行くとごねましたよ」とトウリンが言った。 それを聞いてアンドレアスは声を上げて笑った。
「それで、今回は何を企んでいるんだ?」 アンドレアスは真顔に戻ると、ユウキを鋭く睨んだ。 ユウキは部屋にいたケビンとゴーセルを一瞬見た。
「かまわない、続けてくれ」とアンドレアス。
「分かりました。 我々は本格的に紫の勢力と戦いを開始することになりました。 まずはこちらに侵攻し金の周辺諸国を開放するつもりです。 そしてその時期は、あなた方が王都を奪還するときです」とユウキ。 アンドレアスの目が大きく見開かれ、緑のレギオンの戦略を一瞬で理解した。
「なるほど、しかし今回1千の兵をお連れになっているのは?」とケビン。
「狙いはこちらの状況を把握するために先遣隊として送られたのです」
「ふっ、カケル様はよくよく心配性だな。 そんな建前は要らない。 ずばり我々が本当に戦える軍勢になっているのか確認するためだろう。 そして戦力に問題あれば解決するように言われたのだろう?」とアンドレアス。 ユウキも苦笑いをするしかなかった。
(どうするか。 確かにここでトウリン達が来た事は大きい。 彼らに兵の訓練を頼めれば、劇的進化もあり得る。 兵達がよそ者の指導を素直に受け入れることができればだが・・・) アンドレアスは腹を決めた。
「いま我らは急激に兵が増えたが、技倆の格差の問題を抱えている。 早急に全体の戦闘力の底上げができなければ、橙とまともに戦う事はできない。 頼む、力を貸してくれ」
「分かりました」とトウリン。
「団長、いいですか。 我々の多くは傭兵だった者や、自慢できない経歴を持つロクデナシどもばかりです。 いくらレギオンの者と言えど、容易に指示に従うとは思えません」とケビン。
「従わせるのだ。 そんな事を言っていたら我々は何万いても勝てないぞ」
「まあまあ、こうしては如何でしょう。 我々とそちらの精兵5千とで模擬戦をやりましょう。 我々の実力を知れば大人しく従うようになるでしょう」とトウリン。
「なるほど、そうしよう」アンドレアスは口に笑みを浮かべた。




