36-6 銀の新王
シーウエイ達の動きは速かった。 その日の内に、王都から約150キロ北にある、商業都市ボリスを飛空船で訪れると、市長や経済界の重鎮達に会い次々と支持を取り付けたのだった。 そして市庁舎を臨時のレーギアを設けると、市民に対してシーウエイが新王として立ったことを宣言したのだった。
シーウエイ王は次に周辺の小国に、自分が王として立ったこと、自分に対して今まで同様の忠誠を誓うように、使者を出した。 そして王都や他の都市に向けて、一斉の“映像鏡”による放送を行なったのだった。 そこでシーウエイは、自分がバラス王から後継者として指名され、正式に王になったことを宣言しその証である銀色に輝く天聖球を示した。 フレアもそれが正しいことを証言した。 そして、自分がこれから王都に向い、王としての政を行なう事を宣言し、軍は王である自分に忠誠を誓うように、人々には王の下に平穏が約束されると宣言した。 これによって軍の兵士達には動揺が広がった。 このままギリオンに従っていては、自分達が反乱軍になってしまう恐れがあるからである。
3日後、シーウエイ達は王都へ向って進軍を開始した。 当初護衛の兵は6千だったが、進むに従い都市の警備兵や一般人まで付き従い次第に長い行列になった。 3日目にはギリオンから離脱し、王に従う兵達も現れ、王の軍勢は5万近くにふくれあがった。
ギリオンは焦っていた。 王が亡くなった時は喜んだ。 自分は軍の最高司令官として軍を掌握していたし、後は天聖球を手に入れるだけだった。
「クソッ、どこで間違えた。 なぜシーウエイなのだ」 ギリオンは自分の机の書類をぶちまけた。
「兵を王都の前に集めろ、シーウエイ達を叩き潰す」
「しかし、シーウエイ様は王を宣言されています。 シーウエイ様と戦うと言うことは、我々は反乱軍になってしまいます」と副官が応えた。
「シーウエイは偽王だ。 天聖球は偽物だと言うのだ」
「しかしあの天聖球は本物です」
「分かっている。 だがそれしかないのだ」
「シーウエイ様に帰順されては如何でしょう」
「今更そんなことができるか。 つべこべ言わずにやれ」
「はっ」
二日後、王都の郊外にシーウエイ王が到着した時には、軍勢は10万に膨れあがっていた。 それに対し、ギリオンの軍勢は3万に足りなかった。 当然兵の士気も違っていた。 シーウエイの兵の血気盛んなのに対して、ギリオンの兵達はいつ逃げ出すか機会を伺っているようだった。
両軍が睨み合った。 ギリオンは、前面に戦車を並べ砲塔をシーウエイ達に向けた。
「数的には我らの勝ちは動かないと思いますが、あの戦車は厄介ですね。 被害はかなりの数に上るでしょう」とフレア。
「いや、そうはさせない」 そう言っているところへ、数十人の人々が戦場に現れシーウエイ達のところへ向って行った。
「何だ、奴らは?」とギリオン。
「あれは財務大臣のクレハス様です、外務大臣も他の重臣達も一緒です」と副官。
「クソッ、レーギアもシーウエイに従うと言うのか」 兵の動揺は更に広がった。
「シーウエイ王、我々は新王に従います」クレハスはそう言うと、シーウエイの前に跪いた。 他の重臣達も同様に跪いた。 シーウエイは事前にクレハス達に連絡を取り、これを演出させたのだ。 次にシーウエイは拡声器でギリオンの兵士達に呼びかけた。
「我が親愛なる兵士諸君、これ以上過ちを犯すな。 いま武器を捨てて投降すれば一切を不問にする。 最後まで抵抗し、家族にまで反乱者の汚名を残すことはない。 ギリオン、もう終いにしよう。 貴方も悪いようにはしない」
「ググッ、惑わされるな! 撃て!」 ギリオンは命じた。 その時、ギリオンの背後で銃声がすると、ギリオンが撃たれた。 それと同時に多くの兵が武器を捨てシーウエイの方へ走り出した。
「ギリオン様、しっかり」副官が助け起こしたが、ギリオンは思いもよらず撃たれ、レムで強化もしておらずそのまま絶命していた。
こうしてギリオンの野望はアッサリ潰えてしまった。シーウエイは、レギオンに入ると正式に内外に向けて王になったことを宣言した。